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第10話 お馬さんにすっ飛ばされる!

「うぅぅ……完全にやってしまったわ……」


 あたしは王宮の客室内の小さな部屋のベッドの上で枕にうつ伏せになって、足をバタバタとさせていた。


「頭に血が昇っていたからといって、王太子殿下にあんな態度……はあぁぁ……」


 あたし、リアナ・メヴィウスには前世の記憶が色濃くある。

 とはいえ、それがあたしの全てというわけではない。きちんとメヴィウス家で教育されたこの世界の常識を弁えたそれ相応の教養もあるにはある。


 前世の性格が思いっきり表に出ちゃったのは、リンドバーグ家のクソマザコン男のせいなのだけれど、その勢いのまま宮廷貴族や王太子殿下にまであんな態度でいたことを、夜になって後悔していた。


「殿下に向かってタメ口で話すだけじゃなく、あんた、とか言っちゃった……」


 でも正直な話、あの時のあたしはもうどうとでもなれって気持ちだったせいでもある。


 それがまさか王太子殿下に助けられて、更には王宮内で暮らすことになるだなんて思いもよらなかった。

 そうなって、冷静になり始めた今、あたしはあたしの言動の数々に後悔し始めていたのである。


 確かに信念を曲げるつもりはないけれど、だからと言って誰彼構わずタメ口をきいてしまうのは大問題だ。


「はあぁ……。明日からはきちんとしよう。何にしても明日からは竜騎士団の一員なわけだし」


 明日からの態度を改めるとして、あたしは新たな生活に臨む決意をした。




         ●○●○●




 ――翌日、早朝。


 あたしが寝泊まりした王宮の客室に、一人の青年が尋ねてきた。


 その人は竜騎士団員の人で、あたしを迎えに来てくれたのだという。

 あたしは彼に案内され、竜騎士団の宿舎に来た。


「初めまして。キミがアルファリオ殿下の言っていたご令嬢だね。私はこの竜騎士団、副団長のアヴィンだ。歳はキミと同じ18歳だよ」


 晴天の海のように鮮やかな青い髪が特徴的な好青年が、あたしへとそう挨拶を交わす。


「初めまして。リアナ・メヴィウスと申します」


 あたしも簡素なスカートの両端を持ってカーテシーで挨拶を返した。


「あれ? 随分と礼儀正しいね? 聞いていた話と違うなあ」


 おそらく昨日のあたしの件を殿下やらから聞き及んでいるのだろう。


「お恥ずかしい限りです。昨日は私も取り乱しておりましたゆえ……」


「へぇ、そうなんだ。それにしても驚いたよ。まさか宮廷裁判所で啖呵切るだけじゃなく、アルファリオ殿下にも変わらない口調で話してたんだって?」


「ご、ご覧になられていたのですか?」


「いや、周りの者たちから聞いた話さ。それにしてもよくそんなことができたね。普通であれば、その場で投獄されてもおかしくないくらいの大罪だよ」


「そう、ですね。なんというか、私は我慢できなくなると、そうなってしまう、という感じでして……」


「なるほど。じゃあ今のキミは猫を被っているわけだ」


「いえ、今は冷静に立場を弁えているだけです」


「そっか。ちょっと残念だ」


「え?」


「まあ、それはいい。さて、昨日殿下から話は聞いている。キミは竜騎士団の団員になるに相応しい人材のようだ」


「ありがとうございます」


「ではまず、いくつか竜騎士としての心得を説明しておこうと思う――」


 副団長のアヴィンさんはそれからあたしに竜騎士としての活動内容や行動制限、規律などを簡単に説明してくれた。


「――と、まぁこんなところだ。それと入団から一ヶ月間は、許可なく王宮の外へ出ることは禁じられている。なので勝手に町へ出たり故郷へ帰ったりしないようにな」


「わかりました」


「さて、続いて主要任務について話そう。キミの主な任務は竜騎士となって国と町の治安を守ることが第一となる。その為に必須なスキルはドラゴンライドだ」


 その言葉を聞いてあたしの胸は高鳴った。

 竜に乗れる!

 ゼファーに乗せてもらえるんだ!


「キミには馬術の経験はあるか?」


「いえ、全く……」


「ふむ。馬と竜では当然乗り方も操り方も大きく違うが、それでも馬に上手く乗れない者がいきなり竜に乗ることは不可能だ。まずは馬の厩舎へキミを連れて行こう。そこで馬術の基本を教えるから、キミがどのくらい出来るかを確認させてもらう」


「あ、あの! もし馬に乗れなかったら竜騎士にはなれないのですか?」


「いや、そんなことはない。竜騎士と言ってもやる事の幅は広いからね。竜の世話係や竜の厩舎の手入れなどがある」


「それでも竜には乗せてもらえないんですよね?」


「そうだな。でもまあ、馬に乗れるようさえになれば、いつかは許可するから安心していい。なに、多少時間が掛かっても誰でもできるようになるさ」


 馬、か……。

 全く未経験だけれど、あんなのきっと簡単に乗りこなせるわよね。


 そう、思っていたけれど――。




        ●○●○●



「リアナ、そうあまり気を落とすな。また明日、頑張ろう」


「はい……」


 結果から言うと、あたしには馬術の才能がなかった。

 副団長のアヴィンさんが、一番大人しくて人懐こいと言ってくれた子供でも比較的乗りこなしやすい馬なのに、あたしには無理だった。

 馬に乗せてもらおうとすると、馬が暴れてあたしを振り落とすのである。


 何度挑戦してみても、馬はあたしを嫌うかのように暴れて振り落とされる。


「明日よ。明日には絶対乗って見せる……!」


 それでもあたしは諦めなかった。


 最初だから仕方がないのかと思って、それから毎日、毎日、アヴィンさんに見てもらいながら馬に乗る練習をした。

 けれど、一度も満足に跨らせてはもらえない。


「うー……む。リアナ。キミはしばらくは厩舎の掃除係を頼めるか?」


「ま、まだやらせてください! あたし、必ず馬に乗れるようになりますから!」


「いや……キミには難しいのかもしれない。だがまあ、気を落とすな。竜に乗れなくても竜騎士としての才能はバッチリある」


 馬術では全くのセンスも無いとされたあたしだが、竜の厩舎で数匹の飛竜たちと触れ合う時のあたしは、アヴィンさんに褒められた。


 それは飛竜たちがあたしには大人しく触れさせてくれるからであった。


「で、でも!」


「いや、これ以上キミを怪我させるのは申し訳ないからな。またしばらく頃合いをみてから馬術の訓練はやり直そう」


「そんな……」


 あたしの飛竜、ゼファーに乗せてもらう約束はこれで果たせなくなってしまったとあたしはその日、心底落ち込んだのだった。




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