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第35話 殿下がまたもやぶっ放す!

「この際だから言うけど、リアナ姉様はブチキレるとすげぇことになるんだよ」


 と、言い出したのはまさかの弟のルキアだった。


 ルキア・メヴィウス、16歳。

 あたしの二つ下のこの弟は、剣術に優れた弟で今はメヴィウス領内の騎士として働いている。


 幼い頃からルキアは活発だけど素直な良い弟で、昔は年中あたしの背中をくっつき回っていた。

 あたしは前世に兄弟はいなかったので初めてできた弟に嬉しくて、いつもルキアを可愛がっていた。


「え? それどういうことなのルキアちゃん?」


 キャスティお母様が本当に何も知らないといった表情で問いかける。


「母様と父様は知らないだろうけど、リアナ姉様はものすげぇ根性を持っててな」


「な、なんなのそれは……?」


 キャスティお母様が不思議そうな顔をしているが、それはあたしもだ。

 ルキアとは仲良しだったが、前世での自分を彼の前で出した覚えはない。


「俺はさ、ガキの頃、よく姉様と一緒に寝てただろ? そんとき、姉様の寝言を隣で頻繁に聞いててさ」


 寝言?


「てめぇら許さねえ! ぶっ殺してやっからかかってこいやぁ! とか」


 え。


「上等だコラァ! タイマンだクソガキャァッ! とか」


 嘘。


「女を舐めんじゃねぇ! とか、叫びまくってるんだよ」


 ……あたしがそんな寝言を!?


「それに俺は一度だけ、村のはずれでぶちギレてる姉様を見たことがあってな」


 えーッ!?

 そ、そんなことあったかしら……?


「ありゃあ、いくつの時だったかな。俺も姉様もまだガキん頃だ。姉様は男子たちの集団に向かって怒鳴り散らしていたんだよ。そんときの迫力がとんでもなくてな? オメェラぁーッ! って感じで……」


 ああ! 思い出した!


 アレはあたしが十歳の誕生日の日のことだ。村のはずれで小さな女の子相手に、つまんないイジメをしていた同年代の男の子たちを見つけて注意したことがあった。


 その時、男の子たちがあんまりにも調子こいたことばかり言っていて、つい怒鳴り上げてその子たちをぶちのめしたんだった。


 っていうかすっかりそんなこと忘れてたけど、まさか見られていたなんて……。


「ってわけでな。リアナ姉様の本性はとんでもねぇんだ」


 ルキアの説明にお母様とお父様が目を見開いている。


「……本当なのリアナちゃん?」


「……うん、ごめんなさいキャスティお母様。あたし、どうしても許せないことに対して、自分に嘘はつきたくないの」


 はあ。

 今まで隠してきたのに、こんな風にバレちゃうなんてね。お父様とお母様、これであたしに幻滅してしまったかしら……。


「よくやったリアナ。それでいい!」


「ディセイヤお父様?」


「実は私は昔からお前のことが気になっていてな。お前はどうも見た目よりも精神年齢が高いようで、何事もうまく取り繕うとしていただろう? 此度のリンドバーグ家との結婚についてもお前に無理をさせたのではと思っていてな」


「お父様……」


「すまなかったなリアナ。あんな家に嫁がせてしまって。私の判断が軽率すぎたようだ。もっと念入りに精査していればこんなことにはならなかった」


「リアナちゃん、ごめんなさいね。私もリアナちゃんがそんなことになっていることに気が付けなくて……」


 キャスティお母様もあたしのことを案じてそう言ってくれている。


「だけどお母様。あたしがそんな乱暴者だなんて知ってショックなんじゃない? 幻滅したよね?」


 あたしは申し訳なさそうにそう尋ねると。


「ううん、ちっとも。むしろリアナちゃんが強い女の子で私は安心したわ!」


 よかった……。

 あたしはこっちの世界の家族、メヴィウス家のみんなが大好きだ。

 だからこそ、あたしのこの気性の荒さを見られてはいけないと封じ込めてきた。あたしの本質を見られたら、きっとメヴィウス家のみんなを失望させてしまうと思っていたから。


 けれどそんなことはなかった。


 みんな、本当のあたしを知ったとしても変わらず愛してくれている。


 それがわかったことにほっと胸を撫で下ろした。


「そうだぜ姉様。俺は姉様のあの格好良い姿をまた見たいくらいだし」


「か、かっこいいって……」


「あの悪ガキどもを次々とぶちのめしてたリアナ姉様は、遠目で見ててもスカっとしたからなあ」


「も、もうわかったからやめてルキア!」


 ニヒヒと笑うルキアをあたしはなんとか黙らせた。


「……こほん。ご家族で盛り上がっているところにすまないが、話を戻させてもらっても良いだろうか」


 それまで口を開かず黙したまま隣に座していたアルファリオ殿下が申し訳なさそうに口を開く。


「あ、ごめんなさい殿下」


 あたしがそう言うと、


「リアナ。まさかとは思っていたがこちらのお方は……」


「ええ、ディセイヤお父様。こちらのお方はアルファリオ・ジルドワール様。ジルドワール王国王太子殿下よ」


「や、やはりそうだったか! ジーナの簡単な説明でとても高貴なお客様だとは聞いていたが、先ほど見た時から見覚えのあるお顔だったのでもしやと思ったが……」


「初めまして、リアナくんのお父上殿。ご挨拶が遅れて申し訳ない」


「そんな滅相もない! 私たちこそ殿下へのご挨拶が遅れてまことに申し訳ございません! ほら、みんなもきちんとご挨拶なさい!」


 ディセイヤお父様は殿下のことを知り、慌てて家族皆にもきちんと挨拶をやり直させる。


「あの……それで何故殿下がリアナちゃんと一緒にこちらへやってこられたのですか?」


 キャスティお母様が当然の質問をすると。


「色々あってメヴィウス家のご令嬢であるリアナくんは今、王宮で働いてもらっているのだ。私も色々と世話になっていてな」


「まあ、そうだったのですね!」


「で、この度メヴィウス家がリンドバーグ家、もといルドルフに陥れられそうだと聞き、私もここまで同行させてもらったのだ。私、自らルドルフに制裁を与えようと思ってな」


「そうでしたか! リアナを裁判で救ってくださっただけでなく、そのようなことまでお気にかけてくださるとは……さすがはアルファリオ殿下! お噂はかねがね聞いておりましたが、実に素晴らしき人格者でございますな!」


 ディセイヤお父様が笑顔で頷いている。


「私は別に大したことはしていない。それよりもお二人に……いや、メヴィウス家の者たち皆に伝えねばならないことがある」


 殿下は更にそう続けると、


「リアナくんを妻に欲しいのだ」


 と、アルファリオ殿下は再び、ぶっ飛び発言をぶちかましたのだった。



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