幻影の戦場
100階という頂を目前に控え、試練は一撃死の危険を孕む「戦場」へと変貌する。
アーティファクト【闇のローブ】を通さなければ見えない敵、そして実体を持たない「罠」。
「勢いに乗った者から自爆する」という悪趣味な試験官の仕掛けに対し、ハーベルの《エーテリアル・エンバー》が導き出す「正解」とは?
第98階。
「……さあ、いよいよ98階。ここを越えれば、ついに終わりが見えるぜ」
ブリッツが肩の上で身構える。
出迎えたドワーフが差し出したのは、漆黒の布地が蠢くような【闇のローブ】だった。
「これを着ている間だけ、この【幻影の戦場】の敵は見えます。……ただし、途中で脱げば即失格。幻影の中に混じった『本物』に殺されないよう、精々気をつけてくださいね」
ローブを羽織った瞬間、静まり返っていた闘技場に無数の軍勢が姿を現した。
「……なるほど。五感じゃなく、ローブを通した擬似視覚に頼らざるを得ないわけか」
ハーベルは《エーテリアル・エンバー》の照準を定めた。
「おい、ハーベル! 右からガイコツ戦士の群れだ!」
「分かってる。……でも、そいつらは無視だ」
「はあ!? 襲ってきてるぞ!」
ハーベルが動かずにいると、ガイコツたちの剣が身体をすり抜けていった。
「幻影か……。じゃあ、左の重騎士軍団は!?」
「……あれは『実体』だ。魔力の質量が違う」
ハーベルは宙へ跳ねると、《エーテリアル・エンバー》から広域破壊魔法を展開した。
「チェイン・ライトニング――墜ちろ!」
凄まじい稲光が闘技場を埋め尽くし、重騎士たちの鎧を文字通り丸焼きにする。
「……はぁ、はぁ。さすがに魔力消費が激しいな。次は何だ?」
地響きと共に現れたのは、闘技場を飲み込まんばかりの巨大な黒龍…。
グワォーーーー!!
その威圧感に、ブリッツが毛を逆立てる。
「……ハーベル、あれは絶対ヤバイ! 幻影だろ? 幻影だって言ってくれ!」
「……いいや。外殻は幻影だが、心臓部にだけ『極限まで圧縮された超高密度の魔力』を感じる。……あれに触れた瞬間、この階層ごと消滅する自爆トラップだ」
「なっ……じゃあ、攻撃できないじゃないか!」
ハーベルは静かに銃口を向けた。
モノクルを失っても、今の彼には微細な魔力の「流れ」を読み取る感覚が研ぎ澄まされていた。
「壊す必要はない。……その場から消えてもらう。――設定、《虚空の弾丸》!」
引き金を引くと、放たれたのは虹色に明滅する極小の弾丸。
それはドラゴンの心臓部へ吸い込まれる直前、空間そのものを歪める「孔」へと変貌した。
グォ………。
咆哮を上げる間もなく、巨大な黒龍は心臓部ごと別次元へと転送され、霧のように霧散していった。
静寂が戻った闘技場に、柱の影からドワーフが姿を現した。その顔には、隠しきれない驚愕と落胆が混じっている。
「……まさか、あの自爆トラップを見抜くとは。大抵の者は、力に溺れて最後の一撃で自滅するのですがね」
「薬剤師は慎重さが命なんでね。……それより、マールが言ってた。合格者が他にもいるって」
ハーベルの問いに、ドワーフは深々とお辞儀をして答えた。
「……ええ。驚くべきことに、現在99階に到達している者は、あなたを含めて『三名』。その一人は、漆黒の剣を振るう若き英雄……レオン様です」
「……あいつ、やっぱりもうそこまで」
ハーベルの胸が高鳴る。
「もう一人は?」
「……それは、頂上でご自身の目でお確かめください。……さあ、次が最後の試練。99階、第100階への門番がお待ちです」
ついに「三人の攻略者」という事実が判明!
一人は宿敵レオン。では、もう一人の正体は……?
ハーベルの《虚空の弾丸》も、魔導王への階段を上るに相応しい強力なスキルになってきました。
100階の扉を開くために必要なのは、強さではなく「生命」そのものの輝き!?




