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第40話 必ずメヴィウスを手に入れてやる!【ルドルフ視点】

「……うむ、間違いないな」


 漆黒のフードを深く被り、珍妙な仮面で素顔を隠している男が僕の手から受け取った書簡を流し読みして、そう呟いている。


「では今回の報酬だ」


「うむ、ありがたく受け取る」


 僕は礼を告げながらその男からジルド金貨が詰まった布袋を受け取った。


「次は竜騎士団の内部情報に関することについて調べてもらうことになるだろう。できるか?」


「僕の父は陛下と懇意な関係だ。父と同行すれば王宮に入り込んで調べ上げることなど造作もないだろう」


「そうか。ではよろしく頼む」


 次回の約束を取り付けたあと、僕はその男と別れた。


 僕ことルドルフ・リンドバーグは我ながら実に賢く立ち回っていると思う。

 何故ならこうして、大金を手に入れつつ、密かに強大な後ろ盾を確保しているからだ。


 僕が誰にも知られることなく、密かに出会っていた先ほどの相手はアリストレア皇国から密入国してきた男で、皇国でも筆頭の大貴族からの使いの者だ。


 僕は一年近く前からその大貴族の使いの者と密会し、こうやってジルドワール王国の機密情報を売り渡していたのである。


「くくく……これでまた女を買いたい放題だ」


 僕は金にモノを言わせて様々な女と遊ぶのが一番の楽しみだった。

 女遊びを覚えたのは15の頃からだ。

 しかし女という生き物は金がかかる。


 いくら僕がリンドバーグ家の長男といえども、自由にできる金はそこまで多くはない。


 お父様にもっと小遣いをくれと懇願したのだが、きっぱりと断られてしまった。

 お母様に頼むと金の使い道とかにうるさく聞かれるので、僕は渋々自分の力で金を稼ぐことを考えた。


 以前はリンドバーグ家の様々な資産をバレないように少しずつ売り捌いて自分の懐にしまっていたが、ある日、家令のジョバンニが「帳簿が合わない」などと騒ぎ立てたのでそれもやめた。


 良い女と遊ぶには金がかかる。

 さて、どうしたものかと考えあぐねている矢先、ジルドワール王都の街中で実に美しいとある女と出会った。


 僕はナンパ目的でその女に近づいたのだが、中々にノリの良い女で、彼女とはすぐに打ち解けた。

 その女はアリストレア皇国出身の大貴族の娘で名をステイシア・グニンガムと言った。


 その女は僕に良い話があると言い出し、その内容が『ジルドワール王国の情報を売る』というものだ。


 それをすれば僕は大金を得るだけでなく、バックにグニンガム家が付いてくれると言ったのだ。


 グニンガム家といえば外交や政治に疎いこの僕ですらよく知っている。アリストレア皇国内でも筆頭侯爵家の大貴族だ。


 僕は遊ぶ金欲しさにジルドワールを売る決意をした。


 罪悪感はいくらかあったが、多少の情報提供ぐらいでこの国が潰れてしまうわけでもない。そんなことよりも僕には今遊ぶ為の金や権力を得る方が最優先だと考えた。


 そんな風にして一年ほどが過ぎた頃に、僕はメヴィウス領という田舎領地でリアナに出会った。


 正直言って一目惚れだった。

 今となっては実に悔しい話だが、リアナはこれまで見てきたどの女よりも美人だと思った。あのステイシアよりもだ。


 僕はいつもの如く、金にモノを言わせてリアナを食ってやろうと行動してみたが、この女はちっとも金にはなびかない。


 どうしてもリアナを攻め落としたかった僕は、メヴィウス家に直接交渉しに向かった。


 リアナの両親は貧乏貴族なだけあって、僕の家柄のことを話すと目の色を変えたのがわかった。更には僕が「持参金もいらない。彼女が嫁に来てくれればそれで十分だ」と言ったら、割とすぐに縁談は決まった。


 これでリアナを好き放題にできると思ったが、あの女は僕に全く抱かれようとしない。むしろ逃げ回っている。


 そのことに腹が立った僕は、王都で別の女と遊んでいる様子をわざとリアナに見せつけてやった。


 僕が色んな女にモテるということを見せつけ、リアナを嫉妬させて僕へと振り向かせてやろうと思ったのだ。


 だがしかし、その行動は僕の思惑とは真逆の結果となってしまった。


 言うことを聞かない愚かな女など王宮裁判で処分してやると考えたのだが、何故か裁判結果はおかしなことになった。

 代わりに僕は報復の為にメヴィウス領に乗り込むことにした。


 リアナをネタにメヴィウスを手に入れてやろうと考えたのだ。


 裁判のあと、メヴィウス領へと向かうその途中で僕はまたアリストレア皇国からの使者と会った。


 以前頼まれた、竜騎士団の情報を手渡す為だ。


 ランデブーポイントはカタシナの町の路地裏だったので、メヴィウス領へ向かうついでに立ち寄った。

 

「おい、お前たちはここで待っていろ」


 僕は馬車の御者たちと護衛騎士たちをカタシナの町の宿に置いて、ひとりで路地裏へ向かう。

 そこでいつもなら黒フードの男に約束の情報を手渡すのだが、その日、そこにいたのは黒フードの男ではなく。


「久しいわね、ルドルフ」


「ステイシアか。何故今日はここに?」


 いつもならステイシアの使者(黒フードの男)が僕から情報を受け取るのだが、その日は何故か彼女がいた。

 基本ステイシアはアリストレア皇国にいるのでジルドワールに滞在していることは少ない。


「ちょっと良いことをあなたに教えてあげるわ」


「なんだ?」


「あなた、これからメヴィウスに行くんでしょう? だったら是が非でもあの領地を手に入れてしまいなさい」


「知っているのか。無論そのつもりだが」


「そう。それができたらリアナ・メヴィウスを操れそうね」


「操る?」


「あなたがメヴィウス領を牛耳ることができれば、言うことを聞かせられるって意味よ。そうすればリアナ・メヴィウスはあなたのモノよ」


「……なるほど、そうか、そうだな」


 そう言われればその通りだ。

 僕はただ報復の為だけにメヴィウス家を脅してやろうと考えたが、メヴィウス領や家族をネタにしてリアナを手篭めにすることだって不可能じゃない。


「だから必ず領地譲渡の契約をしてしまいなさい」


「ああ、そうさせるさ。向こうはすでに退去の準備を進めているはずだしな」


「万が一うまく行かなかったら、ここ、カタシナに戻ってきなさい。私はしばらくここに滞在しているから、私の優秀な部下たちをあなたに貸してあげる」


「ふん。そんなことにはならないと思うが、一応覚えておこう」


 などとやりとりをした後、僕はメヴィウス領へ向かった。


 しかしメヴィウスの奴らは妙に強気な態度で僕に従おうとしなかった。


 そういうことなら仕方がない。


 ここはステイシアの力を利用させてもらうことにするかと僕は決めた。


 アリストレア皇国で最も優秀な暗殺団(アサシン)を率いる団長でもある、ステイシア・グニンガムの強力の武力をもってして、な。

 


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