第31話 盗賊どもの卑怯な手!
「クソ! 中にもまだ騎士がいやがったのか!」
馬車を取り囲んでいた賊たちが、後ずさる。
「申し訳ありません、アル様」
「いや、気にするな。この数だ、元より私も応戦する気でいたからな」
マデューラとアルファリオ殿下は共に頷きあい、そして戦闘態勢に臨む。
「マデューラ、可能な限り命は奪わぬように。戦闘不能くらいにするのだ」
「了解致しました」
あたしはごくり、と喉を鳴らして馬車の中からそっと様子を窺う。
しかし微かな不安はすぐに払拭された。
「ぐわぁっ!」
「ぎゃっ!」
ひとり、またひとりと次々に賊どもは殿下の前に倒されていく。
殿下はその場からほぼ動くことなく、両手の平から放つ魔法で軽やかに賊どもを戦闘不能にさせていった。
「すごいわ。噂には聞いていたけれど、本当に殿下は二つ以上の魔法を同時に放てるのね」
ジルドワール王家の者はその多くが優れた特質系魔力の持ち主だが、中でも歴代ナンバーワンと名高いアルファリオ殿下は、普通では不可能な魔法の扱い方ができる。
普通の魔術師はひとつの属性しか扱えず、一度に発動できる魔法はひとつだけである。
しかし殿下は違う。
特質系、というのは言うなれば『一般常識に捉われない形』をした魔力形態を指し、殿下は四大元素の魔法の全てを扱うことができる上に、それらを同時に扱えるという、まあ平たく言うと『バケモノ』である。
「ふむ、手応えがなさすぎるな」
あっという間に6人の賊を地べたに這いつくばらせてしまった。
殿下がやったのは風魔法と水魔法の応用で、片方の手で風魔法を鋭く発現させ賊の足の筋を切り裂き、もう片方の手で水を賊の足にまとわり付かせ一気に冷却して足を凍傷にさせてしまったのだ。
無論、そのような魔法の応用も簡単に成せるわけもなく、更に言えば殿下は『天才』なのである。
「な、なんて奴だ……テ、テメェ、一体なにもんだ!?」
それまでずっと賊どもの一番後ろの方でふんぞり返っていたリーダー格の男が怯えながら、そう言ってきた。
「貴様がこの集団のリーダーだな? これでわかっただろう。残った者たちを引き連れてさっさと去るのだな。貴様たち全員を相手にするほど暇ではないのだ」
殿下は威圧気味に言いつつ、そのリーダー格の男のもとへと歩み寄る。
「……っく」
これで賊たちも引き上げるわね。一件落着だわ、と安堵しかけたその時である。
「おっと、動くんじゃねえ! ボスから離れろや!」
林の中からそう叫んできたのは、賊の仲間と思われる一人の男。
「ひい! た、助けてください! 私はただ道を通りすがっただけなのに……!」
その男はどこからか連れて来た無関係の若い女性の首元にナイフを押し当てて、人質を取っていた。
「くくく、ラッキーだったぜ。この女がちょうど林道にいたんでなあ?」
「よーし! ニックよくやったぞ! おい、てめぇら、魔法が使えない様に両手を上げろ!」
ボスと呼ばれたリーダー格の男は形勢逆転と言わんばかりに強気に言い放って来た。
「貴様たち、卑怯な……。今ならまだ見逃してやったというのに、罪を重ねる気か?」
「うるせぇ! たかが二人の騎士なんかに舐められちゃ山猫団の沽券に関わる。とはいえ、俺様たちは優しいんだ。妙な真似せず持ち物全部引き渡せば、怪我まではさせねぇし、その女も無傷で解放してやるぜ?」
殿下は致し方なしと考え、苦い表情でマデューラに目配せをして両手を上げた。
「へへへ。最初っから大人しくそうしてりゃいいんだよ。さて、まずは馬車の中の荷物からいただくとするか。おい!」
ボスに指示され、一人の賊が馬車の中へと寄ってくる。
「お、おい貴様たち。我々に怪我はさせないと言ったな? だったら馬車の中の女性にも手を出さないと誓ってくれるか?」
殿下があたしを気遣ってそう言ってくれている。
「ぁあ? まだ中に人がいやがったか。まあいいぜ。俺様たちは優しいんだ。だが女、か。女の質によっちゃあその女も貰うかもしれねぇなあ?」
「なっ……! そ、そんなことは許さん!」
「許さんじゃねぇんだよ」
ボスの男はニヤニヤしながら殿下の前に歩み寄り、
「おめぇたちは今指示できる立場じゃねえって……言ってんだろうがよぉ!」
「ぐっ!」
バキっと、顔の右頬を思い切り殴られてしまった。
「これでわかったか? 怪我させたくはねえけど、あまり舐めた態度を取るなら俺様たちも手を出さざるを得なくなる。次逆らったらテメェの二の腕をナイフでぶっ刺してやるぜ?」
「わ、私には何をしてもいい。頼むから馬車の中の女性にだけは手を出さないでくれ! 頼む!」
「おーおー、随分とまあ必死じゃねえか。さてはてめぇの女か? だったら余計いたずらしたくなるなあ? てめぇの目の前でよお?」
賊どもの下卑た笑いが林の中にこだまする。
全く、いつの時代も捻くれた根性の奴らはやることが情けないね。
あたしは軽くため息を吐きつつ呆れていた。
ま、もうこれ以上奴らの好きになんかさせないけどね。
このあたしが。




