38 首飾りとペンダント
勇者様は2つの魔法が使える。ひとつは『アルハギク・アルハギト』という魔石破壊魔法で、もうひとつは最強最悪の魔王破壊魔法。とある高名な学者先生によると、この2つの魔法は同種のものということらしい。その学者先生は首飾りとペンダントを使って、獣使いの美少女に2つの魔法の違いを教えてくれた。残念ながら、獣使いの美少女が人よりも物分かりが悪かったため、それ以上のことは理解が出来なかった。
勇者様にプレゼントしたあの水晶の首飾りは、魔王を討伐した時に粉々に砕け散ってしまったけれど、僕がウーリール先生に貰った不思議なペンダントは無事のままだった。
明るすぎることもなく、火のように揺れたりもしない、優しい色の光を放つペンダントは、今日もベッドサイドのテーブルから就寝前の僕たちを妖しく照らしてくれた。
「どうですか、ノト君? 眩しくないですか?」
「んん……」
隣で横になっている勇者様は、ゆっくりと首を縦に振って答えてくれた。僕は彼の柔らかい頬っぺたにわざと大きな音を立ててキスをした。
「マリアさんとウーリール先生、今頃どうしてるんですかね。また、会いたいです」
「んん……」
2人のことは毎晩のように思い出す。魔王との決着がついた直後、大きな屋根付きの馬車で駆けつけて、重傷を負った勇者様の治療をしてくれたのも彼女たちだった。
聞いたところによると、魔王討伐後の世界は大混乱だったらしい。各国は自国の体制を立て直すことに手一杯で、勇者様に報酬をだとか、式典をだとか、そういう話は一切来なかった。こっちはこっちで勇者様の本格的な治療のために一旦聖都に戻ったりして、それなりに忙しくしていたから逆にその方が都合は良かった。
聖都に戻ってから1週間で勇者様を乗せた馬車が、バハティエに向けて出発することになった。手綱を握ったのはハンスさんで、馬車に乗り込んだのは勇者様と僕とフレディ君、それからマリアさんとウーリール先生だった。
マリアさんは新婚旅行だと言って大はしゃぎしていても、美味しいご飯を毎食きっちり作ってくれたし、ウーリール先生はフレディ君に異常に懐かれながら、難しい話を諦めずにしてくれた。その話の中には正典に記された預言に関する話もあったりして、僕と勇者様が暮らすのはバハティエが最適なんだという内容の話を500回ぐらい聞かされた。
ハンスさんもそうだけど、あの2人がいなかったら、僕と勇者様はこうして並んでベッドに入ることもできなかった。正直言うと、3人とも普通に生きていたら関わらないタイプの人たちばかりだ。それでも、この人たちから受けた影響は僕の人生にとっては大きい。少し前にハンスさんが人から受けた影響をうんたらすんたらと言っていたけれど、その通りなんだと思う。特にマリアさんの超プラス思考は今でも大いに参考にさせてもらっている。
冷たい夜の風が寝室の窓を打ち付けた。バードさんのおかげで隙間風が入ってくることはなかったけれど、暦はすでに冬に入っている。心配になった僕は勇者様に声をかけた。
「寒くないですか?」
「んん……」
「寝返りが打てなくて苦しいとか、ありますか?」
「んん……」
「ん~、だいちゅき……」
今夜も今夜とて、僕たちは人には絶対に見せられない、濃厚な愛を育む時間に耽った。




