第51話 偽りの自分をぶっ飛ばせ!
「ゼファー! あんた調子乗ってんじゃねーよ!」
あたしはついにゼファーへとぶち切れてしまった。
『ほう、我にそのような物言いをするとは』
「あん? なんだテメー? いくらダチだからって、ふざけたこと言ってたらあたしは容赦しねーよ!」
「お、落ち着けリアナくん!? 何故急に黒竜に怒っている!? というか本当に殺されてしまうぞ!?」
「離せ馬鹿! あたしは今こいつと話してんだ! 邪魔すんじゃねえ!」
「ぎゃふん!」
あたしは腕を掴んできた殿下を思いっきり振り解いて、殿下を吹っ飛ばした。
『くくく。婚約者をぶっ飛ばすとは、とんだ小娘だな』
「んっな、ななな! ここ、婚約者じゃねーよ馬鹿!」
『それで、貴様は何をそんなに怒っている?』
「ざけんな! わっかんねーのかよ!? あたしだけじゃなく殿下やかんけーのねえ人たちまで巻き込むんじゃねえって言ってんだ!」
『くははは! 相変わらず貴様は面白い小娘だ! そのような畏れ知らずの物言いをして、殺されないと本当に思っているのか? パートナー契約をしたから貴様は大丈夫だと思っているのか? そうだとしたら大間違いだ。あまり我を舐めるなよ?』
「そうじゃねえ! あたしは相手がなんだろうがおかしいことはおかしいだろって言いてえだけだ! ゼファー、あんたの言ってることはおかしいってんだよ!」
『おかしいのは貴様らだ。何故我からの施しを無下にする?』
「望んでねえんだよ!」
『嘘だな。貴様は他者へはおかしいことをハッキリおかしいと告げるのに、自分がおかしなことは認めないのか?』
「んな、なんだと?」
『貴様たちは互いに想い合っている。その感情を認めず、いたずらに擦り合わせばかりして、結果望まぬ形の結末に至る。ニンゲンは古来からそんなくだらないことばかりをしている。我には意味がわからぬ。気に入った者同士、何故番いにならない?』
「に、人間はそんな簡単じゃねえんだよ!」
『勝手に複雑にしているだけだ。本質的なところはニンゲンも魔族も動物も竜族も、何も変わらぬ』
「だからって、そんな風にあたしたちを脅してまで、なんでそこまでしてあたしたちをくっつけようとすんだよ!?」
『……リアナ。よく聞け。ニンゲンの一生は短い。我ら竜族のように何百年もの時を生きれない。そんな短い人生を偽りのまま過ごし、終わってしまっても良いのか?』
「そ、それは……」
『貴様は偽りの自分を捨てたからこそ、今の自分があるのではないのか?』
「え?」
『リアナ・メヴィウス。貴様はこの世界ではない世界の記憶があるのであろう? 我も貴様の記憶を通して朧げに見たが、なんともまあ奇怪な世であったな』
「う、嘘だろ? ゼファー、まさかあんたには……」
『うむ、貴様の前世の記憶が我には見えている。そちらの世界でもリアナ、という名だったのだな。そちらでの相棒のゼファーとやらは、またなんとも奇怪な乗り物であるようだな』
「そう、だよ……だけどあたしはゼファーを……」
『みなまで言わずともいい。我には見えている。だからこそ、我は貴様が名付けたその名を気に入り、受け入れてやったのだ。貴様の後悔の念を少しでも払拭してやれるようにな』
「そんなことを……あたしの為に……?」
『……リアナ、今一度言う。自分を偽るな。偽りの自分ではまた、何もかもを失うことになる。それは前世のお前で体験してきたのであろう?』
――そうだ。
あたしは前世で本当の自分を出しきれなかった。
ストレスの解消方法が非行に走ることだけでしかわからず、愛情に飢えていたにもかかわらず誰にもそれを打ち明けられなかった。
あたしも愛されたかった。
親にも、友達にも、そして男の人にも。
あたしは愛されたかった。
愛が欲しかった。
この世界で家族からの愛はたくさん貰えた。だから前世のあたしはほとんど表には現れなかった。
けれど……。
『わかったかリアナ? 貴様の本心が。思い出してきたか? 貴様の本質が。偽りの自分では何も手にできず、何もかもを失うのだ』
「そう、だね……」
『落ち着いてきたな。リアナ、貴様は幸せになれ』
「え?」
『貴様は幸せになろうとする努力が足りない。貴様は自分が幸せになろうとすることに罪悪感を覚えている。愚かだ。幸せになること、自分の欲に素直になることの何が悪い? 認めよ、自分の感情を』
「あたしの感情……?」
『貴様はひと目見た時から心動かされていたはずだ。この小僧と出逢ったあの時からな』
「――ッ!」
そうだ。
あたしは殿下を……アルファリオ殿下と初めて出逢った時から感じていた微かな胸の高鳴りを自ら消し去ろうとしてた。
気づかないフリをして隠そうとしていた。
それを、そのことをゼファーは教えてくれているんだ。
ああ、そうか。
あたしはアルファリオ殿下のことをとっくに――。




