第45話 幼馴染がぶっ込んできた!
「フィン!?」
「リアナ、お前、帰ってきたならなんで教えてくれねーんだよ!」
メヴィウス家のガゼボでジーナさんと話していたその場に現れたのは、フィン・リスタードという青年で、メヴィウス領の村に住む一般人だ。
明るい赤茶髪の短髪がよく似合う、活発で長身の少し筋肉質な男の子だ。
「屋敷のメイドに聞いたぞ。ルドルフのヤロウと別れたんだってな! だから最初からあんな奴はやめとけって言ったじゃねーか」
フィンはこのメヴィウス村で共に育ったあたしの幼馴染で歳も一緒だ。
あたしはこっちの世界で貴族の娘として礼儀や嗜みを学んで育っているが、それでも外遊びの方が好きで、あたしはよくこのフィンと村の中を遊び回っていた。
「フィン様、どうやってここに? 今お屋敷は部外者は立ち入り禁止にしてあるはずですが」
今現在ルドルフに警戒中の為、厳戒態勢にしてあるメヴィウスのお屋敷だ。安易に部外者が入れるわけがないはずなので、ジーナさんがそう尋ねると、
「んなもん、内緒だ!」
とフィンは言うが、おそらくいつもの抜け道だ。
あたしがメヴィウスのお屋敷からこっそり抜け出して遊ぶ用の隠し通路が裏庭の垣根にある。
そこは村の中でもフィンだけに教えてある秘密の通路だ。おそらくそこから来たのだろう。
「はあ……全く……」
おそらくジーナさんは抜け道のことを知っている。あたしとフィンが昔から仲が良いことをよく知っているからだ。
「そんなことよりリアナ! お前が無事で良かった。あのヤロウと別れたんならまたメヴィウスで暮らすんだろ!?」
「あのねフィン、今はそんな状態じゃ……」
「俺はさ、前々からルドルフのクソみたいな噂をよく聞いてたんだよ! ほら、俺はリンドバーグ領にちょくちょく仕事で行くからよ。リンドバーグの街中でもルドルフの評判は最悪だったぜ」
フィンは商売を生業としている一家で、メヴィウス領をまとめるリスタード大商会の頭目であるお父様の仕事を継いで、彼も商売人の道を進んでいる。
「それでなリアナ、お前がルドルフに嫌な目に合わされて離婚したって聞いていてもたってもいられなくて……」
そんなフィンはあたしの大親友とも言えた。昔から、あたしのことを案じて、優しくしてくれていたのだ。
「うん、ありがとうフィン。気持ちだけで十分嬉しいよ。でももうあたしは大丈夫だから」
「そうか、それなら良かった! それでなリアナ、お前に相談したいことがあってさ。実は新しい商売の話でな」
「あ、あのねフィン。今、色々大変で……」
「って言うのもな、実は最近見つかった新しい魔石が良い商売道具になりそうでな! ただそれを捌くのにどうしても人手が足りないって言うかさ」
フィンは凄く良いヤツなんだけど、こうして話を聞かなくなっちゃうくらい夢中になってしまうことがよくあった。
まあでも、その内容はいつも楽しい話ばかりなので気付けばあたしは黙って頷いていた。
きっと今回の話もあたしを喜ばせたい内容、なのだろうけど。
「うん、ごめんねフィン。今あたし、本当に忙しくてね。だからフィンとのその話はまた今度でいいかしら?」
「嫌だ! これは今、どうしてもお前に伝えなくちゃいけない話なんだ。大事な話なんだ!」
「確かに商人のフィンにとって商売のお話は大切だと思うけど」
「ああ、そうだ。それでもって、お前にどうしても言わなくちゃならない話なんだ」
「でも今はあたし、忙しくて……」
「すぐ終わるから聞いてくれ! な、ジーナさん。ちょっとだけだからいいよな!?」
フィンはジーナさんにもそう断りを入れると、ジーナさんも渋々「少しだけですよ」と頷いた。
「リアナ、今なんかお前んちが大変なんだってのはメイドさんから聞いてる。ルドルフの奴が報復してくるかもしれないから仕方なく屋敷で篭ってるってのも聞いた」
「そこまで聞いてきたんだ。そうなの、だからねフィン、今メヴィウスのお屋敷は危ないかもしれないから……」
「ああ! だから俺が守ってやる! 今度こそ俺がお前を守ってやるって誓ったんだ!」
「フィン……?」
「リアナ! 俺はお前が好きだ!」
え……?
「ガキん頃からお前のことが好きだった! でも言えずにいた。ずっと後悔してた。お前といる時間が楽しくて、関係が壊れちまうのが怖くて言えなかった。お前は貴族の娘で俺は商人の息子だし、吊り合わないとか、余計な言い訳を自分にばかりして、ずっとずっと言えなかった」
フィンはあたしの目をまっすぐに見据えて、言葉を続けた。
「そうしたらルドルフなんてクソヤロウにお前を取られちまった。俺は死ぬほど自分の愚かさを呪った。もし次があるなら今度は後回しにしない、気持ちを伝えるって決めたんだ」
「フィン……」
「リアナ。俺はお前が好きだ。だから俺と結婚してくれ。俺には商会の仲間もたくさんいるし、なんなら騎士団のツテもたくさんある。今は傭兵だって雇う金もある。俺の嫁になればお前をずっと守ってやれる! だから俺の新しい商売を一緒にやって欲しいんだ!」
フィンがあたしのこと、そんな風に見てくれていたなんてちっとも知らなかった。
確かにあたしはフィンのことは大好き。家族と同じくらいに大事な大親友だと思ってる。
だけど、そういう対象として見たことは一度もなかった。
だからフィンも同じだと思っていたのに。
「リアナ!」
突然の本気の告白にあたしは思わず硬直してしまった。
あたしは一体なんて答えればいいんだろう。
あたしは……。




