第42話 いつの間にかパートナーだった!
雄々しく勇ましく、そして惚れ惚れするような黒い光沢を放つボディーに、鋭く美しく煌めく真紅の眼光。
一見すれば凶悪な魔物にも見間違えかねないその強大さは相変わらずの圧巻の一言だ。
「グルァオオオオーーーーッ!!」
その圧巻のその漆黒。
つまりあたしの友達のゼファーが上空で、あたしの声に反応して叫んだ。
「本当に来てくれたんだ、ゼファー!」
『呼ばれれば来る。我と貴様はトモダチなのだからな』
あたしとゼファーの会話は当然誰にも理解されていない。
「な、なんなんだアレは……!?」
「黒い飛竜……!?」
「襲ってこないのかしら!?」
メヴィウス家の人々は皆、戦々恐々と畏怖し、ざわめいている。
「あ、みんな安心して。この子はゼファーって言ってね……」
「そう、さきほど話したあの漆黒の飛竜だ」
殿下の言葉にディセイヤお父様が驚嘆した。
「で、ではこの飛竜が災厄の……!」
ざわざわざわ、っとメヴィウス家の者たち全員のどよめきが増す。
「リアナちゃんッ!!」
更に、バサッバサッ、と翼を羽ばたかせながらゼファーがあたしのすぐ近くにまで降下してくると、キャスティお母様が心配そうにあたしの名を叫ぶ。
「大丈夫よキャスティお母様。この子はあたしの友達なの」
「と、とと、友達……!?」
驚くお母様に対して殿下が大きく頷く。
それと同時にゼファーがあたしのすぐ近くに着陸した。
「ご安心をキャスティ殿。この黒竜は本当にリアナくんの友であり、我々の味方だ」
『……ふん』
殿下の言葉にゼファーは少し不服そうに鼻を鳴らした。
『勘違いされては困るな。我は別に人間どもの味方になったつもりはない』
「でも殿下とあたしの味方なんだよね?」
『……まあ、貴様たちだけは特別だな。我が認めない人間どもに関しては我は知らん』
うーん、ゼファーってやっぱり気難しい性格なのかしら。
とはいえやっぱりあたしとは友達でいてくれるみたいだし、まあいっか。と、深く考えるのはやめた。
「ほ、本当にこんな怖そうな竜がリアナちゃんの味方なの……?」
「うん、大丈夫だよ。ほら!」
あたしはゼファーの身体をポンポンと撫でてみた。するとゼファーは大人しく「グルル」と小さく唸ってみせた。
「す、凄いなリアナ! お前には竜騎士の才能があったのか!?」
「マジですげぇやリアナ姉様! 竜騎士なったってのは本当なんだな!」
「姉様かっこいいぃーッ!」
ディセイヤお父様と弟のルキアと妹のレイラが感嘆してみせた。
大した取り柄もなかったあたしだったけど、そんな風に言われて少しだけ誇らしく感じられた。
「ねえ殿下。疑問なんですけど、ゼファーとあたしは一体いつ、契約とやらをしたんです?」
「キミは黒竜に名付けをしたであろう? あの時だ」
「ゼファーって名前のこと?」
「うむ。私には彼への名付けが許されなかったからな。竜騎士はパートナーとなる飛竜の名付けと共に自然と契約が決まる。無論、飛竜との適性が合えばどの人間も乗ること自体は可能だ。だがパートナー契約とは別だ」
「そのパートナー契約ってなんです?」
「アヴィン副団長から教わっていないのか?」
「はい」
「ああ、そうか。おそらく馬術ができないキミには飛竜には乗れないと思ったから、説明を省いたのか。飛竜は自分に名付けしてくれた者とパートナー契約を結ぶのだ。パートナー化した竜騎士は魔力の手綱という目には見えない絆で結ばれ、いつでもどこでも飛竜を召喚することができる」
そうだったんだ。
だからこうやってあたしはゼファーを呼び出せたのね。
「でも殿下。名付けなんて誰でもできるんじゃないですか?」
「無理だ。普通は飛竜の方が拒否するからな。そして名付け親以外の者はその名で呼ぶこと自体も許されない。というか、呼ぼうとしても言葉にすらできない」
「そうなんですか? じゃあ殿下はゼファーって言葉すら言えないってこと?」
「うむ。この黒竜が近くにいる場合、その言葉の発言自体が制限される。それほどに飛竜への名付けとは重要なのだ」
そんなに大切なことだったんだ。
確かにあたしがゼファーの名前を決めたあと、誰一人として『ゼファー』って呼ばなかったもんね。
「でも、あたしゼファーをここに呼べたとしても、何をどうすればいいんですか?」
「無論、単純なことだ。ルドルフ率いる黒薔薇と戦う」
「え、ええ!? あたしひとりじゃ無理ですよ!? いくらあたしが喧嘩っぱやいとはいえ、ドラゴンライドだってまだ一回しかしてないし、竜騎士としての戦闘経験なんて皆無だし……」
「安心したまえ。私も呼ぶ」
「え?」
殿下はそう言うと、ニヤっと笑って空を見上げた。
「蒼天の飛竜シャルナーガ、来いッ!」




