第13話 マデューラさん、報復にくる!
食事を終えたあたしたちは再びラルフさんの指導のもと、厩舎小屋の清掃やメンテナンスの続き、飛竜たちの食事の支度などを始めた。
外はもうすっかり暗くなってしまった。
覚えることは盛りだくさんだったが、想像以上にやりがいもあるし、なにより飛竜たちに触れ合いながら彼らへ餌を与える時が凄く楽しかった。
「珍しい……こんなに大人しくこの子たちがご飯を食べてくれるなんて。さすがリアナさんです。飛竜との適性値が高いっていうのは本当だったんですね」
どうやら飛竜との適性検査が高くないと満足に餌やりもできないらしい。
その為、ラルフさんはそれにだいぶ苦戦しているのだという。
「でもラルフさんはどうして竜騎士になったんですか? あ、嫌味とかではなく純粋に気になったので」
「僕は平民の出身でして。実家はリンドバーグ領内の外れに住む農民なんですけど、年々不作が続いていて生活に困窮していたんです。そんな折、王宮で竜騎士募集の話を聞きつけてやってきたんです」
「そうだったんですね。でも竜騎士ってお金になるんですか?」
「はい。お給金は一番くらいの低い第五星団員の僕でも、このくらいは……」
と言ってラルフさんは片手で四の数字を見せた。
「凄い。40ジルド銀貨も支払われるんですね」
「いえ、4ジルド金貨です」
「!!」
それは本当に凄い話だ。
1ジルド金貨もあれば一ヶ月の食事には十分困らない。一般平民の基本給が平均30ジルド銀貨であることを考えればかなりの高級取りである。(100ジルド銀貨で1ジルド金貨)
「とはいえ、実家への仕送りや他にも貴族同等の身だしなみや会合などに参加しなければなりませんから、そんなに余裕はありませんけどね」
しかしそれでも4ジルド金貨は大金だ。
「僕には竜騎士としての適性はなかったんですが、人手不足だったのと僕が農民で馬の厩舎小屋の手入れに慣れていたのもあって、採用してもらえました」
なるほど、どうりでラルフさんは手慣れているわけだ。
話を聞くと、ラルフさん以外にもあと数名厩舎小屋の世話係はいるらしいが、どうやら今日は他の人たちは非番なのだそうだ。
などと、ラルフさんと他愛もない話をしながら飛竜たちに餌やりをしていてふと気づく。
(あれ? ゼファーがいない)
「あの、ラルフさん。ここには漆黒の飛竜はいないんですか?」
「ああ、あの飛竜は特別なのであそこにいるんです」
と言ってラルフさんが指差したのは王宮の屋根の方。
よく見ると高い城壁の上にある大きなバルコニーに一際大きな厩舎がたしかにひとつだけ、ポツンと見えた。
「ボスは殿下と団長の言うことしか聞かないので、あそこで殿下とその侍女たちがお世話をしているんです」
そうなのね。
ううん、それよりも気になるのは。
「あの飛竜はボスって言う名前なの?」
「ああ、いえ、それは僕たちが勝手にそう呼んでいるだけです。まあでもこの王宮の敷地内にいる飛竜たちの中でも彼が一番大きくて偉いので間違いではないんですけどね」
やっぱりゼファーはただの飛竜じゃないのね。
雰囲気からして威風堂々としていたもの。
「あれ? みんなどこ行くの?」
あたしが飛竜たちの餌やりを終えると、飛竜たちはバサッバサッと、一斉に厩舎の屋根から飛び立って行った。
「食後の運動です。飛竜たちは食事の後、必ず一時間ほど上空を飛んでくるんです。その間に空でたくさんの火炎を口から放出してくるんですよ。そうしないと体調を崩してしまうので」
「へえ、そうなんだぁ」
あたしが暗がり始めた空に飛んで行く飛竜たちを見つめていると、ラルフさんは上ではなく厩舎の人間用の出入り口の方を見ていた。
「……マ、マデューラ、さん」
ラルフさんが厩舎の出入り口に現れたその人物を見て呟く。
そこには昼間、あたしたちに絡んできたあの嫌味なやろーが立っていたのである。
「よお、お二人さん。夜遅くまで仲良くイチャイチャしてて楽しそうだなあ? おい?」
あの茶髪のマデューラって奴は相変わらず取り巻きみたいなのを五人も従えて、ニヤニヤとこちらを挑発している。
「あの、なんのご用でしょうか……」
「ぁあ? ラルフ、てめぇ俺たちが何の用で来たのかわかんねーのか!? てめぇとそこの暴言クソ女に昼間のお礼をしに来てやったんだよ!」
やはりそうなのか。
全く、どうしてこういう輩っていつの時代もこうなのかしら。
「おい」
マデューラが取り巻きたちに指示を出すと、厩舎の出入り口を塞ぐように彼らは構えた。
「さあ、ラルフくん。分不相応なキミには俺たち大先輩から少しお説教を受ける必要があるねえ。あと、そこのクソ女は女として生まれたことを後悔させてやるからなあ? くかかかッ!」
これが本当に侯爵家の跡取りだというの?
誇り高いと噂の竜騎士なの?
「とりあえずラルフくん。てめぇは少しの間大人しくしてろ」
マデューラがそういうと取り巻きのひとりがラルフさんを背後からはがいじめにした。
「っく! は、離してください! お説教なら僕だけで十分です! リアナさんに手は出さないでください!」
ラルフさんは恐怖で青ざめているというのにあたしの心配をしてくれている。
「さぁて、女ぁ。昼間は人の目もあったから勘弁してやったが、ここじゃもう許さねえ。その汚ねぇ服を全部ひん剥いて、徹底的に辱めてやるぜ」
こいつ、本当に最低なクズ野郎だ。
「この女と遊んでやった後は、ラルフ、てめぇだ。足の骨一本くらいは覚悟しとけよ。なぁに、お前らまとめて命までは取りはしないからよ?」
そう言いながらマデューラはあたしの前へと歩み寄ってきた。
「……ざっけんな。あたしがあんたらなんかに黙って良いようにされると思ってんのかよ?」
「おー、相変わらずおっかねえ。お前は本当に女かよ? けど、お前が黙って良いようにされないなら、こうだぜ?」
マデューラが合図をすると、ラルフさんをはがいじめにしている男が彼の喉元にナイフをあてがった。
「殺しまではしないが、殴られるより酷い目には合うかもなあ?」
「あんたら、これ立派な犯罪だぞ? こんな王宮敷地内でこんなことしてただで済むと思ってんの?」
「済むさ。なんせこのことは俺たちが口外しなければどこにも漏れないし、仮に漏れても俺の親父に頼んでなんとかしてもらうからなあ」
こいつ、本当に救えないクズだ。




