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第50話 リアナさん、ゼファーにぶちギレる!

 なんだか凄く嫌な気分になってしまった。

 その原因がよくわからない自分に、特に苛ついている。


 ゼファーがあたしを喰おうとしていることと、殿下が求婚してきた理由。

 それらに対するあたしの気持ちの揺らぎが、何故こんなにも自分を苛立たせているのかよくわからないことに、また重ねて苛ついていた。


「……ゼファー、来て!」


 メヴィウス邸の庭で、あたしは殿下と共にゼファーを呼び出した。


 以前同様、黒い巨大な魔法陣が空に描かれそこからゼファーが現れた。

 あたしの相棒、漆黒のゼファーは相変わらずの荘厳さをその全身から漂わせている。


『どうしたリアナ。またドラゴンライドの訓練か?』


 ゼファーは普通にあたしへとそう問いかける。


「……今日はゼファー、あなたに聞きたいことがあって呼んだの」


『ほう?』


「殿下から聞いたわ。あたしが殿下と結婚しないと、あなたがあたしを食べるって。それは本当なの?」


 あたしが問いかけるとゼファーはほんの僅かに瞳を見開き、そして殿下の方をチラりと見やる。


『くくく。小僧が話したのか』


「ええ、そうよ。それでどうなの?」


『ああ、本当だ。小僧に伝えた我の意思はその通りで間違いない』


 本当だったんだ。

 ゼファーの言葉にあたしは絶句した。


 友達になれたと思ったのは、あたしの独りよがりだったんだ、と落胆せずにはいられなかった。


「……ごめんなさい殿下。ゼファーは本当にあなたにそう伝えていたのね」


 あたしは申し訳なさそうに殿下へと頭を下げる。


「黒竜がそう言ったのか? 私には今の黒竜の言葉や思念はあまり伝わってこなかったが……」


「ええ、あたしに今ここでハッキリと言われたわ」


「やはりそうなのか……」


 殿下はギリギリ、と悔しそうな顔でゼファーを見上げている。


「ゼファー、どうしてなの? なんでそんなことを殿下に伝えたの? あたしとあなたは友達になれたと思ったのに」


『おい、リアナ。何か勘違いしているな? 我は貴様たちを認めてやったのだぞ。だからこそ貴様たちを番い(つがい)にさせてやろうと言っているのだ』


「でも、そうしなければあたしを食べるんでしょ?」


『そうだな。そう言った方が小僧も必死になると思ったからな』


「それってあたしたちを脅してるのよね?」


『ん? 違うぞ。脅しているのではなく、我は貴様たちの気持ちを汲んでやったのだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだが』


「え? 何それ……? ちょっと意味がわからないんだけど……」


『我が気づいていないとでも思ったか。リアナ、貴様はあの小僧を異性の対象として注視しておるのであろうが』


「は、はいぃ!? な、なんて!?」


『言葉が難しかったか? 小僧を雄として好いておるのだろうと言ったのだ』


「んっな……ッ!」


『小僧の子を授かりたいと、そう願っていたであろうが?』


「こ、ここここッ!? あ、あ、あたしはそんなこと言った覚えないけど!?」


『貴様と我は深い繋がりとなっている。リアナの魔力は我の魂に紐付けされ、その深層心理が伝わるようになるのだ。だから貴様が言葉で話していなくとも、我には貴様の本心が伝わっているのだ』


「ええええ!? わかんないわかんない! ぜんっぜん、意味がわかんない!」


『ふう。リアナ、貴様存外馬鹿なのか。単純な話、貴様は小僧を好いていて、小僧も貴様を好いている。それが我には筒抜けだと言っているのだ』


「ななな!? で、殿下があたしのことを好き!? な、なんでそんなことまでわかるのよ!?」


「え!? いや、それはその通りだが、いや、待てリアナくん! 今、キミは黒竜とどんな話をしているのだ!?」


「ええい、殿下はちょっと黙ってろ!」


『わかるも何も、いつも小僧はぼやいていたからな。貴様のことが好きで好きでどうしようもないらしいぞ。だがニンゲンとやらは不便なものでな。立ち位置や地位や名誉や駆け引き。そんなくだらないことで番いになることをやたらと無駄に先延ばしにする。だから我が助力してやったのだぞ』


 ひいいい、死ぬ!

 あたしの気持ちが死ぬ!


 顔が死ぬほど熱いし、なんか色々やばい!


「じゃああたしが殿下と結婚しなかったら、あたしを喰うってのはただの脅しじゃない!?」


『しつこいな貴様も。脅しではない。小僧のケツを引っ叩いただけだ』


「じゃあじゃあ! 結婚しなくてもあたしを食べないの!?」


『……』


 ゼファーは初めてあたしの問いかけに無言になって、ジッとあたしの目を見据えてきた。


 そして数秒した後、少しだけニヤリと笑うように口元を動かし、


『……いや、喰らってやる。リアナ、貴様が小僧と番いにならぬのであれば、我は貴様も、ついでに小僧も喰らってやろう。くくく』


 被害、増大!


 なんでそうなった!?


「殿下は関係なくない!?」


『いいやあるぞ。我は魔力を欲しているからな。小娘と小僧、両方とも喰らい尽くして、それからまた世界を炎の海に変えてやろうではないか』


 被害、爆増!


 なんかどんどん酷いことに!?


「っざっけんなゼファー! あんた、めちゃくちゃ言ってんじゃねーよ!」


 あまりにも話が飛躍してきて、ついにあたしも堪忍袋の緒が切れてしまったのだった。



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