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第6話 アルファリオ殿下、すっ飛ばす!

「……んで、あんたはなんなのさ? あたしをこんな所に連れ込んで、何が目的なのよ?」


 アルファリオ殿下に言われるがままついて行ったその先は、このジルドワール王宮の一角にあった飛竜たちの厩舎の隣にある宿舎の三階に位置する、ひと部屋であった。


「改めて初めまして。私はアルファリオ・ジルドワール。この国の王子だ」


 やはりそうだった。

 それにしても王太子殿下がこんな部屋であたしに何をしようっていうの?


「ふふ。この部屋と隣接している部屋は、今誰も使われていないんだ」


 彼はそう言うと、ガチャリ、と部屋の扉を施錠した。


「……こんなひと気の無いところにあたしを連れ込んで何しようってのさ?」


 あたしは警戒し、後ずさる。

 こういう男は前世の時にもいた。


 身体目的だけの、変態クズ男!


「ついでに宿舎の騎士たちにも人払いするよう、話してある。間違っても誰かがここに来ることはない」


「へ、へぇー……あ、そう……」


 なるほど。この男はやはり、つまりそういうことなのだ。


 王太子殿下という立場を利用し、女を食い物にする。

 あたしは男に身体を許したことはないし、なんなら前世の頃から今に至るまでキスすら未経験だ。


 ルドルフとは結婚してからずっと身体を求められてきたが、あたしが頑なに拒否していた。

 無論、夫婦なのだから夜の営みの大切さは理解していたが、単純にあたしの覚悟が足りなかった。


 ……好きでもない男に、触れられるのは嫌だったのだ。


 リンドバーグ家との縁談を持ちかけられ、ルドルフと出会い、アイツを好きになろうと努力はしてみたが、どうしてもアイツのことは好きになれなかった。


「単刀直入に聞く。ルドルフはどこまでやった?」


 なんというストレートな質問。


「んなっ、何もしちゃいねぇよ」


「嘘を吐くな。ラファエル卿から聞いている」


「は? 何よそれ? あたしはあんな奴とは何もしちゃいない」


「隠さなくていい。正直に答えてほしい」


 ふーん、人の情事を知りたがる王子様ってわけ?

 こいつもルドルフと同じでヤバい奴ね。

 あたしが求めてた、心ときめくような色恋沙汰なんて、やっぱりあたしなんかには訪れはしないんだわ。


 クズ男のあとは、権力を振りかざした王子に慰みものになるのがオチ、か。


「手を握られたくらいだよ! それ以外は本当に何もない!」


「違うだろう!」


 あたしは思わずギョっとした。

 突然アルファリオ殿下が声を荒げたからだ。


「もっと色々されたはずだ!」


「ささ、されてねーよ! なんだよ色々って!? むしろ無理やりされてたらぶっ殺してやったよ!」


「それは知っている! だからこそキミはルドルフを蹴り飛ばしたのだろう!?」


「あん!? なんかよくわかんねーけど、それはアイツに頭を引っ叩かれたからだよ!」


「ほら見ろ! やはりやられているではないか!」


 ……ん?

 なんだか少し話が噛み合わないぞ?


「頭を強く叩かれた以外には何もされていないのだな!?」


「そ、そうだけど……あんたは一体何を言ってんの?」


「そうか、それなら良かった。私はキミがリンドバーグ家にて、粗末な扱いを受けていたことを聞いていたからな。どんな酷い体罰をされていのかと聞きたかったのだ」


 あ、そういう……。


「ルドルフは女子供にも平気で手をあげる、あまり評判の良くない男でな。ラファエル卿も不出来なご子息に手を焼いているようなのだ」


「そ、そう……。でもそんな話なら別にこんなひと気の少ない所じゃなくてもいいんじゃ……」


()()()()ルドルフの悪評があまり広まってはまずいのでな。まあ、それはこちらの話だ。気にするな」


「ふーん? まあいいや。それで、あたしはもうリンドバーグ家とは縁を切らせてもらえるってことでいいのよね? あんたがさっきそう言ってたし」


「ああ。その手続きはすでにラファエル卿と話を進めてある。キミはもう金輪際リンドバーグ家に関わらなくて良い」


「あたしの罪については?」


「無論、全て不問だ。キミは無罪放免で、ルドルフとは離縁できる」


 よ、よっしゃぁああーッ!


 あたしは心の中でガッツポーズしてしまった。

 まさかこんな神展開になってくれるなんて、思いもよらなかった。


「ただし、ひとつだけ条件がある」


「え? な、何よ……」


「私のお願いを聞いてもらいたい」


 まさかコイツ、それであたしを手篭めにしようってんじゃ……。


「キミに竜騎士団入団試験を受けてもらいたいのだ」


「は、はいぃ?」


「実は今、竜騎士団は深刻な人手不足でな。おかげで適性未達の者でもなんとか無理を言って竜騎士になってもらっているのだが、色々と問題が多くてな。そこでキミに竜騎士になってもらいたいのだ」


「な、なんであたしなのよ?」


「私の見立てでは、おそらくキミには高い適性値があると踏んでいる」


「だから、どうしてあたしがそんな……」


「竜騎士にはな、欠かせない要素が二つある。ひとつは高い潜在魔力値。もうひとつは気概の強さだ。ラファエル卿から聞き及んでいるが、キミは非常に高い潜在魔力を秘めているそうじゃないか」


 この世界には『魔力』というエネルギー源がある。

 それは特に貴族の家系において強く発現され、その魔力の系統如何によって、その人物の人生設計に関わったりもする。


 火を灯す魔法、冷気を生み出す魔法、風を巻き起こす魔法……と、魔力の系統により様々な魔法を扱うことができる。

 属性には四大元素の地、水、火、風が基本と言われているが、それらに属さないもので『特質』系とされる系統もあった。


 そして確かにあたしには生まれつき高い『特質』系魔力がある、とは言われていたのだが、あたしはその魔力を上手く扱うことができずにいた。


 両親からもいつか何かの魔力が開花し、きっと魔法が扱える様になると言われ続けてきたが、それは18歳になった今も未だ未開花のままだった。


 まあ魔法や魔術が使えなくても別に困ることはないかと特に気にしてもいなかったけれど。


「キミの高い潜在魔力とその負けん気の強さは竜騎士にはうってつけだ。竜は気の弱い女には懐かないからな」


「そう、なの。ふーん……。まあ別に試験を受けるくらいなら……」


「そうか!」


 アルファリオ殿下は途端に顔を綻ばせてわかりやすいほどに喜びを表すと、


「それなら今から早速飛竜のいる厩舎周辺の庭へキミを連れていく。さあ、行こう!」


「え? い、いきなり? ちょ!」


 彼はそう言うやいなや、すぐにあたしの手を握って、部屋から連れ出して行ったのだった。


 ……それにしても全く、なんでこんなに話が色々とすっ飛ばされて進んでるのかしら。


 

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