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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
後編
170/171

第31章 イシガヤの反乱 07節

 「各艦、イシガヤさんの突撃に備えてくださいな。サイクロプス隊はすべて発進しなさい。ビーム攪乱膜は不要です。」

 セレーナ中佐が全軍にそう伝える。カリスト少佐の指示とは異なりビーム攪乱膜は展開しない。使用可能な砲数を増やすためである。イシガヤ艦隊側が使ってくる可能性はあるが、その時はその時であるし、移動中の無人艦隊がどこまで精密にそういった作業が行えるかというと疑問だからだ。

 「これで本当に突撃してくるの?」

 アリサが問うが、彼女の質問は尤もだ。友軍艦隊は整然と砲を並べているところに、イシガヤ艦隊が突っ込んでくるのだ。まさしく七面鳥撃ちになることは目に見えている。

 「来ますね。」

 「来ますわね。」

 だが、ヤオネとセレーナはそう頷く。絶対に来る、そういった確信をもっての言葉だ。

 「アリサ様も早く出撃を。アカムネ様やシゲノブ様も出撃をお願いしますわ。バーン少佐は全軍の統率をお願いします。」

 「大丈夫なのかしら?」

 戦場経験の少ないアリサがそう問うが、あまりにも漠然とした聞き方だ。単に不安というだけのことである。

「イシガヤさんは奇手を用いるように見えて、実のところ前例に基づいての行動しかしてませんわ。先ほどのはよくある戦術機動で、カリスト少佐がフェドラー准将を撃破した際に使った戦術と似たようなものです。次は木星でやられた隕石をぶつける、みたいな行動でしょうね。おそらく艦を盾にサイクロプスでの乱戦に持ち込んでくると思いますので、サイクロプス戦は任せますわ。」

 そのため、新米将校に教えるように、セレーナ中佐は丁寧にアリサへ解説する。

 「了解!でも突っ込んでくる艦とかどうするの?」

 「最悪回避すればいいだけですわ。戦局次第ですから、まぁご覧いただければわかるでしょう。」

 回避方法やタイミングは……勘である。説明しようはない。

 「アリサ、考えるな、感じろ。」

 「バーンお父様は雑すぎるんじゃないかしら……」

 「それでいいんだ。よし、お前ら行くぞ!父だろうと義父だろうと、戦場で敵ならともかく倒してから考えろ。」

 バーン少佐は子供たちにそう伝える。戦場で余計なことを考えていれば戦死一直線だ。

 「でも……」

 だが、やはり心配症で実戦経験に乏しいアカムネが何か言いたげにするが……、

 「アカムネもシゲノブも心配するな。俺も親父を殺している。その時の俺の情けなかったところはニッコロにでもアリサにでも聞け。だが、それでも俺はこうしているんだ。殺した親類の命も国民の命も背負っている。それが嫌なら王族なんてやめちまうことだな。」

 そのようにバーン少佐に言われてしまえば、反論も不安も言いようがないのだ。実際に同じことを父からも言われているのである。

 「……わかりました。」

 アカムネが同意し、シゲノブも頷く。

 「よし、サイクロプス隊全軍発進だ!指揮も責任も俺がとるから安心しろ!アリサはアカムネとシゲノブを護衛しつつ後方から砲撃支援してろ。勝手に前に出るんじゃねーぞ?いざとなったら呼ぶからすぐ来い!」

 「了解!」

 バーン少佐はセレーナ中佐の指示を受けて、小隊ごとに艦の直掩として各艦の周辺に部隊を展開させる。距離的には艦が爆散する場合でもギリギリ回避できるであろう程度の距離である。

 「イシガヤ艦隊最大加速で突っ込んできます!正面よりミサイル多数!」

 「薙ぎ払いなさい。また、敵艦は全力で狙い撃ち撃破するように。」

 ビーム攪乱膜を展開していないため、イシガヤ艦隊のミサイル攻撃はそれほどの有効打として機能しない。一般的な砲撃戦同様に、使える砲門数が制限されていないからだ。ミサイル迎撃用に放たれる拡散ビーム砲などでそれらは撃墜され、主砲などでイシガヤ艦隊に砲撃が加えられていく。一方のイシガヤ艦隊からの砲撃は散漫としたものだ。勢いの割には損傷が大きいということだろう。

