第4話 裁判官、ふっ飛ばす!
「……リンドバーグ家、ルドルフからの証言の通りで間違いはないか、リアナ・メヴィウス?」
宮廷裁判所は実に天井の高い、荘厳な建物の中で行われた。
そこで今回の件について、宮廷貴族の裁判官があたしへとそう問いかけてきた。
「間違いありませんが、肝心の原因について語られておりません。あたしが彼らに暴力を振るってしまったのも、元はと言えばルドルフ様の不貞が原因です」
あたしが答えると。
「それはあくまでリアナの勝手な妄想だ。僕は偶然街で知り合った女性とただ歩いていただけに過ぎない。不貞でもなんでもないし、なんの証拠もない。だがキミの不敬や暴力はこうして証拠が残っているッ! 見ろ! 僕のこの顔の傷を!」
別の場所の証言台にいるルドルフがそう答えた。
「……確かにルドルフの言う通りだ。リアナ・メヴィウス、キミの証言にはなんの根拠も見当たらない」
ハゲた頭のおっさん、もとい裁判官がそう言うと、全体の空気感が明らかにリンドバーグ家優位なように変わって行った。
ま、何を言っても無駄か。
ラファエル様が陛下と懇意なら、何をどう釈明しようと所詮あたしに勝ち目なんかない。
だからあたしは自分が助かる為に必死に言い訳をするつもりは毛頭なかった。
あたしがやるのは――。
「あー、そうっすか。んじゃもう処分についてはなんでもいいっす」
「なに……?」
あたしは偽りの『私』を完全に脱ぎ去る。
「裁判官さんやここにいる宮廷貴族のあんたらに何をどう言おうとどうせあたしの不利は変わらないっしょ? だったらあたしが言うことはただあたしの主観で起きた事実を述べさせてもらうだけ」
「おい、キミ。口を慎みたまえ。この場には王族の方もおられる宮廷裁判所なのだぞ」
ざわざわ、と屋内にどよめきが広まる。
「そんなの知らねー。あたしはおかしいと思ったことを言ってるだけ。あたしは家同士の話し合いで決まった流れとはいえそれに逆らうこともなく、このクソマザコン男、ルドルフと結婚した。リンドバーグ家に慣れようと頑張ってみたけど、蓋をあけたらとんでも家族の集まりだったから我慢の限界だった」
「おい! キミ!」
裁判官の男の言葉を無視してあたしは続ける。
「アマンダお義母様に言われた、結婚したら旦那の為に影で支えろ、くらいまではあたしだって理解したさ。けどねえ、そいつを理由にあたしにだけ嫌な仕事を押し付けたり、毎日嫌味をねちねち言ってきたり、意味のない作業をさせたり、あたしの家族を蔑んだりするのはどーなんだよ?」
「だから先ほども聞いているがそれに関する根拠が全くないと……」
「まあそれでも我慢したよ? けどさあ、あたしが花嫁修行中で必死こいてリンドバーグ家に馴染もうとしている最中、旦那は外で他の女とばかり遊んでるってのはおかしいだろって言ってんの」
「リアナ・メヴィウス! 私の話を聞きなさい! 繰り返すがその話には根拠が……!」
「だからさあ、あたしは離婚するってだけで話を終わらせようとしたんだよ。それを黙らせようとしてきたのは向こうだっつの。先に手を出しのはリンドバーグ家なの。どっちがおかしいのか、足りねぇオツム使ってよぉく考えてみろや!」
「なな、なんという暴言! キミは本当に貴族の令嬢か!? いや、それ以前に本当に女性なのか!?」
「うるせーばーか! あたしはれっきとした女だ!」
「こ、これほど下品な女性は見たことがない! キミは野生児か!?」
「あ? 馬鹿にすんじゃねー。女がみんな可愛らしくて慎ましくてお淑やかだと思ったら大間違いなんだよ、クソがッ!」
「く、クソ……。これでも私は宮廷貴族なのだぞ!? キミよりも遥かに立場は上だし権威もあるのだぞ!? そんな私に向かってクソ、だと!?」
「かんけーあるかよばーか。話の通じねー奴は人じゃねーんだからクソがお似合いだろうが!」
「話が通じないのはどっちだ! 先ほどからキミの発言は何もかもが理解し難い!」
「理解する気がねーからだろうがよ。馬鹿がッ!」
「ば、馬鹿だと!? この私を一体誰だと思って……王立魔導大学を主席で卒業し、数々の論文をだな……」
「テメェのことなんか知るかよ! クソ食って死ねッ!」
「ぐぐっ! い、いい加減にしないかリアナ・メヴィウス! もういい! キミへの処分は決定した! 情状酌量の余地など皆無だッ!」
「へっ。お好きにどーぞ」
チラリ、と視線を移すとマザコンルドルフがほくそ笑んでいる。
墓穴を掘ったなとでも言わんばかりの表情だ。
まあ、これでいい。
あたしはあたしを曲げてまで、誰かの顔色をうかがって生きるなんざ、まっぴらごめんだ。
「判決を言い渡す! リンドバーグ家に働いた暴行罪、並びに不敬罪、また、この厳正なる裁判所においての不適切な言動の数々。これらの罪によりリアナ・メヴィウスは……」
裁判官がそこまで言いかけたその時である。
「リアナくんは、リンドバーグ家との関係を今後一切断ち、絶縁とする」
そう言葉を響かせたのは、裁判官ではなく別の人物だった。




