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第30話 盗賊どもが、襲ってくる!

 奇妙な美少女ケルトさんと別れ、カタシナの町を出てから三日が経ち、ようやく馬車はメヴィウス領手前の林道へと差し掛かった。


 道中の宿はマデューラが気を利かせて、しっかり部屋も別々にしてくれたこともあり、特段何かが起きるようなことはなかった。


 ただ唯一、気になっているのは殿下のあの言葉の続き。


「嘘だな。マデューラ、貴様はまだ朧げにしか理解していない。だからこの際、ハッキリと伝えてやる。リアナくんは……」


 あの時、殿下はマデューラに何を言おうとしていたのだろう。

 ケルトさんとのことですっかり有耶無耶になってしまった。


 馬車の中ではリンドバーグ家のことやメヴィウス領の話ばかりとなってしまい、結局そのことには触れずにいたままだ。


(殿下はマデューラに対して何を理解させようとしたのかしら……)


 そんなことをぼんやり思いながら窓の外を見やると、見覚えのある林道が遠目に映る。


「殿下、見えて来ました。魔の道です」


 御者の言葉の通り、通称、魔の道と呼ばれるあまり整備の行き届いていないこの街道は、魔物や賊の被害が多発しており旅人や行商人泣かせの場所でも有名だ。


「さて、ここらではもっとも治安の悪い場所だ。マデューラ、昼間とはいえ警戒しておけ」


 殿下はマデューラにそう告げ、彼も頷く。


「リアナくんはあまり窓から顔を覗かせないように。女子供が馬車にいると賊から更に狙われやすくなるからな」


「はい」


 実はここを通るのは初めてではない。

 当たり前だが、リンドバーグ家へと嫁ぐ際にも馬車でここを通過している。

 無論、その際はメヴィウス領から護衛の騎士たちに同行してもらっていた。


 その時は幸い何事もなかった、が。


「……殿下」


 マデューラが険しい表情をした。


「探知したか?」


「はい。距離500以内の林の中に30から80ほどの魔力値反応が11人。おそらく賊かと」


「そうか。よくやった」


 マデューラは本当に優秀な魔術師で、探知系魔法にも長けている。

 殿下は魔の道に入る直前から、あらかじめマデューラに探知系魔法を周囲へ施しておくように命じていたのである。


「しかし魔力値30から80か。大したことはないが、少々数が多いな。襲ってこなければ放置するが……」


 マデューラが首を横に振った。


「こちらに気づいている動きをしています。じきに現れるでしょう」


「やはりか。まあ王宮の刻印のなされた比較的小さめの馬車がひとつだからな。賊どもからすれば格好のえじきだ」


「どうしましょう?」


「……リアナくんに被害が及んで欲しくはない。相手の要求にもよるが、まずは私が話し合う」


「危険では?」


「なに、その時は戦うまでだ」


「それなら私が交渉を行ないます。殿下は馬車の中でリアナ様と待機を」


「ふむ。では貴様に任せてみよう」


 殿下とマデューラは万が一に備え、各々武器を構えた。ほどなくして馬のいななく声が轟いて、馬車が急停止した。


 マデューラの予測通り、ぞろぞろとがらの悪そうな男たちが不敵な笑みを浮かべて行く手を阻んだ。


「なんだ貴様たちは? 我々に何の用だ?」


 マデューラは単身馬車から降り立ち、賊どもに問いかける。


「有り金と身につけてるもん全部置いてきな。もちろん、馬車もだ。素直に言うことを聞けば命までは取らねえでやるよ」


「賊か」


「そうさ。さあ、大人しく言うことを聞きな。殺されたくなかったらな」


 馬車の周りは賊どもに囲われ、御者たちも怯えて身を縮こませている。


「ある程度の金なら渡してやらんでもないが、全ては無理だ」


「じゃ、死んでもらうしかねぇな」


 マデューラが馬車内の殿下を見て、首を横に振った。

 案の定交渉は決裂のようだ。


「リアナくんは身を潜ませたままでいるんだ。マデューラにひとまずは任せる」


「はい」


 あたしは言われた通りにする。下手に殿下たちの足でまといになりたくはなかったからだ。


「まずはお前から痛い目にあってもらうぜ!」


 マデューラと交渉していた賊のひとりが彼へと襲いかかる。

 重さのある太めの剣を振り上げて、力任せにマデューラを斬りつけようとした。


「馬鹿め」


 マデューラは右手を賊へとかざすと、素早く魔法の詠唱を済ませ、火球を放った。


「うぎゃあっ!? あちぃ!」


 火球は賊の右腕に直撃し、相手はその場でうずくまり剣を地面へと落とす。

 すかさずマデューラは距離を詰め、賊の顔面に右手を向けた。


「今のはほんの挨拶だぞ。俺が本気を出せば貴様の顔など、瞬時に炭にしてやる」


「ぐ……あ、あんなに早く魔法をぶっ放しやがるなんて……テメェ、ただの貴族の護衛じゃねえな? どこの騎士だ?」


「答える必要はないな。俺に敵わぬのはもうわかっただろう。そいつらを連れてさっさと消えろ」


「もう勝った気でいやがる。馬鹿が、後ろを見るんだな」


「何を……」


 マデューラが振り返ると、馬車の御者二人の首元に向かって、長槍が突きつけられていた。


「テメェが俺様の顔面を炭にするなら、同時にそこの御者二人には首に風穴をぶちあけてやるぜ」


「貴様……」


「へ。そういうことだから、その手を引っ込めるんだな」


 マデューラが憎々しげにかざした手を下げようとした、その時。


「ぎゃあ!」


 御者に向けられていた長槍が崩れた。


「マデューラ、やはり貴様だけでは些か難しかったか」


 馬車から降り立った殿下の魔法が御者二人を狙っていた賊たちを、打ち倒していたのである。


「も、申し訳ありません」


「いや、仕方あるまい。元より貴様は多数相手の戦闘は不向きだ。私も参加しよう」


 そういって殿下は魔術師用のグローブをギュッと、引き締め直したのだった。


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