生命の試練
ついに第99階…。
100階の玉座は、もう目の前!
しかし、そこで待ち受けていたのは、かつてないほど「理不尽」で「残酷」な試練だった。
相棒ブリッツを襲う、一分ごとの死。
光属性の魔法が禁じられた絶望の中で、ハーベルは薬剤師として、そして魔導師としての真価を問われる。
涙を拭う暇さえない、時速数百キロの決死行が始まる。
「……いよいよ、99階か」
「ああ、相棒。ここまで来たら、もう行くしかねえな!」
ブリッツと拳を合わせようとした、その時だった。
「99階『生命の試練』へようこそ。……アーティファクト【命の泉】のご用意を」
受付嬢のような清楚なドワーフが、無機質な笑みを浮かべて現れた。
目の前に広がるのは、虚無の中をどこまでも続く一直線の白い道。
「ゴールは100km先です。……では、スタート」
――プシュッ。
「……あ」
乾いた音と共に、ブリッツの脇腹に黒い矢が突き刺さった。
どこから放たれたのか、魔力探知ですら捉えられなかった。
「ブリッツ! ――《レストレーション》!!」
ハーベルが叫ぶが、光の輪は霧散し、傷口は塞がらない。
「……無駄ですよ。この階層は『光属性禁止』。その矢には一分ごとに命を奪う死の呪いが刻まれています」
「っ……ふざけるな!!」
ブリッツが血を吐き、その瞳から光が消える。
「ブリッツ!! 嫌だ、目を開けろ!!」
ハーベルは震える手で【命の泉】をブリッツの口に注ぎ込んだ。
「……う、げほっ! はぁ、はぁ……ハーベル、俺……今、死んでたか?」
「ああ、よかった……本当によかった……」
泣きながら抱きしめるハーベル。
だが、残酷なカウントダウンは止まらない。
一分後…。
ブリッツは再びガクリと項垂れ、事切れた。
「……一分ごとに死ぬ? 100km先まで? そんなの、ブリッツが壊れちまうだろ!!」
「それが試練です。……さあ、どうなさいますか?」
ドワーフの胸ぐらを掴もうとしたハーベルの手を、蘇生したばかりのブリッツが止めた。
「ハーベル……行け。俺なら、何度死んでも……お前を信じてる。だから……」
そう言って、三度目の死が相棒を連れ去る。
「……ああ、分かった。……もう、絶対に待たせない」
ハーベルの瞳から感情が消え、極低温の殺意が宿った。
彼は《無限収納袋》から、以前で、浄化した【マーキュリアルスタッフ】を叩きつけるように取り出した。
「《設定》、形状変更:音速の騎獣。……最高速度を定義。ブリッツ、掴まってろ……いや、抱きしめててやるからな!!」
伝説の杖は、ハーベルの怒りに応えるように猛々しい流線型のフォルムへと姿を変えた。
ハーベルは事切れたブリッツを胸に抱き、杖に跨がる。
ズドン!!ドォォォォォォン!!
衝撃波が空間を揺らし、ハーベルは時速数百キロの世界へと爆発的に加速した。
景色が線になり、鼓膜を劈く風切り音の中、ハーベルは一分ごとにブリッツを蘇生させ続けた。
死んでは生き返り、恐怖に震えるブリッツを強く抱きしめ、ハーベルはただ前だけを見る。
「ごめんな……ごめんな、ブリッツ!!」
涙が風に剥ぎ取られ、真後ろへと飛んでいく。
ギュイーーーーン!!
何十回、ブリッツの鼓動が止まるのを感じただろうか。
精神が狂いそうなほどの自責の念。
それでも、止まることは許されない。
「あそこか……!!」
光り輝く100km地点。
ハーベルは滑り込むようにゴールを駆け抜け、そこにある【復活の書】へ血の滲む手で触れた。
……静寂。
「……はぁ、はぁ、はぁ……っはぁ!!」
ブリッツが大きく息を吸い込み、跳ね起きた。呪いの鎖が完全に消え去ったのだ。
「……ハーベル、お前……顔、すげえことになってんぞ」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃのハーベルを見て、ブリッツが力なく笑う。
ハーベルは何も言わず、ただ相棒の温もりを確かめるように、いつまでも、いつまでも離さなかった。
数分後…。
ゆっくりと立ち上がったハーベルの背中からは、かつての温和な薬剤師の気配は消えていた。
「……よくも、ブリッツを。……よくも……くそーーー!!」
地響きのような怒号が、99階の虚無にいつまでも響き渡った。
その怒りは、ついに100階の玉座に座る「王」へと向けられる。
あまりにも理不尽な99階。
大切な仲間を何度も失う痛みは、ハーベルを真の「魔導王」へと変貌させる引き金となりました。
薬剤師が、癒やすためではなく「守るため」に怒る時、その力は神をも超える。
ついに、100階の扉が開きます。そこに待つのはレオンか、それとも――。




