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第14話 黒馬の王子様、すっ飛ばす!

「さあて、まずはその胸の膨らみ具合から確認させてもらおうかねえ? 俺が満足するまで動くんじゃあねぇぞお?」


 マデューラは下劣な顔つきであたしの胸元へと手を伸ばしてきた。


 さて、どうするか。

 前世のあたしならこの腕を掴んでぐいっと引っ張りながら、利き足を払って直後に締め技へ持って行くけれど、今それをやったらラルフさんがどうなるかわからない。


 別に胸くらい触られたってどうってことないけど……いや、やっぱりこんな気持ち悪い男に触らせるのは嫌だ。


 くそ、どうする?

 ぶっ飛ばすか、我慢するか。


「やめてください! リアナさん逃げてください!」


 自分の心配よりあたしの心配、か。

 そんなラルフさんの声を聞いて、あたしは抵抗することを諦めた。


 その時である。


「な、なんだ!?」


 突如、上空から突風が吹き荒れた。

 同時にバサッバサッと激しい羽音が響く。


「ゼファー!」


 あたしは見上げて思わず声をあげた。

 厩舎の開かれた屋根、その上空から漆黒の飛竜ことあたしのゼファーが舞い降りてきたのである。


「来てくれたんだ!」


『ふん。貴様が困っているような思念が届いたからな』


 あたしがゼファーに言うと、ゼファーはそう答えてくれた。

 当然、周りの者たちにゼファーの声はただの飛竜の鳴き声にしか聞こえていないようだ。


「な、なな、なんでボス竜がここにきてるんだ!?」


 マデューラと他、取り巻きどもが慄いている。


「なぜ、は私のセリフだ」


 そしてゆっくりと舞い降りてくるゼファーの上から更にもう一つの声が響いた。


「なっ……ま、まさ、か……」


 マデューラが顔を青ざめさせて、後ずさる。


「よもやこのようなことになっているとはな」


「「ア、アルファリオ殿下ッ!?」」


 降りたったゼファーのその背に跨がっていたのは、まさかのアルファリオ王太子殿下だったのである。


 ゼファーの背から飛び降りるとアルファリオ殿下は険しい表情であたしとマデューラのもとへと歩み寄った。


「何故、このようなことになっている? マデューラ第一星(だいいっせい)団員?」


「こ、これはですね……」


「そこのキミは確かサイード第三星(だいさんせい)団員だったな。サイード第三星団員、キミは何故そこのラルフ第五星団員にナイフなどを突き付けている?」


「あ! い、いや……これは間違いで……へ、へへへ……」


 サイードと呼ばれたマデューラの取り巻きの男は、慌ててナイフを隠すようにしまい込んで、視線を泳がせた。


「マデューラ第一星団員。どういう状況だ?」


「ち、違うんです殿下! これにはワケがありまして」


「ほう? ではそのワケを聞こう。女性の胸元に手を伸ばして何をするつもりだったのかを」


「あ、あの! そうじゃなくて、これはただの軽い冗談で……そ、そう。そこの女の態度が悪いので、少したしなめようかと思いまして……」


「態度が悪い?」


「そ、そうです! この女、貴族出身なのかどうか怪しいぐらいに口調も行動も粗暴なんですよ! 昼間も食堂で大騒ぎを起こすし! こんな女が王宮にいるなんて広まったら殿下たちの素行も疑われてしまうと思って、それを正そうとしたんです!」


「ほう」


 アルファリオ殿下は険しい表情であたしの方をチラリと見やった。


「そうなのか? リアナくん」


「あたしはあたしの信念に従って、行動した。それが正しいかどうかなんて知らない。ただそれだけだよ」


「ふむ」


 アルファリオ殿下は再びマデューラの方を向き直す。


「ほら! 殿下に対してもこのふてぶてしい態度! これは大問題でしょう!?」


「ああ、大問題だ」


 殿下がそういうとマデューラは少し笑った。


「は、はは。ですからこの女の粗相を私めどもがしっかり正して、教育しますからご安心を!」


「いや、教育が必要なのはキミだ。マデューラ第一星団員」


「え?」


「私が何も知らずにこの場に来たと、本気でそう思っているのなら非常に残念だ。私もリアナくんほどではないとはいえ、飛竜たちの思念や思考は多少なりとも受け取れるのだよ」


「え? え?」


「意味がわからないか? 私はこの黒竜に呼ばれてここに来たのだと言っている」


 そうか、ゼファーがあたしのことを殿下に知らせてくれたんだ。


 あたしがゼファーを見上げると、


『我は貴様を認めてやったからな。友の危機には駆けつけるものであろう?』


 ゼファーがあたしのことを友って言ってくれた!

 あたしはそれが嬉しくて満面の笑みで頷いた。


「お前たちがしでかしたことはおおよそ把握している。元より昼間の騒ぎのこともコズトロフ卿より聞き及んでいる。そのうえで、この私を欺こうなどとは、愚行にもほどがあるッ!」


 殿下は声を大にして荒げる。


「ひい! で、殿下! この女は本当に態度が悪くて……!」


「リアナくんの態度は私が許しているからいいのだ!」


(自分のことながら、どうしてこの殿下はあたしのことにはこんなに甘いのかしら……)


「す、すすす、すみませんでした!」


「謝罪はもう遅いッ! 何より私のリアナくんに対して行なった行為は断じて許せんッ!」


(へ!? 私のってどういうこと!?)


「マデューラ第一星団員、並びに貴様たち全員には今この場で、我が権限により竜騎士としての処分を言い渡す」


「そ、そんな……」


「ここにいるリアナくんとラルフ第五星団員を除く全員を一等星分降格とし、また主犯責任としてマデューラ・フェスタロッサには二週間の独房入りを命ずる!」


 がくり、とマデューラはその場で崩れ落ちた。


「その間にて更生が見られない場合は、王宮追放も考える。独房にて深く反省せよ! 他の者たちも同様だ! わかったか!」


「う、ううぅ……は、はい……」


 こうしてマデューラとその取り巻きたちの悪事は見事、殿下によってあっさりと裁かれてしまったのであった。


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