第52話 災厄の真相を語ってくれた!
『ようやく認めたか』
あたしの気持ちを読み取ったゼファーが、やれやれと言わんばかりに軽く溜め息を吐きながらそう言った。
「……うん」
『素直になれたな。我の前で隠し事は無意味だと知るが良い。それがパートナー契約というものなのだからな』
「そうなんだね、わかった」
『さて、それでは我はそろそろ帰るか。全く、つまらぬことでわざわざ呼び出しよって。召喚の呼び出しはすぐだが帰るのは自力なのだぞ』
「ご、ごめんゼファー……」
『ま、我の速度なら王宮程度の距離など一日足らずで戻れてしまうのだがな』
「そっか。あ、あのさ」
『なんだ? まだ何かあるのか?』
「ゼファー、あんたがあたしの為に色々やってくれてんだってわかって嬉しかった。ありがとね」
『ふん! 我は貴様を認めてやったと言っただろう。認めた相手に助力することは普通のことだ』
「じゃあさ、あたしを喰うとか殿下を喰うってのは?」
『……っち。しつこいな貴様も。ただの戯言だ、そんなものは』
「はは、そっか!」
『ふん! もういいか? 帰るぞ!』
「あ、待ってよゼファー。せっかく来たんだ。ちょっと背に乗せてよ」
『全く、竜使いの荒い雌だな。まあドラゴンライドの訓練にもなるしいいだろう。五分だけだぞ』
「うん!」
あたしは満面の笑みで頷いた。
「殿下、あたしちょっとゼファーとひとっ飛びしてくるよ!」
「リ、リアナくん?」
あたしに吹っ飛ばされてから大人しくしていた殿下が、困惑した顔であたしに近づいてきた。
「黒竜との話はついたのか? 何故これからドラゴンライドを? というか黒竜は怒っていないのか?」
「うん、へーき。仲直りした! だから気分転換にひとっ飛び行ってくるね!」
「あ、ああ……まあ、リアナくんがそういうなら……」
あたしは少し呆然としている殿下をその場に置いて、ゼファーの背に乗り、そして大空へと羽ばたいた。
まだたったの数回しか実践していないドラゴンライドだけど、あたしとゼファーの相性は抜群に良かった。
ゼファーの大きな背中は、とても高い上空にいても安心感を得られるし、あたしがこうしたいと思えばその通りに動いてくれる。
ああ、風が気持ちいい。
バイクのゼファーで道路をかっ飛ばしていたあの頃よりも更に何倍も気分が良い。
最高の気分だ。
「……ねえ、ゼファー」
『なんだ』
「昔の災厄って本当なの?」
あたしはどうしても信じられなかった。
ゼファーはこんなにも心優しい飛竜なのに、人々を脅かしていた存在だなんていうことが。
だからそれをこっそりと確認したくて、こうしてゼファーの背に乗った。
『……本当だ』
「なんでそんなことしたの? なんでそれをやめたの? ゼファーはあたしのことなんでも知ってるんなら、あたしもゼファーのこと、知りたいよ」
『……くだらない話だ。貴様が聞いたところでなんの意味もない』
「でも知りたいの」
『言いたくない、と言っているのが伝わらなかったようだな。我はそれを言いたくはないのだ』
「ずるいよゼファー。あたしは素直に認めたじゃん」
『言葉には出しておらんな』
「わかったよ。あたしは殿下が好きだよ」
『……ほう?』
「多分、前世と今、生きてきた全ての人生の中でアルファリオ殿下のことが異性として一番好き。だからあたしは叶うなら……うん。殿下と結婚したい」
『随分と素直になったな』
「ゼファーの前で隠すのは無駄だってわかったからね。だからさ、ゼファーも教えてよ」
『……本当につまらぬ、くだらない話だぞ? 気分を害しても知らぬぞ?』
「それでも聞きたいの」
『……っち』
ゼファーは少しの間、黙った。
それからゆっくりと語り出してくれた。
『あれはまだ我がエインシェントドラゴンとしての誇りを気高く保っていた頃の話だ。我の精神はあるべき姿のまま、何者にも縛られることなく自由きままに世界を闊歩していた』
「あるべき姿のまま? ってどういうこと?」
『魔心臓の本能のまま、という意味だ』
魔心臓、またの名をマギアコア。
この世界において、魔族と称される生き物たちが保有するもうひとつの心臓。
これを持つか否かがこの世界における魔族か否かの違いを区別化する部分だ。
「え? でも飛竜は聖なる生き物で、魔心臓を持たないから魔族ではないってあたしは教わったけど……」
『普通の飛竜はな。だからこそ、普通の飛竜はニンゲンに懐きやすい。だがエインシェントドラゴンだけは違う。魔心臓を保有する、誇り高き魔王アグラニジャールの魂の片鱗を宿した飛竜だ』
この世界にはかつて世界を脅かした魔王、と呼ばれる凶悪な存在がいたらしい。
だがしかしそれは何千年も前の話らしく、今は魔王と名乗る存在はこの世界にも存在していない。
魔王は消え去っても魔王の魂の片鱗は魔族たちに受け継がれ、今の世も彼らは人々に害をなす存在とし、世界中に残されているのである。
『魔王の魂の片鱗を持つ者はニンゲンのことを自然と憎み、滅ぼし、あるいは喰らおうとする。そういう本能が備わった生き物だと考えればいい』
「そう、だったんだ……」
『つまりエインシェントドラゴンである我も魔族であり、ニンゲンとは元来敵対しあうものだったのだ。だが百年ほど前のあの日――』
その日。
その日、ゼファーは例年通り人々の多く集まる村で上空に炎を大量に吐き出し、人々を襲っていた。
冬が来る前に大量に人々を襲うのは魔心臓にエネルギーを充填させる為らしく、要は冬眠前の栄養補給みたいなものらしい。
そんな風にして崩壊した村で動けなくなった人々を喰らい続けているうちにひとりの少女と出逢った。
その少女はゼファーの吐き出した炎による大火傷ですでに虫の息であったが、かろうじて意識はあった。
当時のゼファーはそんな少女を見下ろして、無様で憐れで矮小な生き物だなという侮蔑な感情しか抱いていなかったらしい。
『――あの時のことを思い返すと、我ながら気分が悪い』
そう言いながらもゼファーは続きを語ってくれた。