 「敵艦隊何かをパージしました。」

 「爆発しやすい動力や火薬庫などでしょう。相手はそのまま突っ込んでくるので、ぶつからないように気をつけなさい。可能な限り事前に撃沈を。」

 オペレーターの報告にセレーナ中佐は推測を述べる。

 「突っ込んで……?」

 「人がほとんど載ってないのだから当然でしょう。隕石と大差ありませんわ。敵のサイクロプスも後ろに控えているはずです。一緒に撃ち落としなさい。」

 横列に布陣するセレーナ艦隊は、全力で砲撃を続ける。横列とはいっても装甲艦は砲撃用の艦隊の真正面にいるわけでないので、後方艦隊の正面砲の射線は確保された状態だ。イシガヤ艦隊に対して圧倒的に優位な砲撃を展開できているのだが、相手が誘爆の危険が多い個所をパージし、慣性によって直進してくる都合、敵艦を爆散させて動きを止める、というのがどうしても不十分な状態だ。敵艦は複数の直撃を受け、船体に深刻なダメージを受けながらなお、その直進を続けるのである。

 「接触まであと約2分!半分は止めましたが、止めきれません!」

 「十分ですわ。各艦、敵の艦艇を避けるように上下に動きなさい。味方艦に注意し、なるべく左右への移動はしない様に。」

 セレーナ中佐の指示を受けて各艦は独自に回避行動とり始める。それは第二次ポエニ戦争でのザマの戦いを思い出させるようなものだ。ハンニバルの戦象を横列に並んだスピキオのローマ軍が回避してみせたように、セレーナ中佐率いる艦隊もまた、イシガヤの艦隊を回避してみせる。これが人間の指揮する艦であればそう簡単な話でもないが、相手は所詮無人艦隊だ。イレギュラーなことは起こせても、イレギュラーへの対応能力は知れている。例えイシガヤがイボルブの超能力による念派操作を行えたとしてもこの数である。限度というものがある。

 「順次接敵します!」

 その報告に、セレーナ中佐も手元のモニターを息をのんで注視する。イシガヤが想定外のことをしてこないかだけが心配だからだ。

 「バーン少佐、接敵した敵の撃破は任せましたわ。……各艦もサイクロプス隊は敵を近づけさせるな!各艦はレーザー機銃で応戦!出力は5割に落としなさい。近距離ですからサイクロプス相手にそれで充分です。多少味方艦に当たっても構いません。5割なら被害はそう大きくなりませんわ。」

 「敵サイクロプス、敵艦の陰から湧いてきます!」

 「各員奮戦まかせますわ!女神の加護を!」

 木偶と化してただ直進するだけのイシガヤ艦隊の陰から、サイクロプスが100機ほど展開を始める。艦砲射撃戦で艦に巻き込みかなりの数は減らせたようだ。それでも、100機ものサイクロプスに取りつかれるというのはゾッとしないものである。

 「イシガヤ機ペルセウス補足!……赤色に塗られています!」

 従来銀色に塗られていたペルセウスであるが、ここに来て真紅に塗られている。

 「……まるで親父のヘラだな。」

 そう呻くように呟くのは、サイクロプス隊を指揮しているバーン少佐である。以前に謀反を起こした彼の父でもあるイーグル先王の専用機ヘラと同じようなカラーリングにされていたためである。明らかに意図を持った塗装変更だ。

 「よし、女は度胸!あたしが仕掛けるわ!……ホーネット、いけ!」

 その一方、アリサの搭乗するケルベロスから6基のホーネットが放たれる。念波誘導式のビーム砲であり、6基も同時に操作できるのは、アリサの高いイボルブ能力を示しているものだ。

 「四方から狙って逃がさないんだから!」

 遠距離から放たれたホーネットがイシガヤ機を取り囲むようにして砲撃を加えるが……

 「ちょっとーっ!?何なのよアレ!」

 右手と正面、そして上部に展開されたホーネット3基はペルセウスの頭部バルカン砲によって即時破壊され、1基の攻撃は防御、1基の攻撃は回避される。残る1基の攻撃がペルセウスの肩部を掠めるが、その分厚い装甲に阻まれて致命傷には程遠いレベルだ。

