第47話 あたしの気持ちがぶっ込めない!
「リ、リアナくん?」
「いいかよく聞け! あたしとフィンは幼馴染だ! フィンはすげー良い奴だから家族と同じくらい好きなんだよ!」
「家族と……や、やはり……」
「ええい、落ち込むんじゃねぇよ、めんどくせぇな! 話を聞け!」
「は、はい」
唐突に殿下は敬語になった。
「家族と同じくらい好きで大切な奴だ! けどなあ、だからって恋愛感情かどうかはまた別もんだろうが!」
と、あたしが怒鳴り散らしてる横で「え! そうなの!?」とフィンが言っているが今はそれどころじゃない。
「フィンにああ言ったからって、別に殿下、あんたのことを嫌いって言ったわけじゃねぇだろうが! 勝手にこの世の終わりにすんじゃねぇよ! シャレになんねーだろうが!」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ! ったりめーだろうが!」
「じゃあ私のことも好き?」
「それは……ッ! っ……く! そ、そんなんまだわっかんねーよバカ!」
と言ってあたしはまた殿下の頭をパシーン、と引っ叩いた。
「リアナくん……」
「リアナお嬢様……」
「リアナ……」
その場の全員があたしの名を呼んで、あたしはハッとした。
やっばーい、ついにやってしまったわ!
と。
「リアナお嬢様。王太子殿下相手にそれはさすがに不味いのではございませんか?」
「お、俺、こんなリアナ初めて見たんだが……」
あたし、終了のお知らせです。
元ヤン令嬢リアナさん、完!
「で、殿下……あ、あの、ご、ごご、ごめんなさぁい!」
あたしはもう遅いけど、慌てて殿下の胸ぐらから手を離して謝罪した。
暴言だけに留まらず、殿下相手に二回もバシバシと叩いてしまう始末。
でも仕方がないじゃない。男の人たちにこんな色々言われたことないし、恥ずかしい気持ちが舞い上がってわけわかんなくなってるんだもん。
「リアナくん」
殿下がキッと、鋭い目つきをしてみせた。
ついに愛想を尽かしてあたしに怒るのね、と思ったのだが。
「……凄く、良い」
「はい?」
「リアナくんはやはりそうでなくては。相手の身分など顧みず、自らの言いたいことをあけすけなく率直にぶちまける! それが私の好きなリアナくんなのだ!」
「うぐ……そ、それは殿下が変なこと言うから……っていうか怒ってないの?」
「何が怒ることがあるものか! むしろご褒……ごほん! いや、むしろ改めてキミを是が非でも我が妻にしたくなったぞ!」
「は、はぁあああー!?」
相変わらずこの王太子殿下は変だ。
変というか変態だ。
普通、こんな身分の下のものがこんな不敬な態度を取ったら速攻で処刑だと思うんだけど。
「なんてことでしょう。王太子殿下は変態でした」
「なんてことだ。俺の国の王子は変態だった」
ジーナさんとフィンも明らかにどん引きしている。
「真面目な話、私の告白はまだ終わっていないと、そう捉えてもよろしいかな? リアナくん」
「……別に、好きに思えば!」
「ふふ。ではもう少し待つことにするよ」
あたしの否定しない言葉に殿下は柔らかく笑った。
「フィン殿」
殿下はキリッとした顔つきで今度はフィンを見て。
「すまなかった。私としたことがつい大人気ない真似をした」
「い、いえ。俺の方こそ王子様に対して凄く失礼なことばかり言ってすみませんでした」
「キミたちの間の問題に私がちゃちゃを入れるのは筋違いだ。私はこの場を去ろう。そしてリアナくん。もしフィン殿の気持ちを受け入れるのであれば、その際はハッキリと私に言って欲しい。リアナくんが決めたのであれば私はそれを受け入れ、キミを諦める」
「アルファリオ殿下……あの、あたしは……」
「まだ答えは急がなくて良い。キミが私を受け入れずとも私はキミの味方だ。キミとメヴィウス家を全力で守るから安心してほしい。それでは」
殿下は真面目にそう言い残して、この場から去って行ってしまった。
嵐のように過ぎ去っていく彼の背中を、あたしたちはしばらく黙って眺めていた。
なんか格好良く去って行ったけど、結局はあの殿下、あたしの気持ちを影からこっそり聞こうとしてたんだよね。
それってさ……。
「……ぷ。本当に馬鹿なんだから」
そのギャップになんだかおかしくなって、あたしは思わず笑ってしまった。
「それでリアナお嬢様。フィン様からの告白はどうなさるのです?」
殿下が見えなくなってからジーナさんが改めてあたしに問い直した。
「あ、うん。あのねフィン、あたしね」
「いや、リアナ。よくわかったよ」
「え?」
「俺はお前の家族って言われてすげー嬉しかった。でもさっきの王子様とのやりとりを見てて、俺はまだまだリアナのこと、なんも知らなかったってよくわかったんだ」
「フィン……」
「リアナがあんな言葉づかいをするのも、あんな態度を取るのも俺は見たことなかった」
「そ、それはね、なんていうか最近ちょっと疲れてて、感情がすぐ剥き出しになっちゃうっていうか……別にフィンの前で良い子ちゃんを演じてたわけじゃないよ!」
「ああ、わかってる。でもさ、多分俺、わかっちまったんだ。リアナが俺を見る目は確かに深い情を感じる。けど、王子様を見るリアナの目にはまた別の情を感じるんだよ」
「え? それどういう意味?」
「ま、リアナはそういうの疎いしよくわかんねーよな。けど、今はいいさ」
「フィン! あのね、あたしフィンの気持ち嬉しい! だけど、フィンのお嫁さんになるのはなんか違うなって……」
「ああ、それが答えなんだろ?」
「で、でもね! フィンのこと凄く好きなのは本当!」
「ありがとうリアナ、それは俺もだ。じゃあさ、王子様のことはどうなんだ?」
「殿下のことは……殿下は凄く良い人。とってもお世話になった人だよ」
「そうじゃねえよ。好きか嫌いかって聞いてるんだ」
「あたしは殿下のこと……」
嫌いじゃない。
ううん、むしろ……。
あれ、あたしなんで……?
「……」
言葉が紡げなかった。
「……ああ、十分だ」
フィンは笑って頷いた。
「俺はもう行くよ。悪かったな、急に乗り込んできちゃって。そんじゃなリアナ!」
「あ、フィン!?」
フィンはそう言い残して走って屋敷の外へ向かってしまった。
ガゼボにはまた、あたしとジーナさんだけが残されたのだった。




