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第8話 リアナさん、すっ飛ばす!

「え? なにこの声?」


『このまま貴様の脳天を噛み砕いてやろうか?』


 その言葉と同時に眼前の飛竜がその(あぎと)を大きく開いた。


「やめろ! その女性に手を出すな!」


 アルファリオ殿下が焦燥感を剥き出しにして叫んでいる。


「まさかこの声、漆黒の飛竜、あんたなの?」


 あたしが物怖じせず尋ねてみると、


『なん……だと……? 貴様、まさか我が言葉を理解しているのか?』


「うん、そうみたいだ。話ができるんなら早いね。悪いんだけど、この手離してくれない? 下にいる殿下がさっきから心配そうにしてるんだ」


 あたしの言葉を聞いて、漆黒の飛竜はチラリ、と足元にいるアルファリオ殿下を見やる。


『……そんなことは知らぬな。我は誇り高きエインシェントドラゴンの一族。ニンゲンなぞに舐められては沽券にかかわる』


「なあ、なんであんたはあたしがあんたを舐めてると思ってるの?」


『貴様の不可解な魔力、そして貴様のその態度よ。我を眼前において、畏怖することもなくずけずけと物申すその図々しさ。それが我を舐めていると言っている』


「なるほど。だけどそいつぁ違うよ。あたしはさ、あんたを……いや、あんたのことがひと目見た時から気に入ってたんだ。要は、好きになっちまったんだよ。だから怖いなんて思わなかった」


『な、なんだと……?』


「あんたはあたしの昔の……相棒にそっくりなの。あたしのゼファーに……。その極上のボディ、真紅の瞳、猛々しさ。その全てに惚れちまったんだ。だから、あんたを舐めてるなんてとんでもない。あたしはあんたが大好きなんだよ」


『……』


 飛竜は言葉をやめ、再び最初の時と同じく「グゥルル……」と唸り声を少しあげて、あたしの顔をジッと見据えた。


『……く、くくく。かーっかっかっか! 我を恐れるどころか好き、か! 面白い! 面白いぞ小娘!』


「リアナくんッ!!」


 飛竜が大声で笑う声は、どうやら殿下には飛竜の憤怒のいななきに映ったようで、彼が再び必死な形相をしているのが見えた。


 それをあたしをニコッと笑って「大丈夫だ」と口パクして頷いて見せた。


『貴様の勝ちだ小娘! いいだろう、我の背に乗る権利を貴様には与えてやろう』


「マジか!? うっひゃああ! 飛竜の背に乗せてもらえるなんて夢のようだよ! サンキュね、ゼファー!」


『先ほどから言っているゼファーというのが、貴様の昔の相棒とやらか?』


「ああ。でも……あたしが殺しちまったんだ。あたしの相棒はあたしが……」


 あたしの運転事故のせいでゼファーも激しく損傷して大破した。

 あたしはその様子を見ながら気を失い、そして後を追うようにあたしも命を落とした。


『……ふん。ゼファー、か。悪くない』


「え?」


『悪くない名だと言っている。我のことを呼ぶ時はその名でも良い』


「ははッ! そっか! じゃあ今からあんたはゼファーな! あたしのことはさ」


『リアナ、だろう?』


「ああ、それで頼む。ところでゼファー、あんたは人の言葉を全て理解してるんだね?」


『無論だ。貴様らニンゲンどもには我ら竜語の思念波は理解できんだろうがな』


「そうみたいだね。でもあたしはなんであんたの言葉がわかるんだろ?」


『それが貴様の魔力なのだろう。貴様はどうやら神々の魔力を秘めているようだ。古来より神々の魔力を宿す者だけは我ら竜族やその他、知性の高い魔族や魔物の言語を理解できるそうだからな』


「へえ。それがあたしの特質系魔力なのかな?」


『そういうことであろうな。さて、そろそろ貴様を降ろしてやろう』


 そう言うと漆黒の飛竜、ゼファーはあたしを優しく地面へと降ろしてくれた。


「だ、大丈夫かリアナくん!?」


「うん、平気だよ。心配かけて悪かったね、殿下」


「そうか……。それにしてもこの飛竜があれほど取り乱すなど、初めて見た……」


「へへ。でもさ、あたしはゼファーと友達になったよ! 背中にも乗せてくれるって約束したの!」


「な……!? に、俄かには信じ難いが……ほ、本当なのか……?」


 アルファリオ殿下がゼファーを見上げると、ゼファーは素直にこくん、と大きな頭を縦に振った。


「は、ははは。リアナくん、やはりキミは……素晴らしいな! 私の見立て通りだ!」


「あー、そういえば試験とか言ってたよね? それってあたし、どうなんの?」


「無論、合格だ。本来ならこのエインシェントドラゴンである漆黒の飛竜との挨拶の時、少しでも飛竜がリアクションを見せればそれだけでも合格だったのだ」


「へえー。そうなんだ?」


 と、あたしがゼファーを見上げると。


『……多少素養がありそうなニンゲンには、軽く挨拶をしてやっていたからな』


 と、言っていた。


「それではリアナくん、キミは今この時からジルドワール王国竜騎士団の一員だ。そしてキミには今日からこの王宮敷地内で暮らしてもらおうと思う」


「え?」


「竜騎士団の宿舎がキミの新たな住居だ。リンドバーグ家に帰ることはないのだから問題はないだろう?」


「で、でもあたしは実家のメヴィウス領に帰ろうかと思ってたんだけど……」


「む、そう、なのか。だがキミにはなんとしても竜騎士団に入って欲しい。この通りだ」


 アルファリオ殿下は突然頭を下げた。

 まさか殿下ともあろうお人が頭まで下げるなんて……。


「い、いやいや。殿下、頭をあげてください!」


「頼むリアナくん!」


「わ、わかった。わかりました殿下! 竜騎士になりますから頭をあげてくださいってば!」


「そうか! ありがとう!」


 変なことになってしまったが、どのみち故郷のメヴィウスに帰っても両親をただ悲しませてしまうくらいなら、竜騎士にでもなって武勲のひとつでもあげてからの方がいいか。


 などと、あたしは気楽に考えた。


「では後ほど厩舎長と竜騎士団の団長らにも話を通しておく。詳しいことは後日、彼らに聞いて欲しい」


「わかりました」


「今晩は王宮内の客室を利用してくれ。また、着替えや食事などはこちらである程度用意するから心配はしなくていいぞ。何かあれば私が手配する侍女に話を通してくれ。それでは私はこれで失礼する」


 アルファリオ殿下はそう言い残すと、ゼファーに指示を出し、ゼファーも竜の厩舎の方へと飛び立ち、殿下も王宮の方へと帰って行った。


 それにしても旦那の不貞行為を騒いだら竜騎士になった、なんて……。

 本当に人生ってのはわけがわからないわ。


 などと思いながらあたしは空を舞う飛竜、ゼファーの背を見て「ははッ」と小さく笑った。


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