魂の試練
精神の迷宮を突破し、次なる舞台は第92階「魂の試練」。
かつて大魔導師の魂を呑み込み、忌み嫌われる遺物となった【呪われた杖】を浄化せよ――。
不気味な洋館で出会う「ずぶ濡れの女」の正体と、最深部で待ち受ける老魔導師の正体とは?
ハーベルの「天然」と「キレ者」の両面が炸裂する!
「……次が92階か。休む暇もないな」
「ハーベル、ここの番人は少し癖が強そうだぜ」
ブリッツが警戒する中、入り口に立つドワーフが威圧的に問いかけてきた。
「おい、貴様。【呪われた杖】は持っているんだろうな?」
「ああ、これのことだろ」
ハーベルが《無限収納袋》から巨大なスタッフを取り出すと、ドワーフは目を丸くした。
「……まさか、本当に持っていたとはな。いいか、ここは【魂の試練】。かつて伝説の変幻杖【マーキュリアルスタッフ】に魅了され、魂を奪われた大魔導師を救い出すのが目的だ」
ドワーフの祈りを受け、ハーベルは重厚な扉を潜った。
扉の先は、冷気に包まれた古びた洋館だった。
「……うう、嫌な予感がするぜ」
肩に乗ったブリッツが身震いする。
「うう…うう…うう…グシュン…」
薄暗い廊下の先から、女のすすり泣く声が聞こえてきた。
ある部屋の扉を「ギギギ……」と開けると、そこには真っ白なドレスを着た、ずぶ濡れの黒髪の女性が立っていた。
「あの……大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかけるが、返事はない。
立ち去ろうとした瞬間、冷たい右手がハーベルの腕を掴んだ。
「……待ちなさい」
ゆっくりと振り向いたその顔は、水でふやけ、キャッチャーミットのように膨れ上がっていた。
「私……キ……レ……イ……?」
いつものハーベルなら絶叫して逃げ出すところだが、彼はその瞳の奥にある深い悲しみを見逃さなかった。
「あ、ああ……(まあ、個性的だけど)」
「じゃあ……結婚してえええええ!!」
一瞬で顔面スレスレまで迫る女。
ハーベルは覚悟を決め、その冷たい身体をぎゅっと抱きしめた。
「す、すみません! 俺、既婚者なので結婚はできましぇん!!」
噛みまくった拒絶に、沈黙が流れる。
「……ぷっ、あははは! 『できましぇん』って何よ、それ!」
女の顔が元の美しい姿に戻り、楽しげに笑い出した。
彼女は裏切りによって入水し、誰にも見つけられぬまま彷徨っていた亡霊だったのだ。
「少し、心が軽くなったわ。……ありがとう、薬剤師さん」
アミュレットをかざすと、彼女は希望に満ちた笑顔で光の中に消えていった。
杖の呪いが、一つ解ける。
さらに、進むと最深部の地下室。
そこには長い髭を蓄えた、いかにも「賢者」然とした老人が待っていた。
「よくぞ来た。若き挑戦者よ、私の汚れを払ってくれ……」
「具体的にどうすれば?」
「その杖を……私に返してくれればいい。そうすれば私は天に昇れる」
老人は涙ながらに懇願するが、ハーベルは違和感を覚えた。
これまでの亡霊たちは、最後は杖に触れるだけで満足そうに消えていった。
だが、この老人は「杖そのもの」に異様な執着を見せている。
「どうぞ、お返しします」
ハーベルが杖を差し出した瞬間、老人の目がゾンビのように血走った。
「早くよこせ!! それは私のものだ!!」
猛然と飛びかかってくる老人。
しかし、ハーベルは寸前で杖を引き戻し、その額に杖の石突を一発お見舞いした。
「痛っ……何をするんじゃ!」
「杖を奪って完全復活するつもりだったんだろ。……あんた、天国に行く気なんてさらさらないね」
「……バカめ! 気づくのが遅い!」
老人が強引に杖を奪い取り、高笑いと共に呪文を唱えようとした。
その時、杖が眩い黄金の【マーキュリアルスタッフ】へと変貌を始める。
「これで私は全盛期の力を――《マーキュリアル・シフ……》」
「はい、そこまで」
ハーベルが電光石火の速さで杖を奪い返し、杖先を老人の口に突っ込んだ。
「もがっ……げほっ、ぺっ、ぺっ!」
「悪いけど、悪党に貸す武器はないんだ。《マーキュリアル・シフト》!」
ハーベルが逆に詠唱を放つと、老魔導師の身体が煙に巻かれ、一匹の老犬へと姿を変えた。
「キャンキャン! ワンワン!」
何か喚いているが、ハーベルは無視して肩をすくめる。
「……さて、相棒。伝説の杖も手に入れたし、次に行こうか」
「ハーベル、お前……時々本当に容赦ねえな…」
ブリッツが呆れながらも笑い、二人は93階への階段を駆け上がった。
まさかの「呪われた杖」が「伝説の変幻杖」にランクアップ!
狡猾な老魔導師を老犬に変えてしまうあたり、ハーベルの容赦なさが光りました。
残る試練はあとわずか。
しかし、塔の最上層では「レオン」がさらに不穏な動きを見せています。
塔に隠された「もう一つの時間軸」が、二人の運命を交錯させます。




