第44話 あたしの気持ちは……ッ!
「ところでリアナお嬢様。殿下とはいつからそんなご関係になられていたのですか?」
「いいなあ。お嬢様、あんな素敵な人に求婚されて。羨ましい限りです!」
「それでお嬢様、式はいつ挙げられるのですか!? 当然、私たち使用人も呼んでくださるのですよね!?」
あたしは今、超絶困っている。
「いえ、あのね、あたしはまだ……」
「もう殿下とはどこまで進んでいるんですか? キスまで? それとも……!?」
「うそーッ!?」
全然話を聞いてもらえない。
メヴィウス家のメイドさん三人に囲まれての質問攻めが容赦なく続いているのである。
ゼファーとの初ドラゴンライドをしたその翌日。
まだルドルフたちが襲ってくる気配はないということで、メヴィウスのお屋敷で警戒しつつ待機することになったあたしたちだった、のだが。
「もう! みんな話を聞いてよ! あたしはまだそんなことは……」
あたしが殿下に求婚されていることを知ったメヴィウス家の人たちが、それはもう楽しそうにあたしへと詰め寄って来たのである。
「そういえば聞きましたよルドルフの件! 本当にどうしようもない奴ですよね」
「私は元からヤバい奴だと思ってたんですよ! だいたいアイツ、メヴィウスのお屋敷に来た時、しれっと私の身体まさぐって来たんですよ!?」
「それでリアナお嬢様はアイツから変なことはされなかったんですか?」
とにかくみんな、あたしの身に起きたことが気になって仕方がないようで、矢継ぎ早に質問が止まらない。
「ほーら、皆さん。お嬢様がお困りですよ」
あたしたちがそんな風に庭のガゼボでお茶(という名の質問攻め)をしていると、侍女のジーナさんがやってきた。
「さあさあ、皆さんはもうお仕事に戻りなさい」
ジーナさんに促され、メイドさんたちは口惜しそうに「はーい」と言って屋敷へと戻って行った。
「ありがとうジーナさん」
「ふふ、相変わらずお嬢様はこういった話が苦手なんですね」
彼女、ジーナ・ルメールさんはあたしが産まれた頃からこのお屋敷に仕えている侍女で、36歳とは思えないほど若く見える童顔でスタイル抜群の可愛らしい侍女だ。
彼女はあたしの教育係も兼ねていたのでメヴィウス家では一番付き合いが長く、あたしも家族と同じくらいに心を許している。
「そうなのよね。いまだになんか慣れなくて」
「そんなお嬢様がリンドバーグ家とご結婚されると聞いた時、私は正直祝福する気持ちよりも心配の方が大きかったです」
「そう、だったのね」
「あの時、私がリアナお嬢様に本当にこれでいいのかと尋ねた時の、あのお顔が今でも忘れられなかったのです」
「え?」
「お嬢様は笑顔で大丈夫、と答えましたが本心ではないとすぐにわかりました。あんなにも辛そうな笑顔のお嬢様は初めて見ましたから」
あたしがルドルフのもとへ嫁ぐ時、そんな顔をしていたのね。
自分じゃ気づかなかったわ。
「うん、ジーナさんの言う通りだったわ。やっぱり好きでもない男との生活は最低だったわね」
「そうですよね。それでもお嬢様は自分を押し殺してご結婚されました」
「ええ。あたしはお父様とお母様を……ううん。メヴィウスに関わるみんなを幸せにしたかったの。メヴィウス領はあまり裕福じゃないから」
「そうだと思いました。でもちゃんと別れられて良かったです」
「そのおかげで今、大変なことになってしまったのは本当に申し訳ないと思っているわ」
「問題ありません。そんなことよりも私が今、一番気に掛かっているのはアルファリオ殿下とのことです」
ドキっとした。
「お嬢様、アルファリオ殿下のことを本当はどうお考えなのですか?」
「どう……って言われても」
「殿下は噂でも有名なほどの人格者です。昨日の感じを見ただけでも信用に値する人物だとは思います。ですが、リアナお嬢様がまた好きでもない男と結婚させられるのは、もう我慢がなりません」
「ジーナさん……」
「この際、私にだけでもハッキリと仰ってくださいませんか? 殿下のことをどうお想いなのか」
あたしは殿下のことをどう想っているんだろう。
正直、色々と思い返しても嫌なイメージはない。むしろ……。
『リアナくんは、私の婚約者になってもらう――』
あの言葉にきっと嘘はないと思う。
だって殿下はジルドワール王国の為を思って、あたしを選んだのだから。
そう、漆黒の飛竜による災厄を再び起こさない為に。
「あたしは、殿下と結婚するよ」
「リアナお嬢様!?」
「だってさ、殿下だって仕方なくあたしと結婚するつもりなんだよ。昨日、ジーナさんも話を聞いていたでしょ? 例の災厄を起こさせない為に、あたしが必要なんだって」
「それは確かにそうかもしれませんが……」
「殿下は国の為に好きでもないこんなあたしなんかと結婚するって言ってるんだよ。だったらあたしもあたしのわがままなんかでそれを拒否なんてできないよ」
「リアナお嬢様、それは違うのでは……」
「違くないよ」
「ですがそんなこと、旦那様たちも決して望んでおりませんよ」
「でも殿下はルドルフとは違う。凄く良い人だもの。だからきっと悪いようにはならないと思うわ」
「いえ、そうではなくてですね。私が聞きたいのはお嬢様自身のお気持ちなのです。アルファリオ殿下を本当はどう想っているのかを聞きたくてですね」
「ありがとうジーナさん。気をつかってくれるのは嬉しい。でもいいんだよ。あたしは殿下に救われたし、恩返しできることが結婚なら、あたしはそれを受けるわ」
「お嬢様……あなたは……」
そんな会話を続けていると、誰かがこちらに向かって走り寄ってきた。
「おい、リアナッ! か、帰ってきたってのは本当だったのか!」
と、息も絶え絶えに大きな声でそう叫んだのは、ひとりの青年だった。




