第55話 ルドルフたちを嵌める罠!
「おい、門を開けろ」
「なんだ貴様たちは!?」
「俺たちはルドルフさんの命令でやってきた。ディセイヤ・メヴィウスと話をさせろ」
メヴィウス邸入口の正門前にて。
ルドルフ率いる黒薔薇と思われる団体たちが、メヴィウス邸で構えている門番に対して高圧的にそう言っているのが聞こえる。
肝心のルドルフは団体の一番後ろでふんぞり返りながら、笑っている。
「相変わらず、なんてムカつくツラしてんのかしら」
あたしはその様子を上空から殿下たちと共に眺めていた。
「リアナくん、あまり近くまで降りすぎるな。マデューラの認識阻害魔法の効力が薄れてしまうからな」
「ええ、わかっています」
あたしたち三人は飛竜に跨がり、ルドルフたちの頭の上、十数メートルというかなり近い高度から彼らを見下ろしているのだが、当然普通にしていれば気づかれてしまう。
それをマデューラの認識阻害魔法によって、あたしたちの存在が気づかれにくくしているのである。
ルドルフの見張りをしていた際もこれを使用し、そして思念魔法によって殿下に状況報告を送ったりもしていた。
マデューラは本当に巧みな魔法をたくさん使えるので、性格はかなりアレだったけど、実に能力の高い優秀な竜騎士なのだと改めて思わされた。
「ディセイヤ様になんの用だ!?」
普段のメヴィウス邸に門番なんていない。メヴィウス領は本当に平和なので門番など置いたことがなかったのだ。
だが今回はルドルフたちのことがあった為、メヴィウスの騎士団に門兵を任せたのである。
「いいから本人を呼べっつってんだろ」
あからさまにガラの悪そうな男たちが威圧している。
「あの様子から見ると、全員が黒薔薇というわけではなさそうだな」
「はい殿下。あの中で黒薔薇と思われる人物は3名のみ。残りはどうやらルドルフが金で雇ったゴロツキのようです」
殿下とマデューラの会話を聞いて納得した。
どうりでガラの悪そうな連中ばかりなわけだわ。
「貴様ら、用件はなんだ!?」
「おたくらの令嬢のことだよ。聞いてんだろうが?」
「そんな話は知らん!」
「いいからディセイヤを出せ」
門番とルドルフが連れてきたゴロツキたちが揉めていると、屋敷の中からディセイヤお父様が現れ、門へと歩み寄っていった。
「門兵の皆、ご苦労だった。あとは私が対応しよう」
門の内側からお父様がそう言って、門の外へと歩み出た。
「私がディセイヤだ。ルドルフ殿、これはなんの真似ですかな?」
「やっと現れたか。ディセイヤ、貴様たちは高位貴族である我がリンドバーグ家に対し、不敬極まりない反抗的態度の罪について問いただしにきたのだ」
ルドルフが如何にもそれらしい理由を並べてお父様と対峙した。
「ふむ。とりあえずここではなく、中へお入りください。これほどの人数となると庭の方が話しやすいでしょう。ルドルフ様も立ったままお話をするのは大変でしょう。腰休めのできるガゼボの方へ私がご案内致します。美味しい紅茶もご用意致しますよ」
「ほう、気がきくな。多少自分の立場をわきまえたか。いいだろう、案内しろ」
目論見通り、ディセイヤお父様は広い庭の方へとルドルフたちを引率していった。
あたしたちも上空からそのあとを追う。
「こちらのガゼボにて少々お待ちください」
「待てディセイヤ。貴様はどこへ行く?」
「実はルドルフ殿に以前要求されていたジルド金貨がご用意できたので、それをお持ちしようかと」
「なんだと? 1000ジルド金貨をか? そんな大金の現金をこんな田舎の領主如きが用意できたというのか?」
「はい」
「だがもはやそれっぽっちでは済まされない話だぞ。先日の無礼と延滞金も上乗せされているのだからな」
「わかっております。ひとまずは1000ジルド金貨だけでもお納めをと思いまして。今、お持ちしますのでどうかここで少しお待ちいただけますかな?」
「ふん。まあいいだろう」
ディセイヤお父様はペコリと頭を下げ、足早に屋敷へと戻って行った。
「くっくっく、喜べお前たち。特別ボーナスも出してやれそうだぞ」
「ひゃっはぁ! さすがはルドルフさんだぜぇ!」
「太っ腹だぁ!」
「ルドルフさん、あんたってやつぁ作り話だけで金品をせしめちまうなんて、とんでもねぇ悪党貴族だぜ!」
「だよなぁ! だが、そこに痺れる、あっこがれるぅッ!」
ゴロツキどもはルドルフを囲んで大はしゃぎだ。
「ふぅ、なんという愚かな者たちだ。そしてなんと品の無いことか」
上空にて、マデューラが呟く。
「全くだな。マデューラ、わかったか? 弱者を力や数や地位でねじふせ、侮蔑するその行為がどれほど愚かしく、浅ましいかを」
「は、はい殿下」
「貴様も全く同じことをリアナくんやラルフくんにしたのだぞ」
「う……は、はい。その節はまことに申し訳ございませんでした……」
「マデューラ、貴様は家柄も良く、貴様自身の能力も実に優れている。その驕り高ぶった矜持を捨て去り、弱者の気持ちに寄り添えるようになれるのなら、また等級を戻してやらんでもない」
「ほ、本当でございますか!?」
「リアナくんはどう思う?」
突然殿下はあたしにそんな風に話を振って来た。
「え? あ、はい。あたしも別にいいと思いますよ」
「リアナ様! あ、ありがとうございます!」
「でもねマデューラ。あたしはあなたのしたこと完全に許したつもりはないし、忘れることもない。あなたは本当に最低で愚かなことをした。それでも人は変われるって信じてる」
「リアナ様……その、私は……」
「今のあなたはあたしが殿下の威光を借りているせいもあって、本当に反省しているのか判断がつかない。だから、今後のあなたの態度、発言、そういった行動や評判を見たいと思うわ」
「……はい。殿下やリアナ様のご厚意を無下にせぬよう、このマデューラ、誠心誠意心を入れ替えたいと思います」
「ええ。マデューラ、あなたのこと、一度だけ信じることにするわ」
「うむ、リアナくんがそういうのなら、私もそうしよう。良かったなマデューラ」
「はい……! はい……!」
マデューラは涙目になって頷いていた。
「さて、そろそろ奴らを一網打尽にするとしよう」
殿下の言葉にあたしとマデューラが頷く。
さぁ、ルドルフ。年貢の納め時よ。




