第23話 クソな現場に出くわした!
それからあたしと殿下は、迎えにきてくれたアヴィン副団長に経緯を話し、火炎焼けの治った赤竜と共に王宮へと帰還した。
ラルフさんにもことの流れを話すと、
「リ、リアナさんは本当に凄いです。さすがは飛竜たちと会話できるだけありますね!」
と、感嘆の声を漏らしていたが、
「ラルフくん。いいか、リアナくんが今後何かしらの無茶な真似をしたら必ず私に報告するように!」
と、殿下からは厳し目に言われていた。
赤竜はあれからすぐに元気になり、厩舎小屋でゆっくりとしている。
『ありがとう、リアナさん』
赤竜はあたしにそうお礼を言っていた。あたしは赤竜に何度も丸呑みはやめるようにと諭しておいた。
「ふう……疲れたあー」
そんなこんなで宿舎の自分の部屋に戻ってひと心地ついたのはだいぶ夜遅くになってしまった。
それにしても明日以降も殿下と一緒に厩舎小屋の世話係をするのか。
「……殿下、あの時本当はなんて言おうとしてたのかな」
赤竜の口から出てきたあと、あたしに怒ってくれた殿下があたしに言いかけていた言葉。
『私はキミのことが』
まさか、とは思うけれどあたしのことが好きだ、なんて言おうとしてた……?
「そ、そんなわけないない!」
あたしはひとり、ベッドの上でうつ伏せになりながら足をバタつかせる。
確かに殿下は絵に描いたような理想的な王子様だ。前世のアニメに登場してもおかしくないほどの絶世の美形男子。
「いやいや、何を考えてるのあたしは。もうそういうのはクソルドルフで懲りたでしょ」
僅かな間とはいえ夫婦の契りを結んでしまった元旦那のルドルフ・リンドバーグ。
あいつは見た目だけで言うならそれなりに良い男だったとは思うけれど、いかんせん中身がクソすぎた。
元々初めて出会った頃から印象は悪かったし、特に身体を舐め回すように見てくる、あのいやらしい目つきに強い嫌悪感を抱いていた。
「……そういえばルドルフ。あいつはアレで大人しく引き下がってくれたのかしら」
ルドルフは実に嫌味でしつこい性格だった。
いくら殿下の判決とはいえ、あたしが処刑されないのはきっとおそらく不服のはず。
「何事もなければいいんだけれど」
そんな不安はしばらく後に的中してしまうことになるのだが、この時のあたしはそんなに深く考えずにいた。
●○●○●
翌日からまた殿下と一緒に厩舎小屋のお世話をするのかと内心ドキドキしながら思っていたのだが、今朝そこには殿下の姿はなかった。
ラルフさんに確認してみると、
「どうやら昨晩、殿下はエルドラド国王陛下に呼び出され、ここへの出入りは禁止されたそうです。王太子ともあろう者がそんなことでは威厳が損なわれるとかなんとかで」
と言っていた。
まあ、それも当然か。
「それに別の急務も舞い込んだとのことで多忙になり、どのみち殿下はしばらく竜騎士団の方には顔を見せられないそうですよ」
そうなんだ……。
って、なんであたしはちょっとガッカリしてるのよ。
そんなわけでまたあたしはラルフさんたちと厩舎小屋の世話を続けることとなった。
●○●○●
殿下が厩舎小屋に来なくなってから数日が経ったとある日の昼下がりのこと。
「あら? あれはカノッサさんだわ」
あたしはラルフさんとリノールトさんの三人で今日は少し早めの昼食を終えたあと、ラルフさんに頼まれた月に一度王宮へ提出する飛竜関連の資料を執務室へと運んでいた時だ。
ラルフさんの後輩で同じ厩舎小屋の世話係をしているカノッサさんが、王宮の裏庭へと続くレンガ道で奇妙な動きをしているのが遠目で窺えた。
「あんなにキョロキョロしてどこへ行くのかしら?」
カノッサさんはまるで隠れるように裏庭の方へと小走りで行ってしまった。
「そういえばカノッサさんっていつもお昼ご飯を一緒には食べないのよね」
カノッサさんは「自分は自炊しているので自室で食べます」と言っていた。
そのあとは少し部屋で仮眠していたりするらしいのだが、こんな場所で見かけるのは初めてだ。
「ま、あたしが王宮の方に来る用事がそもそもないものね。でも裏庭に何かあるのかしら?」
なんだか気になったあたしはカノッサさんの向かって裏庭へと足を運んだ。
人に見つからないよう隠れるように行動していたし、もしかしたら見てはいけないことをしてるのかも、と思いつつもあたしはコソコソとあとをつけてしまった。
そうしてたどり着いた、背丈の高い薔薇園の裏庭で、あたしはまたとんでもない現場を目撃することとなる。
「……友達? にしては雰囲気が変だわ」
カノッサさんに対して二人の人物が、何か言い合いをしている。
あたしは声が聞こえる所まで、彼らに気づかれないようにそろりそろりと近づく。
「カノッサ、てめぇぶっ殺されたいのか!?」
突然の大きな声にあたしはビクン、と身体を硬直させた。
「ちょっとガバネロ! 声が大きいわよ!」
「だってよぉミランダ。こいつ、舐めたこと言ってんだぜ? 俺ぁ確か50ジルド銀貨を持ってこいっつったはずなんだよ。それが30ジルド銀貨しか持ってきてねぇってのはどういう了見なんだ!?」
ガバネロと呼ばれた大柄の男とミランダと呼ばれた細身で目つきの鋭い女が、そう言い合っている。
「あ、あの……今月はちょっと厳しくて……」
「てめぇの事情なんか知らねえよ。俺の言うことが聞けねえって言うのか? 俺ぁ言ったよな? 毎月必ず50ジルド銀貨を上納しろってよぉ? 守れなかった場合、どうなるかわかってんだよな?」
はあ。
なんてことだ。
これはどう見てもカツアゲだ。
「で、でも今月は本当に手持ちに余裕がなくて……」
「ああ!? 聞こえねぇなあーッ!?」
「ひっ……」
ガバネロという男もミランダという女も竜騎士団ではない。あの服装はジルドワール王国の通常の騎士団の服装だ。
「てめぇら竜騎士団は下っぱでも大金を貰ってんだろうが!? だったら金がねえわけがねえだろうがよぉ!」




