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第3話 マザコン男、すっ飛ばす!

「へえ、あれが有名なジルドワール王宮なのね。素晴らしい建物だわ」


 馬車の窓から望める大きくて立派な宮殿を目にしてあたしはそう呟く。


「馬鹿なのかキミは。遊びに来ているんじゃないんだぞ。キミはこれから裁かれて、処罰を言い渡されるんだ。僕たちの証言次第でキミの人生は終わりなんだよ」


 馬車の中で憎々しげにあたしを睨みつけながら、顔中傷だらけのルドルフ様……もう様付けするのも馬鹿らしいわね。ルドルフがそう言った。


 先日のリンドバーグ家での一悶着の後、あたしは屋敷の使用人たちに取り押さえられて、しばらくの間小さな牢獄に入れられてしまっていた。


 そして数日後、あたしの罰は宮廷裁判所にて裁かれることが決定し、こうして両腕を縄で縛られて馬車で連行されている。


 まあ、当然の成り行きではある。


 いくら理不尽とはいえ、あたしは確かに手を出したし、不敬も働いた。

 自分が悪いこともわかっている。

 しかしそれでも多少聡明なリンドバーグ家当主のラファエル様なら話が通じるかと思ったのだが、結局はこういう形となった。


(……ま、もういいけどね、別に)


 あたしは別に今の結果に後悔していない。

 間違っていないと決めたのならどんな結末になろうとそれを受け入れる。


 それこそがあたしの信念なのだから。


 気がかりがあるとすればメヴィウス家の、あたしの両親くらいか。


 父と母はあたしにとても優しかった。前世でのあたしの親は筆舌に尽くし難いほどに酷かったからこそ、この世界の両親の優しさはあたしの心に沁みた。


 優しい両親の為にあたしはリンドバーグ家に嫁ごうと決めたからだ。


 それがこんな結果となってしまったのは非常に申し訳ないと感じているが、だからと言ってあたしはあたしの信念を曲げる気は毛頭ない。


 言いたいことも言えずに我慢を重ねて、筋を曲げてまで媚びへつらって生きるなんざ、まっぴらごめんだ。


「馬鹿な女だ。アマンダお母様に手をあげるだけに飽き足らず、この僕にまで暴力を振るうとはな。ラファエルお父様が陛下と懇意な関係なのを知らなかったのが運の尽きだな」


 ルドルフの言う通り、確かにあたしはラファエル様が陛下と懇意な関係であることまでは知らなかった。しかしまさか、たかが男女間のトラブルのことで宮廷裁判所にまで連行される羽目になるとは思いもしなかった。


「大人しくしていれば、ただ離婚させられるだけで済んだというのに。まあ、リンドバーグ家に逆らえばどうなるか、これからとくと思い知るが良い」


「……」


 あたしはルドルフの言葉を無視して、自分のこれからのことに覚悟を決めた。


 馬車に乗せられたまま豪勢な王宮の門をくぐると、広大な敷地の端に大きな宿舎が見えた。


 その近くには妙に大きな厩舎が窺える。


「王宮ともなるとあんなに大きな馬がいるのかしら?」


「ふっ。貧乏男爵家ではこのジルドワール王国が誇る武力の意味すら知らないらしい。馬鹿で無知なキミに教えてやるが、あれは馬の厩舎ではない。あれは我が国が誇る最強の生物、飛竜(スカイドラゴン)の厩舎だ」


「へえ。って、別にあんたに聞いてねーし」


「あ、あんただと……。キミは本当にまだ自分の立場がわかっていないようだな? 更に僕の心証を悪くすれば本当に死罪になってもおかしくないんだぞ?」


「どーでもいい。それよりその肥溜めよりもくせー口閉じてろクソマザコン野郎が」


「ぐ……、ふ、ふん。その態度をすぐに後悔させてやるからな。泣き喚いてももう許してやらないからな!」


「ばーか。誰が泣き喚くか」


「ぐぐ、ほ、本当に口の減らない女め……」


 馬鹿なマザコン男のことなど放っておいて、あたしは飛竜(スカイドラゴン)がいるという厩舎をジッと眺めた。


 確かによく見るとあの厩舎は屋根が空いている。なるほど、空から出入りする様になっているんだ。


 飛竜かあ。空を舞うことに特化した竜だということくらいは話に聞いたことある。

 叶うなら乗ってみたいけれど、どうせあたしにはそんな願いは叶わない。


 それよりこの先の裁判であたしはどうなるやら。


 なんて思っていると。


「止まって! そこの馬車、止まれ!」


 数名の騎士たちがあたしたちの馬車へと駆け寄り、静止を促してきた。


「急にすまない。この馬車は宮殿の入り口の方から来た様に見えたが、ここまでに誰か怪しい者を見なかったか? 厩舎から泥棒を働いた者がいて、今そいつを探しているんだ」


「怪しい者? いえ、私は見ておりませんが……」


 馬車の御者がそんな風に答えている。

 そういえば……と、あたしは思います。


「ねえねえ、あたしさっき変なやつ見たよ」


 あたしは馬車から顔を出して口を挟んだ。


「なんと! お嬢さん、それは本当か?」


「うん。さっきあの一番奥の厩舎から、黒い頭巾を被った奴が何か抱えて走ってた。多分、そいつだよね」


「そ、そうだ! 黒頭巾の不審者だ! どっちへ行ったかわかるか?」


「あっちの方だから……あたしたちが来た宮殿の入り口側とは真逆の方角かな?」


「そうか! ご協力、感謝する!」


 騎士たちは礼を言うと、あたしが指差した方へと走って行った。

 一体何があったんだろう。


「おい、リアナ。キミはそんな他人のことに構って余裕なんてないぞ。もうじき宮廷裁判所につく。そこでキミの人生は終わりなんだからな」


 クソマザコン男がいちいち嫌味を言ってきたが、あたしはもう無視した。


「今度は無視か? 少しはしおらしく謝罪したり反省したりする態度を見せてはどうなんだ?」


 私は返事代わりにルドルフを睨み付ける。


「な、なんだよ。また僕を蹴っ飛ばす気か? だがこの馬車の中でそんなことをしてみろ。今度こそ僕は正当防衛としてキミをこれで刺すからな?」


 ルドルフは少し刃渡りの長めのナイフをチラつかせて見せてきた。


 ……女相手にすらすぐにナイフをチラつかすなんて、本当にこの男はクソだな。


「まあ、もう今更キミがどんな態度を取ろうとも、キミは終わりだろうがな! 僕やお母様に手を出した罪は海よりも深いと思い知るがいい!」


「……」


 あたしはとことんコイツの言葉を無視した。


 こんな馬鹿との会話はすっ飛ばした方が賢明だ。



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