 「アリサ、撃てばいいというもんじゃない。ちゃんと狙え。撃ったら自分の機体も回避させろ。イシガヤは割とエースだ。狙撃されるぞ!」

 「割とエースってどういうエースよ!」

 怒鳴りながらアリサはイシガヤ機への攻撃を続けるが、わずかな間にホーネットは6基とも破壊されてしまう。

 「当たらなければどうということは無いし、間合いが甘いぞ。」

 指揮をとりながらバーン少佐は冷静に娘のアリサにアドバイスを続ける。

 「そんなこといったってさー!」

 「よけろっ!」

 バーンの警告の直後、イシガヤ機から2基のホーネットが放たれる。イシガヤのイボルブの能力は高いとまでは言えないが、それでも実戦経験がアリサと比べれば雲泥の差である。アリサの操縦するケルベロスの肩部や脚部に攻撃を加えながら、その機体は急接近してくるのだ。

 「これはあれね、ホーネットだけならともかく突っ込まれると怖いっ!」

 冷静に言っているように見えて、アリサは完全にテンパりながら恐怖を口にする。

 「娘はやらせんよっ!」

 「当たり前だ、息子の嫁だぞ!」

 2機の間にバーンの駆るオルトロスが割り込む。バーン少佐の発言にイシガヤもまたそう返す。

 「アリサ、お前にはイシガヤの相手は荷が重い。俺と代わってサイクロプス隊の指揮をとれ。サイクロプス隊の指揮は女神隊のカリン中尉に丸投げすればいい。アカムネ、シゲムネ、お前たちは俺についてこい。ここでお前たちの親父を討つぞ。」

 「わ、わかったわ!アカムネ、シゲムネ、頑張るのよ!」

 アリサは抵抗せず父親のバーンの指示に従う。イシガヤを相手にするよりは、お飾りの指揮官をしている方が遥かにメンタルに良い。

 「りょ、了解。」

 「なんとか……!」

 一方で、逃げることができないイシガヤの息子たちは、王族としての義務感で恐怖と不安を何とか抑えながら、ベテランのバーン少佐にくっついていくのである。



 「アリサが退くか。まぁ、いい経験にはなっただろう。」

 パイロット能力もイボルブの能力もアリサの方がイシガヤより上手ではあるが、如何せん実戦経験に差がありすぎる。戦場において勝利をつかむのは、単に技量が高いだけの者ではないのだ。

 「だが流石にバーン相手では如何ともしがたいな。……女神の加護を。」

 イシガヤのつぶやきに合わせてペルセウスの機体が燐光に包まれる。ガディス・システムの強制起動である。

 「よし、いくか。」

 その声に、山吹色のショートストレートの髪を靡かせた少女の影が頷く。



 「ガディス・システムか。急に動きが良くなりやがって。だが……!」

 バーンは反応速度が上がったイシガヤ機に対して何故かイラつく衝動を抑えつつ、しかしそれでも彼の技量には及ばないイシガヤへの攻撃を継続する。

 「ホーネット、いけ!」

 バーンの放つホーネットがイシガヤ機のホーネットとまるでじゃれあいながら、イシガヤ機の周辺への攻撃を加え始める。バーンのそのホーネットを追うように攻撃を加えるのはイシガヤ機の方だ。バーン操るオルトロスのホーネットが、まるで猟犬のようにイシガヤのペルセウスに喰らいつき、その巨大なランスの柄を狙って執拗なまでに攻撃を繰り返す。それが最も脅威な兵装であるからだ。オルトロスはケルベロスのプロトタイプとして開発された機体で、ケルベロスに比べれば全体的な性能は劣るが、それでも専用機としては十分な運動性や防御力を有している。バーンの搭乗機は追加生産された2番機だが、性能はサタケの乗るものと同じだ。ペルセウスに比べて差があるとすれば、装甲厚さとランスによる突撃力である。一方で運動性能は勝っているため、王族専用機のプロトタイプといっても、そこまで大きな性能差はないのであった。だが、それでもペルセウスのランスを喰らえば致命打にはなりかねない以上、優先して排除する必要がある。

