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第60話 今のあたしにはこれが限界だっつーの!

 ――あたしは今の自分になる前、この世界とは違う世界で生きてきたその人生を殿下へと語った。


 ろくでもない親に育てられ、まともな教育も受けず、仲間と悪さばかりをしてきたそんな自分を包み隠さず話した。


「あたしは口下手だから説明とかマジ下手くそで無理なんだけど、これがあたしが生きてきた人生だよ」


 殿下の表情はわからない。


 あたしは殿下に背を向けたまま、話しているから。


「リアナくん、それは……本当の話、なのだろうな。キミがそんな嘘をつくはずがない」


 殿下はきっと幻滅してるだろう。


 もしこれであたしのことを軽蔑し、さっきの告白が無かったことになったとしてもあたしは後悔はしない。包み隠さず、偽らないってゼファーと約束したから。


「とても俄かには信じがたい話だ」


 だよね。


「そんな不思議な世界があるなどとは」


 頭のおかしい女の夢だと思うよね。


「バイク、といったか。その乗り物の名を黒竜につけた、と。空は飛べないが馬よりも速い車輪がついた乗り物、か」


 信じるわけないよね。そんな嘘みたいな乗り物の話なんて。


「リアナくん……」


 あーあ。終わりかな。


 殿下は少し変わり者だったし、あたしの粗暴な言葉づかいとかに寛容だったけど、こんな頭のおかしな話までしてきた女はさすがに見限るよね。

 だってあたしなら到底信じられないもの。


 と、思っていると不意にガシっと、あたしの背中越しに両肩を掴まれた。


「その話、もっともっと詳しく聞かせてもらえないか!?」


「え?」


 殿下の変な反応にあたしは思わず振り返ってしまった。


「聞いたこともない世界の文明、不可思議な乗り物、未知のからくり。なんという素晴らしい話なんだ!」


「へ?」


「リアナくん! キミはやはり神が私へと与えたもうた天使だ! いや、女神かもしれん! はは、こんな心躍る女性は初めて出逢った!」


「で、殿下……まさか、あたしの話、全部信じてんの?」


「当たり前だろう!? どこに疑う余地がある!?」


「疑う余地しかなくない!? 逆にどこに信じる要素があんの!?」


「馬鹿なことを! キミの話はいつだって全部、無条件で私は信じるぞ!」


「んなっ……ばっ、ばっかじゃねーの!?」


「ははは。そんな可愛らしい顔をして馬鹿と言われてもな」


 あたしはそう言われてハッとした。


 や、やばい! 顔が涙と興奮でぐちゃぐちゃになってる!


「大丈夫だリアナくん。メイクなど落ちていてもキミは常に美しい」


「~~ッ! ばば、馬鹿殿下ぁ! こっち見んな!」


「おぐふぅッ!?」


 あたしは羞恥心のあまり、殿下を思いっきり両手で腹を吹っ飛ばしてしまった。


 恥ずかしいなあ、もう!


「ふ、ふふふ。リアナくん、それでいいんだ……うぐぐ」


 あたしに吹っ飛ばされた殿下は尻餅をつきながらお腹を少し痛がる素振りを見せつつも、なんだか嬉しそうに喜んでいる。


 やっぱりこの殿下は変態だわ。


「ご、ごめんなさい殿下」


「いや、いいんだ。口調もさっきまでのぶっきらぼうなリアナくんでいいんだ。私は最初から素のままのキミが好きだったんだから」


「好……ッ!?」


「ああ。何度でも言おう。私はリアナくんが好きだ。リアナくんの全てが愛おしいんだ。こんな無様な恰好で言うのは情けないかもしれないが」


 尻餅をついたまま、恥ずかし気もなく殿下は堂々とまたあたしのことを好きだと告げた。


 あたしと殿下の違いはきっとこれだ。


 殿下はいついかなる時も自分に自信を持ってる。


 あたしは臆病者だから、言葉や暴力で弱さを隠してる。


 そんな殿下だからこそ、あたしも彼のことを好きになったんだ。


「ぷ。あはは。ほんと、そんな恰好で言うの、変なの!」


「ふふ。仕方がないだろう? キミに吹っ飛ばされてしまったのだからね」


「あはは! 殿下って本当にお馬鹿なのね」


「そうだとも。私は馬鹿なのだ。だからこんな風に愚直にしかキミへの愛を紡げないのだ。そうでもしないと、いつキミが他の男に奪われるかわかったものじゃないからな」


 嘘。


 殿下は全然馬鹿なんかじゃない。


 本当に馬鹿なのはあたしだ。


 こんな遠回りをしないと満足に自分の気持ちひとつ、言葉にできないんだから。


「あたしも好きだよ」


「え?」


 ああ、勢いでついにあたしも小さな声で言ってしまった。


「だから、安心しなよ。あたしは殿下以外の男になんか、絶対なびかないから」


「リ、リアナくん。今なんて?」


「だから、とりあえず婚約の話は暫定オッケーってこと!」


 あたしはクッソ恥ずかしすぎるから、また殿下に背を向けてそう答えた。


「ま、前だ。その前! リアナくん、その前になんと言ったのだ!?」


「聞こえてないんなら、知らなーい!」


「た、頼む! もう一度言ってくれリアナくん!」


「もう言わないよー、だ!」


 今はまだ、殿下みたいに強くないから。


 あたしにはこれが精一杯。


 だけど、いつか。もっと自分に自信がついたら、きっと殿下みたいにしっかりと恥ずかしがらずに気持ちを伝えられるようにするよ。


 アルファリオ殿下のことが大好きだ、って。

 


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