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第33話 しれっと告白にぶったまげる!

 あれから、その場にいた盗賊どもは身近なロープで木に縛り付け、後で町に着いたら通報することとした。


 魔の道ではその賊以外に大きなトラブルはなく、あたしたちはそれからほどなくして、ようやくメヴィウス領へと辿り着いた。


「……それにしても殿下。このリアナ様は本当にただの貴族令嬢なのですか?」


 メヴィウス領内の小さな農村付近を馬車が走っている時、ふとマデューラがそんなことを言い出した。


「どういう意味だ?」


「私に対する態度もそうでしたが、あの賊たちへの行動を見てもただのご令嬢とはとても思えないのですが」


 マデューラは殿下に言われてからというもの、あたしにも敬意を払い今やすっかり敬語だが、やはりあたしのことを不審に感じてはいるのだろう。


 しかしなんと応えようか、とあたしが考えあぐねていると。


「マデューラ、彼女はそれでいいのだ」


 先に殿下が応えていた。


「しかしですね殿下。いくら彼女が殿下のお気に入りとはいえ、あのような危険な行動はいかがなものかと」


 マデューラはやはりまだあたしのことを目の敵にしているようだ。それも当然だけれど。


「……ああ、そうか。私はまだ貴様に伝えていなかったな。あのケルトくんという奇妙な女性の騒ぎの件ですっかり有耶無耶になっていた」


 殿下は思い出したかの様に呟く。


「リアナくんは、私の婚約者になってもらう予定なのだ。つまり、次期ジルドワール王妃ということだな」


 ……ん?


「……んん?」


 あたしが心で「ん?」とはてなを浮かべるのと同時に、マデューラも言葉通り「んん?」と言った。


「まあ、まだリアナくん本人からは何も聞いていないのであくまで予定ではあるが」


 えっと……え?


「そ、そうだったのですか。それは大変失礼致しました……!」


 え? は? え?


 待って、待って?


 あたしは今、何を言われたのかしら?


 聞き間違い、じゃなければ婚約者って聞こえたけど。


「マデューラ、貴様にはそれを伝えようと思ったのだ。彼女は私の大切な人だということをな」


「そ、そういうことだったのですね。どうりで……」


「ちょちょ、ちょっと!」


 あたしは思わず馬車の中で立ち上がる。


「なんの話よそれ!? あたしなんにも聞いていないんだけど!?」


「うむ。だから今言った」


「何を淡々と!? あたしが次期王妃って……いえ、そもそも婚約者? 待って待って待って!」


「ははは、落ち着くんだリアナくん」


「落ち着けるかーッ!」


 なんでこんな、メヴィウス領に着いた今更のタイミングでそんなこと言い出したの、この男は!?


「なんというか、どうキミにこの愛を伝えれば良いのかとずっと考えあぐねていたのだがな。考えすぎるあまり、私もワケがわからなくなってきたのだ。そこでマデューラをダシにして勢いで告白してみようと思ったのだ」


 きっぱり! と、殿下はそう言い放った。


 護衛なんて言うのは建前で、もしかしてマデューラは本当にこの為だけに連れて来たの?


「な、な、な……」


「そうとはつゆ知らず、これまでのご無礼の数々、まことに申し訳ございませんでした!」


 マデューラはすぐに状況を理解し、そしてあたしに対して本格的に敬意を払い始めた。


「なんてことだ! あの殿下に、ついに婚約者が決まったのか!」


「こいつぁめでたい! 帰ったら祝杯だ!」


 馬車の中の会話が御者さんたちにも筒抜けて、彼らもそんなことを言い出した。


「待って待って! あたしはまだ何も言ってないし、決まってないし、返事してないしっていうか理解できてないし! 殿下! どういうことなのかちゃんと説明して!」


「ちゃんとも何も、私はリアナくんが好きなのでキミを婚約者にしようと思ったというだけだ。無論、強制ではないから、キミからの返事待ちということになるな」


 だったらもっとドラマチックでロマンチックな伝え方もあったでしょうがあッー!


 と、怒りと困惑にあたしは目眩を覚えると同時に身体を震わせた。


 っていうか殿下があたしのことを好き!? はわわわ、あああー! もう理解が追いついていない!


「なに、返事はすぐで無くとも良い。じっくり考えて欲しい。強制はしたくないからな」


 殿下は満面の笑顔であたしにそう言った。


「待ってよ! なんであたしなんかを急に……こんな色気もお淑やかさもないような女を……」


「キミは美しいぞ?」


 ボッと顔が一気に熱くなる。

 この殿下は真顔でこういうことを平然と……。


「だ、だいたい殿下とあたしはまだ知り合って数週間程度だし!」


「ルドルフとだってすぐに結婚してるだろう?」


「そ、そりゃあ、まあ……。で、でもあれはなんというか……」


 あれはあたしの両親が喜んでくれたから渋々受けてしまったのだけれど。

 でもさすがにあんな大失敗な結婚は二度とごめんだわ。


「その、なんだ。私はキミにとって不釣り合いだろうか。キミのように見た目も中身も美しい女性と、たかがなんの取り柄もない王子では、キミには相応しくないだろうか……」


 どんだけ謙虚なのこの王太子は!?


 誰がどこをどう見ても不釣り合いなのはあたし!


「私は見た目も特段優れているわけでもない。そういう意味でもキミには不釣り合いだろうか……」


 この人は鏡を見たことがないの?


「殿下は誰がどう見ても超絶イケメンだし、中身だってさいっこうにイケメンよ!」


「そうか! では私と婚約してくれるか!?」


「早い早い早い! 話が早すぎる! と、とと、とにかくその話はしばらく考えさせて!」


「そうか、わかった! 返事はいつでも良い。ただし一年とかは勘弁してほしい」


 ははは、と殿下は笑った。


 もうすぐ故郷のメヴィウスのお屋敷に着くというのに、そんな直前になって、一体何が起きたと言うの……?


 盗賊騒ぎなんかよりもよっぽど大変なことだわ……。



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