 「ガディス・システムが?……山吹色の?……ヤマブキ?……懐かしいとはいえ、ペルセウスの動きがイシガヤのそれではないが、しかしだ!」

 戦いの中で無意識に叫びながら、バーン少佐がイシガヤ機を抑えにかかる。圧倒的なイボルブの能力を持ちながらも、バーンのホーネットによる攻撃は6度目でようやくペルセウスのランスを捉える。マニピュレーターを壊すまでには至らなかったが、柄の付け根にビームが直撃し、ランスと持ち手が分離し使用不能に陥る。

 「やったか!?」

 だがその直後にオルトロスのホーネットとペルセウスのホーネットが互いにぶつかり、両方とも使用できなくなるのであった。だが、ランスが無ければ近接戦にも持ち込みやすい。ペルセウスにもビームサーベルは装備されているが、その威力はオルトロスのそれと大した違いはないからだ。

 「削る!アカムネとシゲノブは後ろからマシンガンで支援しろ。」

 「なかなか当たりません!」

 アカムネが言う。

 「当たらんでもいい。ともかくばらまけ。」

 「バーン少佐にもあたりそうです!」

 シゲノブがそういう。

 「当たってもいい。そう簡単にやられる機体じゃない。ともかくばらまけ!」

 バーン少佐が言うように、彼ら二人の技量ではイシガヤ機に直撃させることは難しく、乱戦の中でバーンに攻撃が当たる可能性すらある。だが、実のところ当たろうと当たるまいとそんなのは重要ではなく、当たったところで彼らの持つマシンガン程度ではペルセウスどころかオルトロスであっても撃墜することは難しい火力でしかないのだ。だが、ここで問題なのは敵を撃墜できるかどうかではない。弾幕を張って動きを牽制することと、王族である二人が実際にイシガヤと戦っている、という画が欲しいというのが実情である。政治にさほど関心のない彼ではあるが、実際に彼自身がその手で父親を討つことでフルーレ家一門の助命を嘆願した事実もあるし、今回はヤオネやセレーナから何度と重ねて指示を受けているところだ。アカムネかシゲノブが泣こうが喚こうがその父親であるタカノブを攻撃させて、可能であればできる限りアカムネにとどめを刺させろ、というのがそれである。

 「わかりました!」

 「了解です!」

 支援攻撃を受けながら、バーンがイシガヤに迫る。



 「イシガヤ!……一つ聞いておきたかった!」

 幾たびの剣戟を交わしながら、バーン少佐はイシガヤに直接回線を繋げる。

 「今更話すほどのことはないが。」

 とはいえ、戦闘さえしていなければ気の知れた仲である。平文ではなく暗号回線だが、戦場を何度も伴にした彼らであればこそ、言わずともすぐに繋げられる専用コードである。

 「……ペルセウスはなぜ息子に譲らなかったんだ?」

 バーンが問う。ペルセウスは王族専用機の中でも耐久性に優れ、命を預ける機体としては優秀である。子供らを大切にしていたイシガヤが、その機体を譲らなかったというのは疑問ではあるのだ。

 「なるほどな。今回には間に合わなかったが、シゲノブには専用機を作らせている。ペルセウスは俺専用に開発したからピーキーすぎる。それに……」

 「それに?」

 ピーキーというのは表面的な理由だ。

 「…………こいつは、ヤマブキの棺桶でもあるからな。息子らにはやれんよ。」

 「……一理あるな。」

 ヤマブキは石狩会戦で戦死した彼の妻の一人である。当時彼女はイシガヤのペルセウスを勝手に持ち出し、そして戦闘時に戦死している。その機体を、彼はずっと乗り続けてきたのだ。

 「そして俺の棺桶でもある。……蓮の花にしては無骨に過ぎるが、そろそろ決着だな!」

 イシガヤ達がサイクロプス戦をしている間に、すでにイシガヤ艦隊のサイクロプスはほぼ壊滅している状況だ。セレーナ艦隊にも被害は出ており、3隻撃沈と2隻中破、サイクロプスも13機ほど大破しているが、イシガヤ艦隊の残数は残り数機と圧倒的な差での決着である。イシガヤが前線に出ていてまともに指揮が取れなかったというのもあるかもしれないが、数で押し切ったセレーナの勝利である。

