第57話 盗難事件の犯人もこいつだった!
ルドルフに指示された通り、あたしたち三人は飛竜から降り立った。
黒フードを被った三人の黒薔薇たちは、あたしたちをジッと見据えたままナイフを騎士たちの首元へと当てている。
さすがは手練れの暗殺集団と名高い黒薔薇だ。ゴロツキたちとは風格も漂わせる魔力も違う。
「甘かったですなあ殿下? まさか僕の部下にかの有名な黒薔薇がいるなんて想像もしなかったのでしょう?」
「……」
勝ち誇ったかのように嘲笑うルドルフに対し、殿下は表情を変えずに黙っている。
「さあ殿下。拘束魔法を解いてもらいましょうか。そうすればあの騎士たちの命だけは助けてあげましょう」
「……ルドルフ・リンドバーグ。貴様が今やっている行為がなんなのか理解しているのか? この私、アルファリオ・ジルドワールを脅しているのだ。それはつまり、ジルドワール王国自体を敵に回すと、そう宣言していると同意義であるのだぞ」
「ふん、そう捉えてもらっても構いませんよ。こうなってしまえばどうせ僕はもうこの国にはいられないでしょうからね」
「開き直ったか」
「ええ、そうです。開き直ってジルドワール王国をぶっ潰してやることに決めましたよ。殿下もおわかりでしょう? 彼ら黒薔薇の存在くらいは」
「無論だ。つまりルドルフ、貴様はアリストレア皇国に魂を売ったというわけだな?」
「そういうことです。もうこんな国、どうでもいい。どうせ滅びてしまうのだからね」
「それは貴様がアリストレアに売った情報のせいでか?」
「ご存じでしたか。ええ、そうですよ。もう近々、ジルドワールの竜騎士たちを全滅させる極秘作戦が執行される。竜騎士さえいなくなれば、ジルドワールなんて弱小国はすぐにでも終わりですよ」
「貴様だったのだな? 飛竜の厩舎小屋で大切に保管していた飛竜玉を盗ませた犯人は」
「そこまでお見通しですか。まぁ間接的に犯人だと言えばそうでしょうね。僕が指示したのだから」
その話は先日殿下からあたしも聞いている。
あたしがちょうどリンドバーグ家から王宮の宮廷裁判所へと連行されている時に起きた、とある盗難事件だ。
ジルドワール王宮には飛竜玉と呼ばれる、ジルドワール王家に代々伝わる秘宝があった。
この飛竜玉は特殊な魔力が凝縮された宝玉で神より授けられたアーティファクトらしく、人々には理解不能な不可思議で強靭な意思を持つのだという。その意思とは、宝玉の持ち主たる君主に対して飛竜たちを従わせる意思、らしい。
つまりこの飛竜玉があるからこそ、飛竜たちはジルドワール王宮で大人しく、人々と共存しているのだそうだ。
元来、飛竜は聖なる生き物とされ、魔族とは別物だ。
ゆえに、無闇やたらに人を襲うようなことはしない。が、だからといって人に容易く懐いたり群れたりすることもない。飛竜とは孤高で誇り高い生き物なのである。
「飛竜玉は今、アリストレアが保持しています。時期に飛竜たちを奪いにやってくるでしょう。そうなればジルドワールの崩壊は秒読みだ」
殿下から聞いた以前の説明によれば、飛竜玉がなくても今いる飛竜たちが竜騎士や人々に逆らって襲ってくるような真似はないということだが、敵国が悪用した場合、飛竜が寝返ってしまう可能性はあるとのことだった。
「自らそこまで話すとは。愚かだなルドルフ」
「僕が勝利を確信しているからですよ。この状況で殿下たちにはそこの騎士たちを見捨てられはしないでしょう? それともリアナの為に騎士など見殺しにしますか?」
「私は絶対にそんなことはしない」
「なら、話は決まりです。さあ、僕らの拘束を解きなさい、殿下!」
「……ルドルフ、教えてほしい。貴様のその愚行についてラファエル卿はどこまで知っているのだ?」
「何も。お父様は関与していない。あんな父に話す必要などないからね」
「あんな、だと?」
「そうさ。僕の価値にも気づけず、いつまで経っても僕に権力も財産も譲らない頑固な父などにね。僕はこれからアマンダお母様と共にアリストレアに飛ぶ。お母様と二人で安全が確約されたアリストレアからジルドワールを征服してやる」
「ふむ。ではアマンダ夫人は貴様の行動を知っているのだな?」
「ほんの一部だ。アマンダお母様は気苦労の絶えない可哀そうなお母様なんだ。僕が大切に守ってあげないといけないからね。まあ、あんな愚かで馬鹿で頑固者の父といれば、お母様が苦労するのもよくわかる。リアナもお母様のような性格だったら僕と幸せになれたものを」
「なるほど。そうか、よくわかった」
「さあ、早く拘束を解いてください殿下」
「いや、もうその必要もない」
「は?」
殿下はそう言うとルドルフを背にし、騎士たちを人質に取っている黒薔薇の三人に向かって、鋭く睨みつけた。
「黒薔薇、貴様たちを不法侵入罪、暴行罪、脅迫罪、並びに国家転覆罪の現行犯として、この場で正当防衛権を行使させてもらう」
「殿下、あなたは何をする気だ!? 下手な真似をするならそこの騎士たちを全員皆殺しにするぞ!?」
ルドルフが必死な表情をして見せた。
すると、殿下はニヤっと笑って、
「好きにしろ」
と、衝撃にも軽くそう言い捨ててしまったのである
殿下はまさか本当に騎士たちを見殺しにするの!?




