43 戯れの夜
冬囲い。フォリアさんから初めてその言葉を聞いた時、僕は知ったかぶりをした。もちろん、すぐに見破られて、彼女に怒られながら僕は精霊の苗木を植えた地面の保護をさせてもらった。藁を敷いてボロを被せる。たったこれだけのことで大体が賄えるとのことだった。
バハティエに雪はそれほど降らない。それでも何年かに1回は大雪が来るらしいとのことで、苗木はさらに木枠で囲ってその上から藁で包み込むという厳重な保護体制がとられることになった。このやり方を教えてくれたのはウリナさんだった。彼女は霊園の植物の管理なんかも仕事にしているので、この方法を知っていた。
庭の西側に植えた苗木のチェック。戸締りチェック。暖炉のチェック。台所に良からぬ生物が侵入していないかのチェック。ここまでを済ませた僕はその日、いつもより少し遅い時間に寝室へと戻った。
「あれ? ノト君……もしかして、僕の為に布団を温めておいてくれた、とか?」
「んん」
先に休んでいたはずの勇者様が、ベッドの中でもぞもぞと動いて場所を移動した。僕は嬉しくなって、すぐに優しい旦那様の隣に潜り込んだ。勇者様の腕の中には負けるけど、布団の中は彼の大きな温もりと労りの気持ちがしっかりと残されていた。興奮冷めやらぬ僕は、さらに布団の中に潜り込んで、勇者様の服をめくり上げて横腹のお肉を吸った。
「へあぁぁ、あ、ありぃ?」
気の抜けた声がたまらない。僕は何度か同じことを繰り返してから枕元に顔を戻した。
「えへへ、ありがとうございます。うぅ、苦しいぃ……お昼を食べ損ねちゃったからって、ちょっと気合いを入れすぎちゃいましたかね?」
「んん、むぅ」
教会での話し合いが思ったよりも長引いてしまったこともあって、腹ペコだった僕たちはいつもの倍ぐらいの量の夕食を胃袋に収めてしまっていた。勇者様のキリッとした表情が嬉しかった、2人だけの小さな晩餐会は多幸感に満ち満ちたものだった。
「でも、お腹がいっぱいで苦しいって、とっても幸せなことですよね」
「んん」
「ノト君、元気になったら、また木の実のお粥を作ってくださいね?」
「うん」
勇者様は確かな返事をしてくれた。またまた嬉しくなった僕は、勇者様の体に欲望を強く押し当てながら、彼の頬と耳、そして首へとキスをした。
「うわぁ、しまった。食べ過ぎて……」
満たし過ぎた満腹感は、それ以上の激しい動きに耐えられそうになかった。少し動いただけでも、詰め込み過ぎたスープが喉元にまで迫ってきていた。
「残念ですけど……せめて、手だけは繋いで寝ましょうね?」
「うん」
勇者様が食い気味にホッとしたような声を出したことに、引っかかるものを感じた僕は予約を入れておくことにした。
「……でも、あれですよ? 朝になると元気になることは知っていますからね?」
「!?」
僕は笑いながら勇者様の手を握った。温かい彼の手だけでは、なんとなく満足しきれなかった僕は繋いだ手を放して、布団の中で彼の体の上に覆い被さってみた。
「う……あ、ありぃ?」
「むふふふふ」
勇者様の分厚い胸元は、彼の鼻の穴までバッチリ見える位置だった。僕は勇者様の両手をとって指を1本1本絡め合ってから、彼の胸に耳を当てて目を閉じた。彼の匂いと心臓の音は最高に安心できるものだった。馬車の中で全身を包帯でグルグル巻きにされていた時の彼の匂いも嫌いではなかったけれど、やっぱりこっちの方が断然好きだった。
「苦しいですか?」
「う……むぅ」
勇者様は僕を傷つけないために言葉を濁してくれた。僕は彼の胸にグリグリと自分の顔を擦りつけてから元の位置へと戻って手を繋ぎ直した。
「おやすみなさい、ノト君」
「……うん」
お互いに軽く息を弾ませながら、ようやく僕たちは眠りについた。




