霧の秘密
第95階…。
ついに残る試練もあとわずか。
深い霧に覆われた森で、ハーベルを待ち受けていたのは「姿の見えない狙撃手」だった。
毒矢に倒れた主を守るため、霊獣ブリッツがその小さな体で矢の雨に立ち向かう。
絆が試される霧の森。
そこで手にする「秘密のアイテム」が、未来の扉を開く鍵となる。
「……やっと95階か」
「相棒、あと少しだぜ!」
ブリッツの激励に頷きながら、ハーベルは門番のドワーフと対峙していた。
「若いの、アーティファクト【霧の指輪】は持っているな? 使いどころを間違えるなよ。……さもないと、霧の迷宮から二度と出られなくなるぞ」
扉の先は、1メートル先も見えない濃霧の世界。
「さっきの暗闇よりはマシだが……【霧の指輪】は一度使うと五分間は再使用できない。本当に視界が必要な時まで温存しないと」
ハーベルは手探りで、慎重に歩を進めた。
――シュッ! シュッ!
霧を切り裂く鋭い音が響く。
「ハーベル、矢だ! たくさん飛んできてるぞ!」
「……数が多いな。ブリッツ、後ろに隠れて!」
狙撃手の正体は、霧の中でも正確な視力を誇るネズミ人間「ホフビット」。
ハーベルは《エーテリアル・エンバー》を構え、魔力探知で応戦する。
だが、敵は次々と予備の武器を補充し、攻撃は止まない。
「……彼らも仕事なんだ。命までは奪いたくないけど……っ!」
不意に、一本の矢がハーベルの肩をかすめた。
「……あれ、急に目の前が……真っ暗に……」
「ハーベル!? クソ、毒矢か!」
視界が歪み、ハーベルはその場に崩れ落ちた。
意識が遠のく中、響き続けるのは無情な矢の音だけだった。
……ぽつん、ぽつんと、温かい雫が頬に落ちて目が覚めた。
「……雨? いや……血か?」
目を開けたハーベルが見たのは、ボロボロになりながら自分に覆いかぶさっているブリッツだった。
「お……起きたか、相棒。……おせーよ」
「ブリッツ! お前、その体……!」
ブリッツは飛来するすべての矢をその小さな尻尾で叩き落とし、毒に侵されたハーベルに魔力を注ぎ続けていたのだ。
自分自身の防護を捨てて…。
「……悪かった。もう大丈夫だ。――《フェニックス・レストレーション》!!」
ハーベルの怒りと魔力が虹色の光となり、ブリッツの傷を瞬時に癒していく。
「……あいつら、まだ撃ってくるか」
霧の向こうから放たれる執拗な追撃。
ハーベルの瞳から優しさが消え、鋭い冷徹さが宿った。
「殺しはしない。……だが、強制退場だ。――《設定》、弾丸定義変更。高濃度麻酔薬充填!」
《エーテリアル・エンバー》から放たれた無数の光弾が、霧の中の魔力を正確に撃ち抜く。
ズキューーン、ズキューーン…。
悲鳴すら上がらず、ホフビットたちは次々と眠りの底へ沈んでいった。
「……ふぅ。最初からこれを使えばよかったな」
「全くだぜ! 俺の苦労を考えろよ!」
ブリッツに頭をポカリと叩かれ、ハーベルは苦笑いした。
へへッ…。
その後、温存していた【霧の指輪】を使用し、霧の奥に隠された秘密の空洞を発見する。
そこにあったのは、古びた一冊の魔導書。
「……何語だこれ。今は読めないけど、何か重要なことが書いてありそうだ」
ハーベルはその魔導書を手に取り、最深部の祭壇へと捧げた。
カチリッ…。
世界の歯車が噛み合う音がして、次の階層への扉が姿を現す。
「ブリッツ。……さっきは、本当にありがとうな」
「……ふん。相棒なんだから当たり前だろ」
照れくさそうに尻尾を振るブリッツを抱き上げ、ハーベルは霧の晴れた森を後にした。
だが、ハーベルは気づいていなかった。
祭壇に捧げたはずの魔導書が、なぜか《無限収納袋》の中に「戻って」きていることに――。
ブリッツの熱い献身回でした!
ハーベルの新技「麻酔弾」も、元薬剤師らしい面白いスキルですね。
そして手に入れた謎の魔導書…。
次なる試練は、美しくも残酷な精神攻撃が待つ「花園」です。
100階まで残り、あと5階。二人の歩みは止まりません。




