第37話 因縁のアイツがやってきた!
漆黒の飛竜、エインシェントドラゴンが最も好んで食す餌、それは人間だと殿下は説明した。
それをおよそ今から百年ほど前にやめたらしい。
「百年ほど前……ま、まさか災厄が止まった年!?」
「そうだディセイヤ殿。炎の雨を降らせ、人々に害をなしていたのはその黒竜だったのだ。黒竜はそうやって人々を焼き、そしてその亡骸を貪っていたのだ」
「なんということだ……。し、しかし何故黒竜はそれをやめたのですか?」
「わからない。その理由は教えてはくれなかった。……正確に言えば、私の感じ取れる思念波では正確な言葉を理解しきれていない、というのが正しい。竜族の言葉は私でもある程度までしか理解できないからな」
「なるほど……。しかし何故殿下に助けを求めたのです?」
「まだやり残したことがあるからもうしばらく生きたい、と黒竜はそんなようなことを言っていた。私は魔力を分け与えて助けてやろうと考えたが、念のため黒竜にこう言った。私がお前を助けたあと、人々に害をなさないと誓えるか、と」
「それは当然ですな。して、黒竜の返答は……?」
「わかったと答えた。だから私は黒竜に魔力を分け与えた。するとみるみるうちに黒竜は気力を取り戻していった。問題はこのあとに起きた」
「問題、とは?」
「黒竜は突然、強い思念波でこう言ってきた。お前の将来の妃には必ず飛竜との適性値が高い者にせよ、とな」
「そ、それは一体何故!?」
「よくわからない。だがこの約束を守らなかった場合、黒竜は百年前と同じく、再びジルドワールを火の海にしてでも人々を食さざるを得ない、とも言ったのだ……」
「ふうむ、そうなのですな。それで今も殿下は黒竜に魔力を分け与えているのですか?」
「うむ。週に一度ほどな。今の黒竜は私の魔力と普通の竜の餌だけを食し、大人しくしている」
ゼファーがまさかそんな災厄の元凶だったなんて知らなかった。
あたしは驚愕の事実を今知り、複雑な心境に陥っていた。
それに殿下があたしのことを気にかけてくださっていたのも、全てはその災厄のことがあったからなんだ。
それも当然よね。そういう理由でもない限り、こんながさつで乱暴な女を好き好むわけがないもの。
……はあ、なんでだろう。なんだか胸がモヤモヤする。
「そんな折、私はリアナくんのことを知った。彼女のことについてラファエル・リンドバーグから色々と聞き及んでいてな。それで彼女を妻に迎えたいと考えたのだ」
「そういうことでしたか。いやはや、こちらとしては我が娘が殿下の妻にと申されることに関して、全く異論反論などはありませんが……」
ディセイヤお父様はキャスティお母様と目を合わせ頷くと、今度はあたしの方に視線を向けた。
「リアナ……お前はどうなのだ?」
「そうね。リアナちゃんは殿下のことをどう思っているの?」
ディセイヤお父様とキャスティお母様がそう問いかけてきた。
きっと、ルドルフとの件を鑑みて今度はきちんとあたしの反応を確認するべきと考えたのだろう。
「あたし、は……」
「いや、待って欲しい。その返事をこの場で返してもらうのは些か急だ。リアナくんにはじっくり考えてもらってから、後日返事をもらえればいいと思っている」
「殿下……」
「ただ、私はリアナくんのことをそういう対象で見ているのだとご両親には先んじて知っておいてもらいたかったのだ」
「……はい、わかりました」
あたしは少し難しい顔をしてそう頷く。
「さて、話を本題に戻そう。ディセイヤ殿たちはこれまで通りメヴィウス領を守ってもらいたい。そして私たちはこのままリンドバーグ家に向かうつもりだ」
殿下のその言葉にあたしは頷き、
「ええ。そして殿下と共に今回の一件についてルドルフに問い詰めてくるわ」
と、両親へと思いを伝えた。
「わかりました殿下。わざわざジルドワール王宮から遠路はるばるこのような田舎領地まで御足労いただき、まことに申し訳ありませんでした。そして此度の対応、心より感謝致します」
ディセイヤお父様がそうお礼を告げるとお母様や弟たちも同じように感謝の気持ちを殿下へと伝えた。
「さて、それでは支度を整えたらすぐにリンドバーグ領へと向かおうか」
「ええ、そうですね殿下」
と、話していたその矢先。
バタバタバタ! と慌ただしくあたしたちのいる応接室へと向かってくる足音が響く。
「旦那様、奥様!」
そう言って応接室に飛び込んできたのは侍女のジーナさん。
「大変です! ルドルフ様がいらっしゃいました!」




