第20話 赤竜の口へと突っ込む!
「赤竜、あの空に向かって思いっきり炎を吐いて!」
あたしが命ずると。
「……グルルル」
赤竜はそちらを見やったが、炎を吐こうとはしない。
「どうしたの? あっちなら何もない。思い切り吐き出していいんだよ!?」
あたしが困っていると、
「……くそ、やはり体調を崩して火炎焼けしている時の飛竜は一筋縄ではいかないか」
殿下も困窮した表情をして見せる。
『駄目なんだ。吐きたくても吐けないんだよ』
ふと、赤竜からの弱々しい声があたしへ届く。
「吐きたくても吐けないって言うのはどういうことなの?」
『わからないんだ。いつもなら綺麗に炎を吐き出せるんだけど、うまくできないんだよ……うぅ……』
赤竜は気分が悪そうに答える。
吐きたくても吐けない……。
「殿下! 飛竜が炎をうまく吐き出せない原因って何がありますか!?」
「な、なに?」
「この子がそう言ってるんです! 凄く辛そうに……」
「ふむ、吐きたくても吐けない理由、か。体力が著しく低下しているか、喉元の食道付近にある炎道に何かが邪魔をして塞いでいるか、だろうか……」
通り道に邪魔な何かがある……。
そういえばこの子……。
あたしはふと今朝のことを思い出す。
この赤竜が今朝、餌をたくさん食べていた時に気がついたのだが、この子は食べ物をあまり咀嚼しないで飲み込む癖が見受けられたのだ。
もしかするとそのせいで何かを詰まらせているのかもしれない。
「その炎道って場所に何か詰まっている、なんてことは考えられますか?」
「炎道に?」
「はい! この子、今朝のごはんの時もあまり咀嚼をしていないように見受けたのです。もしかするとそのせいで炎道に食べ物を詰まらせてしまったんじゃないかと」
「な、なるほど。ではこの赤竜は風邪ではないのか。だから一見元気そうに見えたのだな」
「どうすればいいですか!?」
「……む、う。困ったことになった、な……炎道の詰まり、だとすると……もはや手立ては……」
殿下は妙に口ごもっているが、
「ああん、もう! なんか方法があるんなら、もったいぶらないでさっさと教えなさいよ!」
あたしが痺れを切らし始めると。
「……誰かが飛竜にわざと飲み込まれて、異物を取り除けばいい。だが、そんなことは現状できない」
「どういうことなの!?」
「飛竜の炎道に物が詰まるという事案はごく稀に起こる。そうした事態が発生した場合、対処方法は二つ。ひとつは飛竜を放置して自然に運良く詰まりが解消するのを待つことだ」
「もし自然に詰まりが治らなかったらどうなるの?」
「……自身の生み出した炎量に耐えきれず、内臓から破裂して飛竜は絶命する」
「そんな……! そんなの絶対駄目ッ!」
「だから、本来なら誰かがわざと飛竜の口腔内に侵入する。だが、それをやって良いのは……罪人だけだ」
「罪人だけ……?」
「そうだ。それも死刑が確定している者だ。この意味がわかるか?」
「……つまり、異物を取り除きにいくのは命と引き換えだ、と?」
こくん、と殿下は頷いた。
「飛竜の炎道に詰まった異物を取り除いた瞬間、反射的に飛竜は炎道から凄まじい勢いで炎を吐き出す。それに耐え切れる人間は存在しない。つまり、この症状に陥った場合、運良く飛竜が詰まりを解消できない限り、飛竜か人間のどちらかが犠牲になるということだ」
そんなことって……。
「リアナくん。手綱を代わろう」
「殿下?」
「申し訳ないが今、この場で飛竜の背に乗り続けているのは危険だ。地表に降り立ってもらい、この赤竜には我々から離れてもらう」
「それってつまり……」
「この赤竜には申し訳ないが……」
そんなの絶対に嫌だ!
「嫌よ! あたしはこの子を見捨てない!」
「だが、どうすることもできん」
「あたしがこの子の口に入るわ! それでいいじゃない!」
「なッ……馬鹿なことを言うな。罪人でもないキミをむざむざ死なせるような真似は断じてできない!」
「あたしはこの子を見捨てることの方ができないわ! 飛竜って希少なのよね? それにあたしは罪人みたいなものじゃない。あたしの命でこの子を救えるなら、本望よ!」
「駄目だ! それは許可できん!」
殿下は頑なに拒否する。
『……ありがとう、リアナさん』
ふと、赤竜から声が届いた。
『キミのその想いだけで十分だよ。僕はひとりで死ぬよ』
赤竜はか細い声でそう言うと、あたしが命令してもいないのにゆっくりと降下して地表へと降り立った。
『さあ、降りて。僕はひとりで死ぬよ』
「駄目! 絶対駄目! ねえ、教えて赤竜! 何か方法があるはずよ!」
『方法なんて……』
「あたしはあなたと対話ができるのよ! だったらあなたとうまくやりとりしながら異物を取り除いたりできるんじゃないかしら? あたしが指示出すまであなたは炎を耐えてくれればいいじゃない!」
『で、でも自分でも制御できずに吐き出してしまったら……それに誤ってキミを飲み込んでしまったら……』
「でももヘチマもないわ! できるかもしれないじゃない! あたしはあなたを信じるわ、赤竜!」
『リ、リアナさん……』
「さあ口を開けて! あたしを受け入れなさい!」
『……わかったよ』
赤竜はその大きな顎をパカっと開いて見せる。
あたしはすぐさま飛竜の背から飛び降りた。
「リアナくん!?」
「ごめんなさい殿下! やっぱりあたしがやります!」
「ま、待ちたまえ! リアナくん!」
あたしは殿下の静止を無視して、赤竜の口の中へと飛び込んでいくのだった。




