第56話 ルドルフたちを一網打尽!
「……遅い。ディセイヤは一体何をしているのだ?」
ルドルフが痺れを切らし始めた頃。
「よし、完成だ。魔法術式は仕上がった。マデューラ、認識阻害魔法を解除せよ」
「かしこまりました!」
マデューラが指示通り魔法を解除すると同時に、殿下が両手から放つ魔力にて、大きな魔法陣をあたしたちの眼下、ルドルフたちからすると頭の少し上辺りに広げた。
「行くぞ」
殿下の合図であたしたちは頷く。
「っは!」
そうして殿下は両手の平をぐんっと、振り下ろした。
「ッんぐ!?」
「な、なんだ!?」
「か、身体が動かねぇ!」
魔法陣がルドルフたち全員を包み込み、ギュッと拘束する。
拘束系の魔法はそれほど難易度の高い魔法ではないが、これほどの大きさかつ、多人数を抑え込んでしまえるほどの拘束魔法陣は、並大抵の魔力では生み出せない。
さすがはジルドワール歴代きっての天才王太子、アルファリオ殿下である。
「貴様たちは拘束させてもらった! 大人しく我らに従え!」
殿下は飛竜の背から声をあげた。
「な、なんだ!? 飛竜!?」
「いつの間に!?」
「ルドルフさん、こりゃあ一体どういうことっすか!?」
慌てふためくゴロツキたちを他所に、ルドルフは青ざめてこちらを見上げている。
「ば、馬鹿な……何故こんなところに殿下が……」
「ルドルフ・リンドバーグ。貴様の愚行、全て見させてもらったぞ」
「く……で、殿下! お聞きください! これにはワケがありまして……」
「リアナくんだけに留まらず、メヴィウス家まで脅かそうとした貴様にはもはや情状酌量の余地すらない」
「殿下は騙されているのです! あの女はとんでもなく野蛮で、粗暴で、礼節もなっていない愚か者です! 確かに見た目だけはいくらか良いかもしれませんが、貴族として必須の魔力もなく、魔法も扱えず、無能そのものです。あんな女の色気だけに騙されてはなりません!」
「うっさいわよ、この馬鹿!」
あんまりにも言い訳がましいルドルフに腹がたったあたしも、大きな声で反論してみせた。
「な、なんだ? リアナの声がどこから……?」
あたしは飛竜から顔を覗かせていなかったので、ルドルフたちにはあたしの姿が見えていなかったのである。
「愚か者は貴様だ。リアナくんが無能だと? 無能な者が竜騎士になどなれるか」
「なっ、なんだって……!?」
ルドルフは目を見開き、驚いてみせる。
「あたしはここだよ! 馬鹿ルドルフ!」
そう言ってあたしはゼファーの背から顔を見せつけてやった。
「リ、リアナ!?」
「久しぶりね、このクズ野郎! 相変わらず醜悪な性格ね!」
「ぐ……ちょっと殿下に気に入られているからと貧乏貴族令嬢ごときが調子に乗りおって……!」
「クズ男! よくもあたしの家族にまで恐喝してくれたわね! 絶対に許さないから覚悟しなさい!」
「くそ、言わせておけば……!」
「ルドルフよ。続きは王宮の裁判所で聞かせてもらう。このまま貴様たちは改めて縄で拘束させてもらうぞ。皆、彼らを拘束せよ!」
殿下の合図でメヴィウス邸の門番にあたっていた騎士たちが、ルドルフたちのもとへと集まり始めた。
魔法での拘束はいくら殿下でも数十分が限界だ。なので今のうちに奴らを物理的に縛り上げ、そして王宮へ連行する手筈なのである。
ひとり、またひとりとゴロツキたちはメヴィウスの騎士たちに縄で縛りあげられていく。
「……勝ったつもりか、リアナ」
「え?」
「それで勝ったつもりなのかと言っている!」
ルドルフが突然声を荒げた。
「馬鹿めが!」
ルドルフが声を上げると同時に。
「ぐわぁ!?」
「ぎゃッ!」
ゴロツキたちを縛り上げていた騎士たちが悲鳴をあげて、その場で倒れ込んでいくではないか。
「くっくっく。舐めてもらっては困る。僕の部下には彼ら黒薔薇がいるんだよ!」
騎士たちを一瞬で倒していたのは、3名の黒フードを深く被った男たち。
その男たちは地面に転がった騎士たちの首元にナイフを押し当ててこちらを見上げている。
「さあ、降りてきて僕らの拘束魔法を解いてもらいましょうか殿下。彼らメヴィウスの騎士たちが無残に殺されたくなければね。リアナともうひとりの竜騎士、貴様たちもだ! 全員、僕の前まで降りてくるんだ!」
ルドルフは不敵に笑った。
「まさか殿下のあの強力な拘束魔法を搔い潜り、更には騎士たちをも圧倒してしまうとは……」
マデューラが黒薔薇の男たちを見て、驚きを隠せずにいる。
確かにこれは想定外だった。まさか逆に人質まで取られてしまうなんて。あたしもあっさり決着がつくと思っていたのに。
「殿下、どうしよう……?」
あたしが不安そうに尋ねると。
「問題ない。リアナくん、私を信じて共に降り立とう」
殿下は全く動じておらず、むしろ頼もしい言葉とその横顔にあたしは思わず、胸が高鳴った。
「なに、これは想定の範囲内だ。無論、すみやかに拘束できてしまえるのがベストではあったがね。だが、問題は何もないさ」
「殿下……うん、あたしは信じるよ」
あたしたちはルドルフに大人しく従い、地表へと降り立つことにした。




