第5話 偉い人、すっ飛ばす!
「ア、アルファリオ様!?」
宮廷裁判所内にある傍聴席の奥で、アルファリオと呼ばれたひとりの青年が立ち上がっている。
輝く様な銀髪にまるでエメラルドの宝石が飾られているような美しい碧眼の瞳。そしてあどけなさを残しつつも凛々しい顔立ちをしたその青年は、靴音を響かせながらあたしの方へ向かって歩み寄って来た。
「キミがリアナ・メヴィウスくんか。話に聞いていた通り……いや、それ以上の人物の様だ」
「ぁあ? なんだテメェ? あたしは今気が立ってんだ。馴れ馴れしく近寄って来てんじゃねーよ!」
あたしは正体不明の男に、ガンをくれながら威圧した。
どうせこの身なりの良さからして、こいつも宮廷貴族かなんかのお偉いさんなのだろう。
「キ、キミ! またそんな物言いを……! 一体このお方をどなただと……!」
「まあまあ、ガベルト裁判官。私は気にしていない。それよりこのリアナくんの判決なんだが、先ほど私が述べた通りの処分としてくれないだろうか?」
ハゲたおっさんはガベルトって名前なのか。
いや、そんなことよりこの銀髪の男は何者なんだ?
「し、しかしアルファリオ様……それではラファエル卿との話に齟齬が……」
「いいんだ。こういうことになるように、元々なっている」
さっきからハゲ裁判官とこの銀髪男は一体なんの会話をしているんだ?
と、あたしがハテナ顔をしていると。
「リアナくん。キミへの処分は先ほど私が述べた通りだ。ルドルフとは離縁し、リンドバーグ家とは絶縁とする。それで良いな?」
「そんなの、言われなくてもむしろこっちからお願いしたいくらいだよ! っつーか、あんたは何者なのよ?」
「こ、こらッ! リアナ・メヴィウス! こちらのお方はだな……!」
「あんたには聞いてねーよ、おっさん!」
「ぐ……」
あたしは突如現れたこの銀髪の、アルファリオという男をジッと見据える。
「改めて初めまして、私はアルファリオという。私のことは後で話そう。とりあえずキミは私と共について来てもらおうか」
「は? なんでよ?」
「キミの処遇については私に全権があるからだ。ガベルト裁判官、そういうことで彼女は連れていく」
「はあ……まあ、アルファリオ様がそう仰られるのなら……」
周囲の宮廷貴族たちもアルファリオという男に対して、敬意を払っているように見える。
「ちょっとお待ちください! 勝手な真似をされては困ります! その女は我がリンドバーグ家に対して大変な無礼を働いた者です! 我々はその者に極刑を断固求めます!」
そう声をあげたのはルドルフだ。
「キミがリンドバーグ家のご子息か。お父上には随分世話になっている」
このアルファリオ、という男の態度からするとリンドバーグ家よりも爵位が高い人なのだろうか。
「そうでしょう!? 此度のこの女についても陛下が我が父と懇意にしてくれたからこそ、裁判にかけてもらったわけですし!」
「ああ、そうだな」
「ですから、この場でリアナには厳しい罰をお与えください! でなければ到底我らリンドバーグ家としては納得が……」
「ほう。私の決定に不満がある、と?」
「そ、そうです! こんなふざけた女は極刑にすべきです!」
「駄目だ。リアナくんは私が貰う」
「貰う……!? アルファリオ様は彼女をどうしようと言うのですか!?」
「それはキミには関係がない」
「ふざけないでください! こんな女、後悔させてやらなくちゃ駄目です! さっきだってアルファリオ様に対してあんな口の利き方をしていらっしゃったでしょう!? あんなこと、絶対に許されない!」
「私が気にしていないのだから、いいのだ」
「ぐ……お、おかしい! おかしいです! 何故そんなにもこの女にだけ甘いのですか!?」
ルドルフは納得がいかないと、しつこく騒ぎ散らかしている。
とはいえ、当人であるこのあたしとしても、アルファリオという男が一体何故あたしに甘いのか、よくわからない。
「何故、か。それは帰ってからキミの父上に聞くといい。キミとの問答は時間の無駄だ」
「ア、アルファリオ様! お待ちください!」
「ではガベルト裁判官、私はリアナくんを連れていくぞ」
「は、はい」
ガベルト裁判官は頷いているが、ルドルフはいまだにもの凄い形相だ。
「ではリアナくん。ついて来てもらおうか」
「……わかったよ」
あたしに選択肢などない。大人しくこの偉そうな男の言うことを聞くことにする。
彼の背中を追いかける様に、あたしは後を追った。
それにしてもこの人は一体……。
「アルファリオ様! アルファリオ殿下ァッ!」
宮廷裁判所内に響き渡るルドルフのその言葉で初めてあたしは理解した。
この人は……まさか、この国の王太子殿下!?




