第59話 本気の告白に本音をぶつける!
こうして殿下とあたしたちは、ルドルフ率いるゴロツキと黒薔薇たち全員を無事捕縛完了した。
ルドルフの奴はというと、黒薔薇たちが倒れたあとの言い訳がましさが酷く、
「僕は悪くない! 全て僕を認めない父上や国が悪い!」
「リアナ、今なら許してやる! また僕とやり直せ!」
などという、苦しすぎる言い訳と上からの物言いに、あたしは心底呆れ果てた。
そんな馬鹿な言葉にブチ切れたのはあたしではなくアルファリオ殿下の方で、
「ふざけるなこの愚か者! 貴様の罪は貴様に償わせる! それにリアナくんはもはや二度と貴様のもとには戻らん! 何故なら彼女は私の妻になるのだからな!」
と、まだ決まってもいないことを強気に言い放ち、それを聞いたルドルフは「そんな馬鹿な……」と、青ざめた涙目になり、その後でようやく殿下やあたしへと謝罪し始めたが、もはや全てが後の祭りであった。
その滑稽な姿を見て、あたしもだいぶ気が晴れたけどね。
ルドルフと黒薔薇の三人についてはのちほど、王宮にて細かく事情聴取され、裁かれることになるだろう。
とにかく彼らの身柄は一時、メヴィウス家で預かることとし、後日王宮からの護送馬車で連行されることとなった。
「……色々あったがなんとか無事、片付いたな」
「はい。これも全て殿下のおかげです」
「そんなことはない。むしろすまなかった。リアナくんやメヴィウス家を利用する形になってしまって」
「いえ、そんな滅相もありません。あたしはすでに殿下にたくさん救われました。このくらいなんでもありません」
あたしと殿下は夜風にあたりながら、メヴィウス邸の小さなバルコニーで涼んでいた。
ルドルフの問題が解決したその晩、ディセイヤお父様が殿下への感謝とあたしへの労いをかねて小さなパーティ―を開いたのだ。
少しだけお酒の酔いを醒ます為に、あたしたちはこうして二人で外に出ていた。
今晩はメヴィウスのお屋敷で過ごし、明日からはまた王宮へ戻らなければいけない。
「本当にありがとうございました殿下。殿下がいなかったらきっとあたしの家族はめちゃくちゃになってました。心から感謝しています」
「……やめてくれリアナくん」
「いえ、本当に殿下のおかげなので」
「いや、そうじゃなく。前にも言ったが私に対してそんな風に畏まらなくていい」
あ、そっち?
「とは申されましても、やはり殿下はあたしからすれば雲の上のお人ですよ」
「そんなことはない。むしろ私から見て、キミは高嶺の華だ」
「あ、あたしが高嶺の華だなんて大袈裟すぎます」
「本当だ。私はキミをひと目見たあの日から、キミのことしか見えなくなっていた」
殿下はあたしの目をジッと見据えてきた。
ど、どうしよう。心臓の音が大きくなりすぎて殿下に聞こえてしまうかも……。
そんな馬鹿みたいな心配をするくらいに鼓動の高鳴りが増していく。
「改めて言わせてほしい。私はリアナ、キミを妻に迎えたい。私の婚約者になってもらえないだろうか?」
「で、でん、か……」
「勘違いしてほしくないから、今度こそきちんと私の想いをキミにぶつけよう。私はリアナくん、キミが好きだ」
――ああ。
アルファリオ殿下はあたしに向かって初めて「好き」とストレートに本気で本音で伝えてきた。
あたしとしたことが、そんな二文字の単語を愚直に言われただけで涙が出るくらいに舞い上がってしまっている自分がいた。
嬉しい。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
まるで夢のよう。まるで思い描いていた奇跡のような、そんな夢物語があたしの身に、今ここで現実に起きている。
貴族としては不十分なあたしだったけど、恰好良くて優しくて素敵な王子様に愛を囁かれる、だなんて。
「ど、どうしたリアナくん?」
あたしは涙も出そうだし変な顔になってしまっていることが急激に恥ずかしくなって、殿下から背を向けてしまった。
嘘みたいだ。
こんなあたしが……こんな野蛮で粗暴な女が、こんな夢みたいな恋に落ちるなんて。
あたしはアルファリオ殿下が好きだ。
でも、だからこそ、やっぱり不安が同時にたくさん押し寄せてくる。
きっとこの不安なんて杞憂にしか過ぎないはず、なのに。
「……で、殿下は……あたしを妻にする理由が、もう、ありません、よ」
馬鹿みたいな確認をしてしまう。
ゼファーの災厄はもう起きない。別に竜騎士としての適性が高いあたしが殿下の妻になる必要性もない。
そのことは殿下も、もうわかっているはず。
だからこそ、だからこそあたしのこんな無意味な確認が馬鹿らしくって、女々しくって、自分で自分をぶん殴りたいくらいに恥ずかしい。
「妻にする理由なら、ある」
「え?」
「私はキミが好きなのだ。リアナくんを愛しているのだ。世界でキミを一番に愛してしまっているのだ。それ以外の理由なんて、元々おまけみたいなものだったのだ。下手な理由付けも何もかも、このキミへの想いの丈に比べればなんてことはないものだったのだ」
うっ、うっ!
嬉しすぎる――ッ!!
幸せすぎる。好きな男性からこれほどまでに正直に愛を囁かれるなんて、女冥利に尽きるってもんよね。
こんなあたしが……こんなあたしなんかが……。
こんな最低な性格の女のあたしなんかが――。
「……殿下。あたしは最低な女、なんだよ」
「リアナくん?」
「あたしは……親不幸者だし、色んな人をぶん殴ってきたんだ。気に入らない相手には会話じゃなく暴力で解決したこともあった。国のルールを破ってバイクを走らせて、サツのお世話にもなった。サツの言う事もガン無視決めて、またバイクで真夜中の道路を滑走してたんだ。反省なんてまるでせずに」
「リアナくん、それは一体なんの……?」
殿下は本気で本音であたしに告白してくれた。
だからあたしも初めて本気で本音で話そうと思った。
「あたしはさ、王太子サマなんかに吊り合う女なんかじゃないんだ。これが素のあたしだ。粗暴で野蛮な口調で荒っぽい行動ばかりのクソ女。殿下相手にだってそんな不遜な態度は変わんねぇんだよ。それが本当のあたしなんだ」
殿下は不思議そうにしているけれど、あたしは全部言おうと覚悟を決めた。
「あたしは、元ヤンの生まれ変わりなんだ」




