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第53話 ズッ友と本音で語り合う!

「はぁ……はぁ……うぅ、ぅ……あなたが……こんなことをしたの……?」


 瀕死の重症でその少女はゼファーへとそう問いかけた。


『そうだ。光栄に思うが良い。貴様のような矮小な存在でも我の一部となれるのだからな。と、言っても貴様らニンゲンに我の言葉がわかるわけもないか』


 ゼファーは小馬鹿にするようにそう答えて見せると。


「私を食べるの……?」


 ゼファーの言葉を理解しているのか、していないのかはわからなかったが、少女は続けてそう問いかけてきた。


『ああ。だが我は慈悲深い。なるべく痛みのないよう、瞬時に頭を噛み砕いてやろう』


 ゼファーがその大きな顎を開く。

 すると。


「はぁ……はぁ……や、やめた方が……いい、よ……」


『命乞いなど無駄なことだ。貴様は死ぬ』


「私を食べたら……き、きっと、あなたは後悔する」


『なに……?』


「私の特質魔力は……う、うぅ……。浄化、だから……」


『なんだそれは?』


 少女にはおそらくゼファーの言葉は届いていない。けれど少女は独り言のように最期の言葉を語り続けた。


「はぁ……はぁ……わ、私に触れた生き物は……みんな、この世の(ことわり)において……う、うぅ……(よこしま)であると判断した存在を……消去して、しまう……」


『だからなんだと言うのだ?』


「あなたはきっと……後悔の念で……苦しみ続けることに……はぁ! はぁ!」


『……もう限界か。大人しく喰われるがいい』


 ゼファーは少女の言葉に耳に傾けず、そして宣言通り少女の頭を噛み砕いた。


 その直後だ。


 ゼファーの中で何かが砕け散った音がしたらしい。

 そして頭の中に無数の記憶とこれまで行なってきた行為が計り知れない罪であると、突如にそう認識してしまった。


 人を食すことが、人を殺すことが悪であると、自分の中で書き換えられてしまったのだ。


『ぅぅゔゔヴヴヴ! グァァぁあアあアアアあーッ!』


 その絶望は想像を絶するほどだったらしく、ゼファーは悶え苦しみながら、人里離れた山岳部に身を潜めたのだそうだ――。


「それってもしかして魔心臓が……」


『ああ、そうだリアナ。その少女の力で我の魔心臓が砕けたのだろう。だから我はその瞬間からニンゲンを喰らうことへの絶望感に苛まれ続け、ニンゲンを喰らうことをやめた』


「その少女って一体何者なの?」


『わからぬ。だが類い稀なる特質魔力を持っていた。そう、まるでリアナ、貴様に近い波長の特質魔力をな』


「特質魔力……」


『うむ。特質魔力というものは我らエインシェントドラゴンでも詳しいことはわかっていない。世界の創造主、神々が与えたもうた希少な奇跡とでも言うべきものなのだろうな』


「へえー……」


『まあ、とにかくそんなわけで我はその日からニンゲンを喰うのをやめた。それまで主食がニンゲンだった我は他の食事を摂る気にもなれず、日に日に衰弱していったところにあの小僧が現れたというわけだ』


「そうなのね。でもだったらどうしてまた災厄を引き起こすだなんて殿下を脅すような真似をしたの?」


 殿下は言っていた。

 ゼファーの機嫌を損ねればゼファーはまた災厄を起こしかねない、と。


 その理由がよくわからない。


『……我はエインシェントドラゴン。魔心臓が無くなってもその誇りまでを失ったわけではない。威厳を保つ必要があったからだ』


 威厳を保つ為だけに殿下を脅す?


 あたしにはちょっと納得がいかなかった。


「それ、嘘だよね?」


『……何故、そう思う?』


「なんとなくそう感じる。多分それがパートナー契約をした相手の心だからじゃない? ゼファーも言ってたもんね。隠し事は無意味だってさ」


『……っち。厄介な契約だ』


「お互い様でしょ?」


『……』


 ゼファーはまた少し黙り込んだ。


 あたしはゼファーが答えるのをジッと待った。


『……我はもう死ぬ気でいた。だから捕食もやめ、ひとり静かに朽ち果てようとしていた。だがそんなある日、我は夢を見たのだ』


「夢?」


『ニンゲンと契約し、共に生きる夢をな。その夢が……情けなくも酷く心地が良いものだった。まるでこれまで殺めた人々への贖罪になるかのように。だから我はまた生き延びたいと考え、小僧に助けを申し出た』


「それがあたしってこと?」


『そうなのだろうな。小僧を脅すような思念を送ってしまったのは、まあ……その、なんだ。我にはニンゲンとの接し方がよくわからなかったからな』


 ああ、そうなんだ。

 ゼファーは……この子はあたしと同じなんだ。


 魔心臓から解き放たれたけれど、その後の他者とのコミュニケーションの取り方がわからなかったんだ。


 そういえばゼファーだけは王宮の厩舎小屋ではなく、王宮の高い城壁の上にあるバルコニーに住んでいた。

 そもそもゼファーには友達すらいなかったのかもしれない。


「……ゼファー。あんたとあたしは似たもの同士だったのかもね」


『さてな』


「ありがとね、あたしに色々教えてくれて」


『ふん。仕方がないだろう。だが、あの小僧には余計なことを言うなよ。我の威厳が地に落ちる』


「大丈夫、安心して。ゼファーの弱みは誰にも言わないから」


『……』


 ゼファーは返事をしなかったが、穏やかな感情があたしには感じ取れた。


『さあ、もう戻るぞ。リアナ、貴様は小僧への気持ちに気付いたのだから、きちんと向き合うのだ』


「まあ……それなりに努力はするよ」


『……すぐに変われというのは難しいか。だが、これなら安心できそうだ。貴様は間違えないだろう』


「ゼファーはあたしと殿下が結ばれることを本当に望んでるのね」


『無論だ。我の居場所はそこだと決めているのだからな』


「居場所……それってジルドワール王宮で、あたしと殿下の傍らってこと?」


『……そうだ。文句あるか』


「ふふ、ないよ。あたしたちはズッ友だよ」


『なんだそれは?』


「ずーっと友達ってこと!」


『ズットモ、か。……ふん!』


 ゼファーは満足そうに鼻を鳴らしたのだった。



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