第19話 初のフライトに感極まる!
殿下の簡潔な説明によれば、この赤い鱗の飛竜はあたしが聞いた通り体調を崩しているのは間違いないらしい。
しかしどうにも殿下の様子が深刻そうだ。
「リアナくん、赤竜は火炎焼けしている、と言っているんだな?」
「はい。正確には胸の辺りがぐつぐつしていて火炎焼けし始めている、というようなことを言ってますね」
「……」
殿下は少し考えるような素振りを見せる。
「ラルフくん。赤竜の手綱は?」
「え? ま、まだ背に付けたままですが……」
「そうか。ではリアナくん、すまないが今すぐにこの赤竜に乗ってもらえるか?」
突然殿下はそんなことを言い出したので、あたしは目を丸くした。
「え? で、ですがあたしはまだ馬に乗れないので飛竜に乗ることは不可能だとアヴィン副団長が……」
「いや、キミなら乗れるはずだ。というよりキミが乗るほか、ない」
「どういうことですか?」
「ときは一刻を争う。余裕はない」
「だから殿下、詳しい説明を……!」
「詳しく話している暇はない! 飛竜の乗り方は私が今から簡潔に教える!」
そういうと、殿下は飛竜への乗り方のコツを端的にあたしへと説明してくれた。
そして殿下は先んじて赤竜の背に跨り、あたしへと手を伸ばしてきた。
「さあリアナくん。私とともに乗るんだ!」
けれど……。
「で、ですが殿下。あたしは馬にすら乗せてもらえていません。だからきっと上手くいきません……」
「大丈夫だ! キミならやれる!」
「で、でも!」
「私を信じてこの手を掴んでくれ!」
アルファリオ殿下のその表情は真剣そのものだ。
「……わかりました。どうなっても知りませんからね!」
あたしはそう言いながらやぶれかぶれだと思いつつ、殿下の手を取り殿下の背中側から赤竜へと跨った。
すると。
「あれ……? 大人しいわ……?」
赤竜は馬の時のように大暴れしたりせず、大人しくあたしを乗せてくれたのである。
「よし、では飛翔する! ラルフ第五星団員! 万が一のことも考え、副団長のアヴィンに連絡を入れておいてくれ!」
「か、かしこまりました!」
「ではリアナくん、私の腰にしっかりと掴まるんだぞ!」
「は、はい!」
殿下はあたしの返事とほぼ同時に赤竜の手綱を操る。すぐに赤竜は翼をはためかせて、空へと羽ばたいた。
思っていた以上の速度で急上昇し、あたしは思わず「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。
「リアナくん! キミにとって初のドラゴンフライトだが、のんびりはできん! このまま北方の山岳部まで飛ばさせてもらうぞ!」
「で、でん……」
「行け! 赤竜!」
あたしが問いかける間もなく殿下は再び手綱をパシン! と操る。
赤竜は殿下の指示通りの方角へと向かって、水平に飛行し始めた。
「わ、ぁ……ッ!」
飛竜の速度ってこんなに出るんだと風を受けながら感動した。
「あは……! 凄い……凄い、凄い、凄いッ!」
あたしは無邪気にはしゃいでしまった。
ジルドワール王宮がもうあんなに遠くに離れている。
街も人も、あんなに小さく見える。
まるでバイクで空を走っているかのような気分にさせられた。
「ふふ、やはり怖くはない、か。だいたい初のドラゴンフライトはその高さと速度に多くの者が恐怖するのだがね」
「怖さなんて全くないです! それより、どうしてこの子はあたしを乗せても暴れなかったんでしょう……?」
「単純な答えだ。キミの特質魔力はおそらく神々の持つ魔力に近い。それほど異質で異端な魔力を宿すと並大抵の動物は畏怖してしまうのだ。だから、馬たちは皆はキミが怖かったんだよ」
「そ、そうだったんですか。でしたら早めに教えてくだされば……」
「すまない。実はそれを伝える為にも今日、私はここに来たのだ」
なるほど、そうだったのね。
「だから、どのみち厩舎での今日の仕事を終えたらキミにドラゴンライドをさせようと思っていたのだ。ところがこんな緊急事態になってしまうとはな」
「そ、そういえばこの赤竜は一体どうしたって言うんですか?」
「おそらくだが風邪だ」
「え?」
「竜族もごくまれに風邪をひく。そうすると人間で言う胸焼けみたいな状態になりやすい。人間や他の生き物なら嘔吐するだけで済むが、飛竜はそうはいかない」
「ま、まさか……」
「ああ。文字通り火炎焼け、と言ってな。炎を口からありったけ撒き散らかさないと治らないのだ」
「だから緊急事態だと言ったんですね」
「うむ。……よし、この辺りなら地表にも燃えやすい木々も少ないだろう。さあ、リアナくん。私と手綱を代わってくれ」
「え、ええ!?」
「いいか、これはリアナくんがやるのが一番良い。何故なら風邪で火炎焼けしている飛竜たちは思念や思考がぼやけてしまっていて、上手く意思疎通や調整ができないのだ。しかし飛竜と対話が可能なキミなら、それがスムーズにできる」
「で、ですがどうやって……」
「大丈夫だ。キミは思うがまま、感覚に従って対話を試みればいい。時間がない。いつ飛竜があさっての方向に炎を吐くかわからないから早く代わってくれるか?」
「わ、わかりました」
あたしは言われるがまま、殿下と座っていた位置を交換する。
「よ、よーし……」
あたしは一度だけ深呼吸し、
「赤竜、あの空に向かって思いっきり炎を吐いて!」




