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第36話 災厄の真実に驚愕する!

 場はしばしの静寂に包まれた。


「む? どうしたのだ?」


 ディセイヤお父様とキャスティお母様が口をあんぐりと開けて黙ってしまったことを訝しく思った殿下が、そう尋ねる。


「は、あ、いえ……今のは私の聞き違い、でしたかな? ははは」


「あ、あらあらあなたも? 私もてっきり殿下がリアナちゃんを妻に欲しい、なんて聞こえてしまったけれど、聞き違いよね? ふふふ」


「うむ、リアナくんのお母上の言う通りだ。私はリアナくんを我が妻にしたいと願望している」


 改めて殿下はそう言い直した。


 っていうかこの人はこの状況でなんでいきなりそんなことをーッ!?

 あたし自身だってまだこの前の告白からロクな返事もしていないっていうのに!


「そ、それはつまり……リアナを……我らの娘を王太子殿下のお妃様にしたい、と、そ、そういう意味で間違いないのですか?」


「うむ、そうだ」


 ディセイヤお父様とキャスティお母様が目をぱちくりさせて互いに見合っている。


「……あ、あの、これは何かの冗談とかでは?」


「私はつまらない冗談は好まない。本気だ」


「では本当にリアナのことを……な、何故ですか? 我が娘の一体どこをお気に召されたのか……」


「全てだ」


 ズッキューーーン! と、あたしの心にも今の殿下の言葉は突き刺さった。


 す、全てって……。


「こ、こう言ってはなんですが、その、娘には確かに高い潜在魔力を秘めてはいるものの、類い稀なる能力が発現しているわけでもないし、我がメヴィウスという家柄も大した貴族でもありません。殿下にとってメリットなどほぼないようなものですが……」


「ふむ。どうやらご両親殿はリアナくんの本質をあまり知らないらしい。リアナくんは私が見てきた中で最高の素質を持つ女性だ」


「さ、最高の?」


「うむ。飛竜との相性が素晴らしく良くてな。我が妻となる者は飛竜との相性が非常に良い者でなくてはならない。高い魔力に強い気概を持ち、飛竜との相性が抜群のリアナくんを置いて他の女性を我が妻とするわけにはいかないのだ」


 ああ、そうだったんだ。

 おかしいと思った。だから殿下はあたしに告白してきたのね。

 そういう理由があるなら納得できるわ。

 でも……。


「飛竜と、ですか。確かにジルドワール王宮には最強の部隊、竜騎士団があるのは存じておりますが……しかし何故殿下のお妃様となられる女性は飛竜と相性の良い者ではなくてはならないのですか?」


「うむ。ディセイヤ殿はおよそ百年ほど前までジルドワール王国全土を毎年震撼させていた災厄の話を知っているか?」


「あの『死の雨』の話ですな。ええ、一応人並みには」


 ディセイヤお父様が頷いている。

 あたしも一応その話は昔話として知っている。


 その昔、この王国は毎年冬の寒い季節がくる少し前頃に、必ず起こる災害があった。

 それは天から降り注ぐ炎の雨、通称『死の雨』と呼ばれる災害で、それはジルドワール王国の様々な地域で広範囲に渡り、しかし場所は不特定で無作為に降り注いでいた。


 死の雨と呼ばれる炎の雨は、民家を焼き払い、田畑を焼き尽くし、家畜も人々も無残に殺してしまう非常に恐ろしいモノだった。


 当時はこの死の雨の原因が全くわからずにいたが、およそ百年ほど前の、とある年にその災厄は無くなった。


 それから今に至るまで死の雨が降り注ぐことは完全になくなり、人々も次第にそのことを忘れ始めていた。


「実は死の雨の災厄は、このままだとまたいつ再発するかわからない状態にあるのだ」


「な、なんですと? それは一体……」


「あの災厄の正体は我が王宮に今現在住まう、黒竜の仕業だったのだ」


 えッ!?


「今からちょうど十年前の、今頃の時期だったか。私は10歳で竜騎士として初めてひとりで飛竜の背に乗り、王宮周辺の山間部上空を偵察していた時のことだ。強烈な思念波を感知したのだ。その思念のする方角へ私が向かうと、そこには山の一部がくり抜かれたような大きな洞穴があった――」


 殿下の説明によると、その洞穴の奥深くにあの漆黒の飛竜、あたしの友達のゼファーがいたらしい。

 当時のゼファーは酷く弱っていたらしく、殿下に助けを求めたそうだ。そしてゼファーが殿下に要求したのは、殿下の魔力だった。


「飛竜の中でもエインシェントドラゴンと呼ばれる竜族は、滅多なことでは衰弱しない。彼らの一族は大量の餌を食し、そして膨大な魔力を内に蓄え、何百年という長き時間を生きる。そんな飛竜が何故弱っていたのかを私が尋ねると、黒竜は思念でこう言った――」



『それは貴様たち、人間を食うのをやめたからだ』



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