精神の迷宮
新銃《Ethereal Ember SR99》を手に、無双の勢いで90階へと到達したハーベル。
しかし、そこで聞いたのはライバル・レオンが「二週間で一階から戻ってきた」という驚愕の事実。
焦燥の中、挑むのは第91階「精神の迷宮」。
魔法も相棒も禁じられた孤独な闇の中で、ハーベルは封印していた「前世の最期」と「幼少期の闇」を突きつけられる。
「……ついに、90階か…」
「ハーベル、顔が真っ青だぜ。一度、休もうか…」
ブリッツの言葉に従い、ハーベルは泥のように宿のベッドへ倒れ込んだ。
食堂へ降りると、給仕の少女が驚いたように声をかけてきた。
「お兄さん、10種類のアーティファクトを全部持ってるの? 凄い! ……一ヶ月くらい前かな、全部忘れて絶望してたレオンってお兄さんも、二週間で一階から戻ってきて全部集めてたわよ」
「……二週間で一階から?」
レオンの異常な攻略速度に、ハーベルの背筋に冷たいものが走る。
「……ブリッツ、悪い。すぐに行くぞ!」
「ああ、分かってる。アイツにだけは負けられねえもんな!」
91階――精神の迷宮…。
鍵となるのは【光のアミュレット】。
「ここでは魔法は一切禁止だ。ブリッツ、出口で待っててくれ」
「……死ぬなよ、ハーベル」
一人、真っ暗な迷宮へ…。
握りしめたアミュレットだけが、ハーベルの心拍に合わせて明滅している。
ある部屋に入ると、そこには巨大な「鏡」が置かれていた。
アミュレットを近づけた瞬間、耳を刺すような音が響く。
ゴトン、ゴトン、トントントン……。
「これって……分包機の音?」
記憶の底から、薬剤師時代の光景が溢れ出した。
鏡の中に映るのは、上司に罵倒され、すべての責任を押し付けられる無力な自分。
『君のミスだ。責任を取れ。許されるまで帰ってくるな!』
過労で霞む視界。震える指先。
そして――自宅のPC前で動かなくなった「俺」の最期…。
「……ふざけるな!!」
ハーベルの怒りに合わせ、アミュレットが激しく発光した。
鏡の中の「俺」に向かって、ハーベルは力強く言い放つ。
「逃げていいんだよ。責任感は大事だが、自分を殺してまで守る価値のある場所なんてない。……法的に戦う手段だって、いくらでもあったはずだ。気づけ、俺!」
鏡の中の薬剤師がハッとした顔で受話器を取る。
その瞬間、闇の記憶は霧散した。
だが、迷宮は容赦しない。
次に現れたのは【過去】【現在】【未来】と記された三冊の本。
【過去】の頁を開くと、そこには両親に捨てられ、施設でいじめられ、教師からも『クズ』と呼ばれた少年の日々があった。
「……やめてくれ!!」
涙が止まらない。
心の奥底に沈めていたドロドロとした孤独が、ハーベルを飲み込もうとする。
しかし、その闇を切り裂いたのは、今世で出会った人々の声だった。
ネル、エリス、レオン……そしてブリッツ。
「……今の俺には、守るべき世界がある。この痛みも全部、今の自分を作る糧だったんだ」
【現在】の本は眩いばかりの光を放ち、一点の曇りもなかった。
そして最後に開いた【未来】…。
アミュレットがこれまでにない輝きを放ち、ハーベルの脳裏に「予言」を焼き付ける。
高く昇る太陽と、寄り添う月。
そして――それらを囲むように浮かぶ、禍々しく巨大な「四つの黒い星」。
「あの星は、一体……」
光が収まると、そこは迷宮の出口だった。
「よっ、ハーベル! 酷い顔だぜ!」
肩に飛び乗ってきたブリッツの重みに、ハーベルは心底安堵して深い溜息をついた。
「ブリッツ…ありがとう…」
精神を削る過酷な試練。
前世の過労死、今世の孤児としての記憶。
それらを乗り越えたハーベルが見た「四つの黒い星」は、魔王軍、あるいはさらなる災厄の予兆なのでしょうか…。
ついに次は第92階、魂の強さが問われます。
物語はいよいよ、頂上へと加速します!




