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第2話 旦那様、ぶっ飛ばす!

 あたしの言葉にダイニングにいたリンドバーグ家の一同はシンっと静まり返る。


「な、は? え? く、クソ、バ……ッ!?」


「あんたのことだよクソババア。ったく、いい歳こいてギャーギャー喚きやがって。クソやかましい」


 あーあ、あたしはもう駄目ね。

 でももう止めらんないわ。


「な……な……!?」


「リアナッ! キミはなんて言葉遣いを……! 今すぐ頭を地につけてアマンダお母様に謝罪しろ!」


 それまで黙していたあたしの旦那様であるルドルフ様が今度は激昂した。


「キミのような顔だけは多少マシな女を貰ってやった恩を忘れて、僕のちょっとした息抜きに文句をたれるだけでなく、僕の大切なお母様にまでそのような扱い! 僕はもう完全に怒ったぞ!」


 怒ってるのはこっちですお母様大好きのルドルフ様。


「怒ってんのはこっちだよ、このクソマザコン野郎が」


 あれ? 本音と建前が逆になっちゃったわ。まあ、いいや、もうどうでも。


「なーにが息抜きだよ。てめぇがやってんのは立派な浮気。不貞行為。人の道に外れたことをやってんだよ」


「それについては、僕が悪かったと先ほど謝罪している!」


「悪かったで済めばケーサツはいらねーんだよ馬鹿が」


「ケーサツ? は、なんだか知らないが、とにかくキミがそんな最低な女だとは思わなかった! まずは早くお母様に謝罪しろ!」


 このルドルフ様は顔はそれなりに端正だし、金髪のイケメンではあるけど、なにぶん性格は終わっていた。

 弱い者には強く、女に優しく無く、頭も悪く、性格も悪い。

 

 彼と私の関係進展は実にスピーディで、お互いのことを知る前にあれよあれよという内に結婚まで決まってしまったせいでもあるのだが、しかしそれでもこんな馬鹿男と結婚してしまったのは、単にあたしの人を見る目が無かっただけだろう。


「嫌だね、あたしは謝らねえ。あたしは間違ったことをしたと思っちゃいない」


「ふざけるな! キミがその気ならいいだろう! この僕の方から捨ててやる! キミのように僕の親を大切にできないような馬鹿な女はこちらから願い下げだ!」


「ああ、そりゃあ良かった! あたしもこれで心置きなくこの家から出ていけるのね! たったの一週間も満たない間でしたけど、お世話になりました!」


 離婚話を向こうから切り出してくれたので、あたしが意気揚々とダイニングから飛び出そうとすると。


「待て! そのまま素直に帰れると思っているのか? まずはお母様に謝罪しろ! そうしてその後は僕と共に王宮へ行くんだ!」


「はあ? なんで王宮なんかに行くのよ」


「キミの罪を罰して貰うためだ! まさかキミがこのような不届き者だとは思いもしなかったからな。僕のお母様に対する態度は罰してもらわない限り僕の気がすまない!」


「ルドルフちゃん……母様は嬉しいわ」


 マザコン息子の言葉にアマンダお義母様はうっとりするように呟いている。


「ごめんよお母様。僕が愚かだったよ。お母様の言う通り貧乏男爵家の娘など嫁に貰うんじゃなかったよ」


「いいのよルドルフちゃん。わかってくれれば母様はそれで十分だからね」


 なんとまあ……ここまで呆れ返るマザコンっぷりだったとは。


「お父様もそれでよろしいですね? 僕はこの愚かな女、リアナとは離婚し彼女はお母様に対する暴行罪と不敬罪について処分してもらうことで」


「……」


 ラファエル様だけは鋭い視線を崩さずに黙ったまま、返事をしない。


「ルドルフちゃん、ラファエルさんが黙っているということはそれでいいということよ!」


 アマンダお義母様は勝手にそう解釈している。


 ルドルフ様があたしのそばまで近づくと、あたしを逃すまいと左手であたしの右手首をギュッと力強く掴んできた。


「いた! 何すんのよ! 離しなさいよ!」


「キミがそんな悪女だとは思わなかったよ! リアナ!」


「あたしは何もしちゃいない。てめぇの不貞行為が全ての元凶だろうが」


「ぐ……ほ、本当にキミは……さっきからなんなんだその言葉遣いは!? いい加減にしろ!」


 パシンッ!


 と、今度はルドルフ様があたしの頭を強く引っ叩いた。


 ――あー。こいつ、女相手に手まであげやがった。


 思うと同時にあたしの中でまたプッツンと何かがはち切れた。


「……ぃ、ってぇな! このクソ野郎がぁッ!」


「ウゴォオッ!?」


 あたしはスカートの裾を捲り上げて、鋭い蹴りをルドルフ様の急所、股間を思いっきり蹴り上げてやった。


「うぐぐぁぁぁあーッ!」


 するとルドルフ様は悶絶しながら涙目になってその場でゴロンゴロンと転がっている。


「きゃああ!? ルドルフちゃんーッ!?」


 あたしは当然その程度で終わらせるわけもなく。


「ざけんな馬鹿が! 死ねッ!」


「ぶへぁッ!?」


 ついでに追い討ちでかがみ込んだ顔面も更に蹴り飛ばしてやると、鼻血を吹き出しながら仰向けに倒れ込んだ。


「っざけんじゃねーッ! 女だからってあんまあたしを舐めんじゃねーよ! ぶっ殺すぞ! ぁあゴラァ!?」


「ひ、ひぃいいッ!? ちょ、や、やめ、ひぎゃぁああーッ!」


 それからもあたしはルドルフ様を蹴り飛ばし続けた。

 馬鹿が。あたしはただ虐げられるだけのやわい女じゃねーんだよ。


 ったく、女に手をあげるなんざ、とんだクソ野郎だわ。


 

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