エクストラステージへようこそ!
第99階の地獄を越え、ついに100階への道が開かれた。
しかし、ハーベルの前に現れたのは、これまでの試験官とは異なる空気を纏った老執事クローヴィス。
彼が提示したのは、挑む必要のない「エクストラステージ」。
そこは、過去と未来が交錯する時計塔。
「未来を選ぶ力」を手にするため、ハーベルは新たな扉を叩く。
「……ブリッツ、大丈夫か? 顔色が戻ってきたな」
「ああ……心配かけたな、ハーベル。俺ならもうピンピンしてるぜ!」
相棒の温もりを確認し、ハーベルはようやく深く息を吐いた。
出口へと向かう二人の前に、燕尾服に身を包んだ一人のドワーフが立っていた。
これまでの傲慢な試験官たちとは違い、その佇まいは洗練され、どこか哀愁を帯びている。
「お疲れ様でした。……心中、お察しいたします。あのような無体な試練、本来であれば止めるべきなのですが……」
老執事は深々と頭を下げた。
「ハーベル様、おめでとうございます。99階突破です。このまま上の扉を開ければ、100階……『エレメンタル・サンクタム』へと至ることができます」
「やったな、ハーベル! ついにゴールだ!」
ブリッツが喜ぶが、老執事は言葉を続けた。
「……ですが、もし宜しければ『エクストラステージ』へお進みになりませんか?」
「はぁ!? 受ける必要ないんだろ? さっさと100階に行こうぜ!」
ブリッツが噛み付くが、ハーベルは老執事の瞳の奥にある「期待」を読み取った。
「……受けよう。これが、未来を拓くために必要なんだろ?」
「御明察にございます、ハーベル様」
老執事は一礼し、本来の順路ではない「隠された扉」を開いた。
扉の先は、巨大な歯車が複雑に噛み合う「無限時計塔」だった。
天井からは刻まれた歴史の重みを感じさせる光が差し込み、静寂の中にチクタクと時を刻む音だけが響いている。
「ハーベル様、お手持ちの【時の砂時計】を中央の祭壇へ」
言われるままに砂時計をセットすると、塔全体の歯車が唸りを上げて回り始めた。
カラカラカラカラ……。
「この塔は、かつての精霊王が遺した叡智の結晶。……ここで抜けている歯車を修復し、この【時の手鏡】で以前の姿を導き出してください」
ハーベルはブリッツと共に塔の内部を駆け巡った。
手鏡をかざせば、かつてそこにあった「正しい歯車の配置」が浮かび上がる。薬剤師として調剤の順序を守り、精密な作業を繰り返してきたハーベルにとって、この修復作業はむしろ心地よいものだった。
「よし!これで最後だ!!」
ガッチャン…。ギュン……ガチャガチャガチャ……。ボーーーーン!!
最後の一片がカチリと嵌まった瞬間、塔が黄金の輝きに包まれた。
「……成功にございます。ですが、ここからが本番」
老執事――クローヴィスは、静かにハーベルの前に跪いた。
「この塔の真の力は【アルファ・オメガ】。過去を覗き、無限に広がる未来の可能性から、最も『最適な未来』を選び取り、現在と繋げる力にございます」
「未来を……選ぶ力?」
「はい。この試練を受ける者は、歴代の挑戦者の中でもあなたが初めて。……多くの者は、99階の苦しみから逃げるように100階へ急ぎ、この『真の王の力』に気づかぬまま終わるのです」
クローヴィスは、かつての主を亡くしてから、この力を託せる主をずっと待っていたのだと語った。
そして、衝撃的な事実を明かす。
「……精霊界の各エリアは、今、滅びの縁にあります。精霊王になれなかったエリアは、そのまま消え去る運命。……ですが、この力を得た真の王であれば、すべてのエリアを救う『奇跡の未来』を繋げることができるのです」
「……全部、救えるんだな?」
ハーベルの問いに、クローヴィスは力強く頷いた。
「分かりました。俺が必ず、誰も犠牲にしない未来を選んで見せるよ」
ハーベルの宣言に、クローヴィスの瞳が潤む。
「……左様にございますか。では、これが正真正銘、最後の試練」
クローヴィスが両手を広げると、時計塔の背景が「始まり」と「終わり」が混ざり合う幻想的な空間へと変貌した。
カチャリ…ボーーン、ボーーーーン!!
「『黎明と終焉の試練』へようこそ。……ハーベル様、あなたの魂の物語を、ここで完成させてください」
ついに語られた塔の真実。
これまでのアーティファクトたちは、すべてこの「未来を繋ぐ力」を得るための鍵だったのです。
老執事クローヴィスの忠誠を受け、ハーベルはいよいよ「精霊王」としての覚悟を決めました。
過去の自分、そして未来の自分との対峙。
ハーベルが選ぶ「最高の未来」とは――?




