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第49話 相棒の要求に驚愕する!

「え? ゼファーが? ど、どういう意味ですか?」


「うむ。昨日の晩のことだ。黒竜から強力な思念が私へ届いた」


 ゼファーは今、ジルドワール王宮に戻っている。

 先日、こちらへと召喚した後、ゼファーも殿下のシャルナーガも自分の翼で飛んで帰って行ったからだ。


 王宮のあんな遠くからメヴィウス領まで思念を飛ばせるなんてゼファーはさすがねと思った。


「それで、ゼファーはなんと?」


「キミを必ず私の妻にしろ、と、おそらくそんなことを命じている」


 やっぱりそういう話になるのー!?

 っていうかそれ本当なのかしら……?


「リアナくん、その目は信じていないな? だがこれは私がキミを無理やり手に入れる為についた嘘などではなくて、事実だ。別にそれを命じているだけなら、いちいちキミに伝えることもしなかった。問題はこの後だ」


「この後?」


「ああ。黒竜はキミを私の妻にしないのなら、キミのことを喰らうと、おそらく言っている」


「ええ!?」


「理由はわからない。だがヤツは私に冗談を言うような飛竜ではない。その思念から強力な意志を感じた」


 ゼファーがあたしを喰らう!?

 なんでそんな……。


「で、でも殿下! 殿下はゼファーの言葉をハッキリ聞き取れていないんですよね?」


「うむ。私は朧げに飛竜の思念や考えを感じ取るだけで、リアナくんみたいに明確に言語として会話できているわけではない」


「だったらそれ、間違えではないのですか? ゼファーがあたしを食べるなんてそんな……」


「私はあくまで思念でしか飛竜の言葉を感じ取れないとはいえ、そう大幅に間違うことはまずない。ヤツは本当にそう伝えているのだ」


 どうしてゼファーがそんなことを……。

 あたしのことを友達だって言ってくれたのに……。


「殿下はそれ、信じてるんですか? だってあたしはゼファーとの契約を結んだ竜騎士なんですよね? 契約で結ばれた竜と騎士は、一生のパートナーなんでしょ?」


 先日殿下から教わったことだ。

 竜騎士と飛竜との間で、名付けによって結ばれるその絆は唯一無二のものだ。


 飛竜に乗れるようになることと、名付けの契約は別物だ。

 名付けの契約は永遠の絆とも呼ばれるらしく、その特別な恩恵として、先日のように遠く離れたパートナーを魔力によって召喚させることができたりする。


「ああ。だがパートナーに危害を加えないわけではない。むしろ……これは私の想像だが、強力な魔力を保持しているリアナくんを喰らうことで黒竜は大きな力を手に入れることができるのではないだろうか」


「そ、そんな……。じゃ、じゃあなんでその代わりにあたしを殿下の妻にさせようとしてくるんです?」


「これもあくまで想像だが、私とリアナくんが夫婦となれば子をもうけることになるだろう。その子はおそらく私たち以上に強力な魔力を持った存在になると予想される。その子から、魔力を供給してもらうつもりなのだろう」


 あたしの子から魔力を貰い続けるか、あたし自身を喰らってあたしの魔力を取り込むか。


 つまりはゼファーにとって都合の良いようにあたしは使われるってことなの?


「そんな……ゼファーがそんな風にあたしのこと……」


 正直、悲しかった。

 ゼファーのことは一目惚れだったし、すぐに仲良くなれたし、あたしたちはこの世界でも最高のパートナーになれるんだと思っていたのに。


「しかしそう考えると全てにおいて合点が行くのだ。あの災厄である黒竜が何故、私のもとに来たのか。何故、私の妻を指定してきたのか。全ては己の欲求の為だったのだと」


 そうなのかもしれない。

 ゼファーにとって、人間なんて利用するだけの価値しかないのかもしれない。


 そしてこれは罰なのだろう。


 前世であたしが道連れにしたゼファーからの、あたしへの罰。


「……わかりました」


「リアナくん?」


「だったらあたし、直接ゼファーと話します。それでゼファーの真意を聞き出します。それでも同じことを言うのならあたしは覚悟を決めて、ゼファーの言うことに従います」


「ば、馬鹿な! それはキミが喰われても良いということか!?」


「違います。あたしが殿下の妻になればいいんでしょ? そうすればゼファーは大人しくしてくれるって」


「う、うむ。まあ、おそらくそうだが……」


「だったら話は簡単ですよね。あたし、殿下と結婚しますよ」


「そんな……」


「殿下だってそれを望んでいたじゃないですか。好都合では?」


「そ、それはそう、だが……」


「でしたら何も気に病むことなどありませんよね」


「違う! 私はそんな風にキミを手に入れたいわけじゃないんだ! 私は本当にキミを……」


「ごめんなさい殿下。ええ、もちろんわかってます。あたしのことを案じてくれているんですよね」


「そ、そうだが……」


「ですからご安心を。殿下の妻になりますから」


「駄目だ! 私はそんな、義務的にキミを欲していたのではないんだ!」


「何を今更。では何故そんな話をあたしに伝えにきたんです? 殿下の妻になるか殺されるか選べって言いに来ただけですよね?」


「違うんだ。私はキミに危害が及ばないようにと考え……」


「でも他に選択肢があるのですか?」


「ある! 私の妻にならなくとも、あの黒竜に喰われずとも良い方法はあるのだ! 私はその方法を伝えに来たかったのだ」


「その方法は?」


「あの黒竜を討つのだ。アレを倒せれば、誰も悲しい思いをせずとも済む!」


 ゼファーを討つ。

 確かにそうすれば災厄の再来も、あたしの未来も自由になるのかもしれない。

 でも……。


「……ごめんなさい殿下。あたしはゼファーを殺す気になんてなれない。あの子はあたしの、大事な友達だもの」


「リアナくん、キミは……」


「それにゼファーはとてつもない力を秘めた飛竜なんでしょう? ゼファーを討つなんてことになったら大変な戦いになって多くの被害が出るのではないのですか?」


「それは……やむを得まい」


「でしたらそんな無駄な争いはやめましょう。あたしが殿下の妻になる。話はおしまい。それでよろしいではないですか」


「……く、……ぐ!」


 殿下は何をそんなに辛そうな顔をしているのだろう。

 それなら殿下の思惑通りあたしを手に入れられるというのに。


 ……いや、違うわ。


 そもそも殿下はあたしのことなんて好きでもなんでもなかった。

 それを災厄の再来を起こさせない為に、こうしてあたしに求婚せざるを得なくしているんだった。


 つまりそれは好きでもない女と結婚しなければならないわけで。


「……ごめんなさい殿下。あたしなんかと結婚させられるのは嫌ですよね」


「違う! 私は無理強いをしたくないだけだ!」


「大丈夫です。あたしは気にしてませんから」


「嘘だ! リアナくんの本心ではない!」


 殿下は一体どうしたいのかしら。

 本当によくわからないわ。


 でもあたしが今、やらなくちゃいけないことは……。


「とにかくゼファーを呼び出します。そして話をしたいと思います」


「う、うむ。そうだな。私も同行しよう」



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