39 暖炉端会議
冬の月、最初の週はもう折り返しを迎えていた。この日、我が家を訪ねてくれたのはウリナさんとアリッサちゃんだった。改築を終えたばかりのダイニングに、計らずともお気に入りのメンバーが集まった僕は、ご機嫌に午前のひと時を楽しんでいた。
「……あったかい」
水仕事をしてきたのか、ウリナさんは赤くなった両手を暖炉の火にかざしながら呟いた。
「すごいでしょう? これが暖炉というものですよ」
あれからハンス親方とバードさんは町や鍛冶場を何度も往復して、時間をかけて暖炉作りに必要な廃材を集めてきてくれた。材料を揃えた彼らは、あっという間にこの家に暖炉を作り上げ、今は聖夜祭を控えた教会のために新たな暖炉作りに奮闘している真っ最中だ。
「こ、こ、これなら、ノト様も安心ですね」
自分から目を合わせにいったくせに、アリッサちゃんは顔を赤らめて勇者様から顔を背けた。彼女のような可愛らしさを全部聖都に置いてきた僕は、ちょっとした嫉妬心を押し殺しながら親方たちの仕事ぶりを説明した。
「寝る前にこの鉄の蓋を閉めると、ほんのりなんだけど朝になってもまだ暖かいんだ」
「……すごい」
「ど、どうして、そ、そうなっているんですかね?」
「……さあ?」
僕という人間は本当に浅いし、成長しない。受け売りすらまともにできない、この始末。動物の扱いだったら忘れないのに、他のことになるとどうしてこうなってしまうのか自分でもわからない。けれど僕みたいな女でも、やってはいけないことだけをきっちり覚えて、それさえ守っていればバハティエではやっていける。
「……ふふっ」
ウリナさんは元の色を取り戻した手で口元を隠しながらクスクス笑った。彼女につられてアリッサちゃんが、その次に勇者様が笑った。好きな人たちに笑ってもらえて満足できた僕は、暖炉に薪を一本追加して、今度は彼女たちのする話の聞き役に徹することにした。
ウリナさんの新婚生活の様子、アリッサちゃんの食事についての栄養解説、そういった僕の興味のある話から日常におけるとりとめのない話まで、雑談の話題はまったく尽きなかった。
「……最近になって、ついに僕も薪割りを始めまして。これが結構きつくてですねぇ。体がムキムキになったら、どうなっちゃうんだろうって。そんなことを薪割り中に考えちゃったりして……もしそうなったとしても、僕のことを愛してくれますか?」
「ん? ん、んん」
僕の問いかけに、勇者様は困惑してからすぐに肯定しなおした。上品に笑うウリナさんとアリッサちゃんを見て、僕はおもてなしの確かな手ごたえを感じた。
少しだけ音階の高い、乾いたノック音が玄関から聞こえた。
「はーい! たぶん、バードさんですね」
「な、なんで、わかるんですか?」
純粋なアリッサちゃんの疑問に、僕は鼻を高くして答えた。
「超能力。ちょっと待っててくださいね」
「……でも私、そろそろ帰らなくちゃ」
ウリナさんは旦那さんが夜のお仕事をしているため、他の人たちの生活リズムと少しズレている。彼女は睡眠時間を削って、僕たちのところに遊びに来てくれていた。
「お見送りしますよ。一緒に玄関まで行きましょう」
「わ、私も行きます」
立ち上がったアリッサちゃんは、勇者様の背後に素早く回って車椅子のハンドルを握りしめた。
「ありがとう。それじゃあ、皆でバードさんを出迎えましょうか」
ダイニングは不思議な一体感に包まれた。僕は念のため、暖炉につけられた鉄製の扉を閉めてから玄関へと向かった。




