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第17話 アルファリオ殿下、やって来る!

 マデューラたちと一悶着のあったその晩。


 竜騎士団の宿舎。

 あたしは部屋のベッドで、寝転びながら考えごとをしていた。


 今日は濃密な一日だったなあ。


 初めての厩舎小屋の世話係に始まって、ラルフさんにたくさんのお仕事を教わって、そうしたら食堂でクソみたいな奴に絡まれて、夜にはそいつに脅迫されて、そんでもって……。


「はあ。濃密すぎるわね」


 冷静に考えてみると、最近のあたしは色々ぶっ飛んでる気がする。


 でも何よりも引っかかるのが最後のあの殿下の言葉。


『私のリアナくんに』


 あれってどういう意味なんだろう。

 あたしは殿下のことほとんど知らないけど、殿下はきっとあたしのことを色々知っていそうなのよね。


 でも、なんであたしのことをそんなに?


 色々わからないことばかり。


「まあ、悩んでもわかるワケないわよね。明日も朝早いし、今日はもう寝なくちゃ」


 厩舎小屋の世話は早朝から始まる。

 明日もまたラルフさんと共に頑張らなくちゃ。




        ●○●○●




「おはようござい……え?」


「あ、おはようございますリアナさん」


「う、うん。おはようございますラルフさん。ところで……」


 厩舎小屋にやってくると、そこにはラルフさんだけではなく他に三名の人物がいた。


「ああ。彼らは僕と同じ飛竜たちの厩舎小屋の世話係で、同期のリノールトくんと後輩のカノッサくんです」


 ラルフさんと同じ清掃用の作業着を着用している、男の人二名を簡単に紹介してもらった。

 いや、それよりも気になるのは。


「おはよう、リアナくん!」


 最後の一名。

 それはまさかのアルファリオ王太子殿下なのである。

 しかも殿下も作業服を着ているではないか。


「あ、あの殿下は一体何をされているのですか?」


 驚きのあまりあたしがそう尋ねると、


「うむ。今日からしばらくの間、私も厩舎の世話係をやってみようと思ってな。いや、これは私がやったことがなかったから経験してみたいと思っただけなのだ。決して変な下心など、ないッ!」


 カッ! と、何故か異様にガンぎまった目ヂカラを全開にしてみせた殿下に、怖いもの知らずと言われたあたしでもこの時初めて少しだけ畏怖していた。


「そ、そうですか」


 あたしはサラっと流しつつ、ラルフさんに本日の予定を尋ねる。


「今日は人が多いので、色々分割して作業を進めます。リアナさんは昨日に引き続き僕と一緒にやりましょう。えっと、殿下は最初、カノッサくんについてもら」


「駄目だ」


「え?」


「私はリアナく……いや、ラルフ第五星団員、キミに教えてもらいたい」


「で、ですが僕はリアナさんと殿下のお二人を教えるほど器用ではありませんが……」


「大丈夫だ。私はキミたちの作業を見よう見真似で覚える。頼む、私をキミたちに付けさせてくれ。この通りだ!」


 殿下はそう言ってまた、あたしの時にしたように頭を下げてみせた。


「わわ、で、殿下おやめください! わかりました、わかりました! そ、それでは僕について来てください」


「ありがとう、ラルフくん! 邪魔だけはしないで頑張らせてもらう!」


 ラルフさんは慌てた様子で納得せざるをえなかった。


「ではリアナくん、よろしく頼む! 今日は頑張ろう!」


「は、はあ……」


 あたしはこの掴みどころのない王太子殿下に、奇妙な感覚を覚えるのだった。




        ●○●○●  




「それでこの決まった時間になったら竜騎士の第四星(だいよんせい)以上の団員たちが飛竜に乗って巡察に周るので、その間にやることは――」


 ラルフさんの説明通り、早朝の掃除が終わると一旦飛竜たちは厩舎に戻り、そこで餌をたくさん食べて、それから再び竜騎士たちと共に巡察や訓練などに飛び立って行く。


 あたしは先日ラルフさんに指導された通りに作業をこなしていったのだが、気になったのは――。


「……殿下は本当に厩舎小屋の世話係、初めてなんですか?」


「ああ、そうだぞリアナくん」


 殿下も一応竜騎士としての肩書きも持っている。

 殿下とまだ顔も見たことのない団長の二人だけは最等級の第一星(だいいっせい)よりも更に上のくらいの、特異星(とくいせい)団員とされていて、その理由は漆黒の飛竜、ゼファーに乗れるからだそうだ。


 くらいが第四星(だいよんせい)以上の団員は厩舎小屋の世話係などをやることはない。

 なので殿下がやったことないのは当然だ。


 だがしかし。


「それにしては手慣れすぎてませんか?」


 あたしが不思議そうに尋ねると。


「まあ昔からある程度は見ていたからな。見ること自体は初めてではないのでね」


「なるほど、そうでしたか」


 あたしがそう返すと殿下は怪訝な表情をして見せた。


「……そんなことよりリアナくん。どうしたというのだ?」


「はい? 何がです?」


「どうしてそのような感じになってしまったのか?」


「だから、何がですか?」


「リアナくん。私が好きなリアナくんはそんな感じではないはずだ」


 思わずドキリとさせられる。


「す、好きなって……いえ、それより話が見えませんが」


「リアナくんがそんな風に畏まっている態度では、私は落ち着かないと言っている」


「畏まってって……別に普通のつもりですが」


「そんな馬鹿なッ! 私と初めて会話したあの日のキミは、そんな感じではなかったであろう!?」


 と、言われて思い返し、あたしは思わず少し赤面した。

 あの日は確かに素のあたしが出まくってしまっていた。正直な話、あんな口調で過ごせば本当に不敬罪で処分されてもおかしくはない。


 いえ、そもそも……。


「そもそも何故殿下はそんなにあたしに甘くしてくれるのですか? あたしの態度、自分で思い返しても最悪でした。普通なら怒っていいはずです」


「何を馬鹿なッ!」


 急な殿下の態度にあたしは思わず身体をビクつかせた。

 

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