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第12話 馬鹿な竜騎士、ぶっ飛ばす!

「さっきから黙って聞いてりゃクソみてぇなことばかり言いやがって。てめぇらは何もんなんだって聞いてんだよッ!」


 ガシャンッ! と再びあたしは目の前の食卓を蹴り飛ばして、あたしやラルフさんに絡んできた竜騎士の奴らに近付いて行った。


「え? え?」


「あたしはリアナだ。見たところ、てめぇがリーダー格だな?」


 あたしは一番偉そ気にしていた茶髪のロン毛男へと迫り、そいつの胸ぐらをぐいっと掴んだ。


「おい、てめぇだよ。名前」


「な、なな、なんなんだお前は!? 無礼だぞ!?」


「名前は?」


「聞いているぞ! お前は男爵家の娘なんだろう!? 俺の父はこう見えても名のある侯爵家で……」


「そんなの知るかよダボがッ!」


「あいたぁ!?」


 あたしは思わず右手でこの男の頬を引っ叩いてやった。


「んなこと聞いてねーんだよ。名前を名乗れっつってんだよ!」


「マ、マデューラだ! マデューラ・フェスタロッサ! 聞いたことがあるだろう!? 俺はあのフェスタロッサ家の嫡男だ! 次期侯爵なんだぞ!?」


「そんなの知らねー。それよりてめぇはさっきから喧嘩売ってたんだろ? こいつによお」


 あたしは目を座らせたまま、ラルフさんを親指でくいっとやった。


「んで、あたしもナンパしたんだよな? どっちもあたしが買ってやるぜ。あ? 殴り合いすっか?」


「お、お前、本当に女か!?」


「てめぇは本当に男かよ。さっきから足ガクガクしてんじゃねーか。人を煽っといて、自分が威圧されたらビビってんじゃねーよ、雑魚がッ!」


「く、ぐ! お、お前なんか俺の権限ひとつでどうとでもなるんだぞ!? 侯爵家で竜騎士のこの俺が騒げばあっという間にだな……」


「そぉじゃ! ねぇーんだ、よぉ!!」


「ひい!?」


「てめぇ自身があたしとタイマン張る気があんのかって! 聞いてんだよクソガキがよぉッ!」


「ひぃいいいー!?」


 茶髪のマデューラという男はその場で崩れ落ちた。


「おい、よく聞けクソガキ。ラルフさんはすげー奴だ。あたしはコイツの凄さがわかる。あの飛竜の厩舎小屋は普通の馬小屋なんかとはレベルが違う。掃除のやり方も、覚えることもすげー多いし大変だ。それがてめぇにできんのか?」


「そ、そんなのは竜騎士の仕事じゃ……」


「誰の仕事とかかんけーねーんだよ。人が頑張ってやってるもんにくだらねーケチつけてんじゃねーっつってんだよ!」


「け、ケチなんかつけてない! 俺はただ、ラルフが可哀想だからと……」


「可哀想? だったらてめぇも厩舎小屋の清掃手伝えや? あ? てめぇは一回でもやったことあんのか?」


「ひ!? そ、それはないが……」


「だったらガタガタ文句言ってんじゃねーよダボが!」


「ひいい!? あいだぁッ!」


 あたしは掴んでいたマデューラをぽいっと突き放した。


「おい、てめぇらもだ」


「「は、はい!?」」


 あたしは他の取り巻きたちにもガンをくれてやる。


「てめぇらもラルフさんの仕事、やったことあんのか?」


「い、いや……ない、です……」


「やったこともねーのに馬鹿にしてんのか? どんだけ大変な仕事かもわからねーのに? 飛竜の適性検査に合格してないから? そんなくだらねー理由でラルフさんを見下して、馬鹿にして楽しんでたのか?」


「い、いや……そういうわけじゃ……」


「そういうわけだろうがよぉ!」


 あたしはまた近くの椅子をガーン、と蹴り飛ばした。


「「ひ!?」」


「てめぇら、いい加減にしろよ? 人を馬鹿にすんなら、命張る覚悟くれぇしとけや。あ? あたしみてぇな女に啖呵切られたくれぇでビビんなら、ハナっからクソみてえな虐めなんかすんじゃねぇッ!」


 あたしが更に一際大きな声でそう叫ぶと、ざわざわとたくさんの人が集まりだした。


「お前たち、何してるんだ!?」


 すると廊下の奥から声の低い男がそう言いながらこちらに近付いてくる。


「やばい、コズトロフ教官だ」


「お、おい。もう行こうぜ」


「マデューラさん、ほら、行きましょう」


 マデューラの取り巻きたちはそう言うと、腰を抜かしていたマデューラを引き連れて、その場から逃げるように去って行ってしまった。


 ったく、喧嘩もできなけりゃ謝罪もなしか。


 本当にクソみてえな奴らだったな。


「おい、キミ! ここで何をしていた!?」


 白髭で強面のおっさんがあたしの前に立ってそう尋ねてきた。


「何もしてねえ……じゃない。何もしてません。あたしたちはただ、仕事の話をしていただけです」


「嘘をつけ! それで何故こんなに食堂のテーブルが割れたり椅子が飛散している!?」


「あー、それは……」


 あたしが困っていると。


「こ、これは僕が転んでしまって割ってしまったんです」


 ラルフさんがそう助け舟を出してくれた。


「転んだ……? 転んだだけでこんなおおごとになるかね!?」


「それは、えっと……」


 ラルフさんも困っていると。


「そうなんだよ! 実はその子、今盛大に転んじゃってご飯が台無しになっちゃったんだよね。だからほら、今私らが作り直してたところなんですよ、コズトロフさん!」


 食堂の厨房からエプロンを着た恰幅の良いおばさんが、料理をトレイに乗せてこっちへ運びながらそう言った。


「ほら、あんたたち。作り直してやったからこっちを食べな」


 そう言いながらおばさんはあたしたちにパチン、と器用にウインクしてみせた。


「……ナターシャさんがそう言うなら、そういうことにしておこう」


 コズトロフ教官はそれだけ言い残すと、それ以上は何も言わずに去って行ってくれた。


 あたしとラルフさんはふうっと、溜め息を吐いて落ち着いた。


「あの! すみません! ありがとうございますッ!」


 あたしはすぐにおばさんに頭を下げて謝罪した。


「いいんだよ。それよりあんた、華奢な女の子に見えたのに、中々やるねえ。男なんかに舐められてたまるかーって気概が気に入っちゃったのよ。だから、この料理はサービスだよ」


「ありがとうございます! えっと、ナターシャさん! でも壊してしまったテーブルと椅子は後で必ず補償します!」


「あはは! いいんだよこんなボロテーブル。ちょうど良い機会だから殿下に頼んで交換してもらうさ」


 そう言って彼女は再び厨房へと戻って行った。

 本当に気持ちの良い人がいてくれて助かったわ。


「あの……リアナさん。ありがとうございました。こんな僕なんかの為に、あんな風に言ってくださって……」


「何言ってるんですか。事実を言っただけですよ。それより早くご飯、食べちゃいましょう!」


「う、うん。そうですね」


 あたしはそれから何度もナターシャさんにお礼を言って、そしてラルフさんと気を取り直して食事を再開させてもらった。




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