 「接近戦で負けるかよ!」

 そう吠えるバーン機がイシガヤ機と交差する。交差するたびにお互いのビームサーベルが火花を散らすが、ガディス・システムを用いてパイロット補正をかけているペルセウスがなお劣勢だ。ヤマブキ色の光を放ち、宇宙空間をその加速力で縦横に移動しながらの近接戦闘で、ペルセウス側は運動性こそ高くはないが、加速力があるスラスターでどうにかバーン機との距離を適切に保っている状況である。

 「ちぃっ!」

 が、それもそう長くは続かない。

 「あ、当たりました!」

 支援の銃撃を続けていたシゲノブ機のマシンガンの弾が、ペルセウスのスラスターノズルにまぐれ当たりして、その噴射口を捻じ曲げる。

 「シゲノブか!?よくやった!!」

 姿勢制御のため出力を落としたペルセウスにバーンのオルトロスが迫る。いかにペルセウスとて、ビームサーベルを直撃させて焼き切れば装甲も焼き切れないわけではない。イシガヤ機はヘッドバルカンを放ちながら距離を取ろうとするが、それも所詮は無駄なあがきだ。

 「喜べイシガヤ!」

 バーンのオルトロスがペルセウスを袈裟懸けに斬り、その頭部を破壊する。イシガヤもまた無抵抗ではなく、オルトロスの右足を切り飛ばすが、それでもバーンの方が技量は数段上だ。

 「これでしまいだ。」

 ペルセウスのバックパックを斬り壊し、オルトロスはそのままペルセウスに組み付く。

 「イシガヤ、言い残すことはあるか?」

 「もう言った。」

 「よし。アカムネ!早くヤれ!俺には当てるなよ!」

 「は、はい!」

 「ちがう!サーベルでだ!」

 マシンガンを構えようとしたアカムネを、バーン少佐は一喝する。そんなもので落とせたら苦労はしない。

 「はいっ!」

 アカムネの乗るアマテラスが加速し、そして両機に接近する。

 「父上……」

 だが、イシガヤは息子のアカムネに通信は繋げない。彼が回線を繋げているのは、バーン少佐にだけである。

 「バーン、すまんな。後は頼む。セレーナにもよろしく言っておいてくれ。」

 「わかってるさ。……俺の親父と同じだからな。」

 真紅に染められたペルセウスを見ながら、バーン少佐はイシガヤの要望を受け入れる。

 「お前の親父のイーグル先王は名君だったぞ。早く生まれすぎただけだ。」

 「……そうだな。」

 「ではさらばだ。地獄で待ってる。」

 「おう。ヤマブキやギンによろしくな。」

 直後、イシガヤのペルセウスのコクピットに、アカムネのアマテラスがビームサーベルを突き刺す。無数の金属の粒子がイシガヤの体を貫き、宇宙の深淵に瞬く星々のように、その身体を煌めかせ蒸発させる。そして……、そのそばを、彼の軍旗であった南無観世音菩薩の旗がはためきながら、どこか虚空の先へと流れていくのであった。



 観世音菩薩の慈悲はまるで海の如く

 波の満ち引きは憎しみをも洗い流し

 さざ波の音は怨嗟の声をもかき消し

 湛える水は敵も味方も全て受け入れ

 憐みと慈しみの姿をそこに現すのだ



 「……よくやった。アカムネ、勝鬨をあげろ。」

 コクピットが確実に消失していることを確認し、バーンがそうアカムネに告げる。

 「はい……」

 呆然としているアカムネを、その機体であるアマテラスをオルトロスで小突きながらバーンが告げる。

 「こちらセレーナですわ。すべての敵も掃討完了しております。アカムネ様、よろしくお願いしますわ。」

 セレーナ中佐からもそう催促の通信が入る。さすがのもので、既に部隊の収拾は始まっており、混乱一つなく帰還準備が始まっている。先のクスノキ艦隊への救援部隊も編制中だ。その中で、アカムネは元帥としてやるべきことを求められるのである。

 「伊達幕府元帥、征東将軍伊達大納言藤原朱宗より、全国民に告げます。逆賊である石ヶ谷隆信は我が手によって討ち取りました。これで、私たちの戦争はおしまいです!」

 アカムネの声は僅かにかすれているが、気丈に最後までそう告げる。その父を直接殺した直後ではあるが、元帥とあってはそんな感傷に浸って軍務をおろそかにすることは許されない。人間らしさなど、置き去りにしていかなければならないのだから。


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