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僕だけの勇者様  作者: ふるみ あまた


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21/64

21 ウリナさん

 

 家に帰っても誰かが訪ねてきた形跡はみられなかった。だけどフォリアさんもブレンダさんも来ないという日はない。彼女たちのどちらかが訪ねてくるまでいかにして待つか、僕は勇者様に相談することにした。


「どうしましょう……僕たちもラブラブしましょうか? あの2人みたいに」

「む……」


 ストルさんとウリナさんは今頃あの馬小屋付きの家の中で……。僕は甘美な想像を膨らませながら勇者様の手指のマッサージを始めた。


「それにしても中は冷えますねぇ。この家にも聖都みたいにしっかりとした暖炉があればなぁ……」

「むぅ……」


 勇者様は僕の意見に同意してくれた。



 ダイニングとキッチンのある石造りのこの部屋は広々としていて寒い。村の一番北にある高台という立地条件のおかげで夏は快適に過ごせたけれど、反対に冬は厳しくなりそうだ。


 ダイニングの壁際には炉が設置されている。でもこの炉は暖炉と違って煙突が短くて排煙口が大きいために部屋がまったく温かくならない。


 木造で狭いけれど日光がたくさん入る寝室の方がよほど暖が取れる。かといって勇者様をそこで寝かしっぱなしにしておくようなこともしたくない。


 やはり暖炉。今欲しいものはここで暖の取れる設備。



 思い悩みながらマッサージを終えた僕は、寒さ対策の一環として延々と勇者様に頬ずりをした。どれくらいの間そうしていたのかはわからないけれど、玄関の扉が叩かれるまでその行為はやめられなかった。


 僕ぐらいになるとノックの音で誰が訪ねてきたのか大体わかる。だけど今回は誰が来たのかさっぱりわからなかった。聞き馴染みのない重たい音色がしたからだ。僕は少しだけ警戒しながら玄関まで行き、そっと扉を開いた。


「やってくれたなぁ……」


 扉の向こう側に立っていたのは仏頂面の美男美女だった。男性の方は両手にニンニクの束をたくさん抱えているハンスさんで、女性の方はさっき会ったばかりのウリナさんだった。


 まず見ることのない取り合わせの2人。そんな2人の怒りの矛先がなぜ自分に向けられているのか。僕は不審に思いながら尋ねた。


「な、なんですか?」

「何ですか、じゃない!! 何で俺を置き去りにした!? とんでもないぞ、あの家!! 上の娘から延々と懇切丁寧に、丸1日かけて紹介され続けた俺の身にもなってくれ!!」


 僕はそこで思い出した。そういえば、昨日そんなこともしたっけ。だけどあれは僕なりに考えがあってしたことだった。


「いやぁ~、冒険では味わえない日常におけるスリルとショックを……じゃない、ハンスさん、結婚したがっていたみたいですし、僕としては良かれと思ってですね……」

「はぁ……もういい。これ、あの家の奥さんに届けるように頼まれたんだ。受け取ってくれ」


 僕は差し出された大量のニンニクを受け取った。ウリナさんの方はといえば言葉の一つも発さずに眉をひそめて僕を見下ろすばかりだった。


「それで……ウリナさんは、どうされたんですか?」

「知らん。ここでずーっと立ってたから、代わりに扉を叩いてもらった」

「えっ!?」


 ウリナさんには失礼かもしれないけれど、ハンスさんが説明してくれた光景を想像した僕は戦慄した。さすがの冒険者、ハンスさんは少しぐらい不気味な光景を見たぐらいでは動じなかったらしい。


「ま、まあ立ち話もなんですし、お2人とも中へ入って温かい飲み物でもどうぞ」


 もしかしたら新しい交友関係を築けるチャンスかもしれない。そんな迂闊なことを考えながら僕は2人を招き入れた。





 ウリナさんとは似た者同士だと思っていた。一途なゆえにすぐ嫉妬しちゃうし、美人でおしとやかでナイスバディだし、そういう共通点もあって僕は彼女に親近感を持っていた。


「……あなたみたいな明るい人は苦手です」


 いきなりこれを言われた僕の気持ちを考えてみてほしい。こんな面と向かって、しかも仲良くなれると期待していた相手からそんな事を言われてしまった僕の心は深く傷ついた。


「え、え、え?」


 何も言えない。陶器で頭を殴られたかのようなショック。めまいすら感じる視界の中で僕は不安定に声を震わせることしかできなかった。


「でも、私……あなたみたいに明るくなりたいの。あの人のために」


 その衝撃は僕の全身を貫いた。ウリナさんはプライドをかなぐり捨て、自ら苦手だと公言する女に頭を下げに来た。状況は一気に変わった。こんなにもいじらしい人を放っておいてはならない。正常な視界を取り戻した僕の心は使命感に燃えた。


「よかったら、席をはずそうか?」

「そうですね……いや、ハンスさんはお暇でしたら、そこにある炉を改築して聖都にあったような暖炉を作ってください」


 どさくさに紛れて思いついたことを口に出した。ハンスさんは物知りだし力もある。彼にお願いすれば出来ない事もない気がして頼んでみた。


「またさりげなくとんでもねぇことを頼んできたな。聖都にあったのは暖炉じゃなくてストーブだから無理だよ。材料がない」

「じゃあ、ハンスさん流でいいので暖炉をお願いします。お金が必要だったらお支払いしますので」

「……いらないよ。やるだけやってみるけど、期待はしないでくれ」

「ありがとうございます!!」


 愛想は悪いけど実は優しいハンスさんはいつものように鼻で笑うと外に出て行った。


「……暖炉って何?」

「それはですね……完成してから説明します」


 ウリナさんとの短い問答を終えると、外から2つの笑い声が聞こえてきてた。どうやら今日は2人同時に訪問してくれたみたいだった。


「アリー!? いるかい!?」


聞き慣れた音で扉を叩いたのはブレンダさんだった。ここに来るまでフォリアさんと楽しく雑談をしていたらしく上機嫌な声をしていた。


「はーい!! ちょうどよかった。そのお悩み、彼女たちにも聞いてもらいましょう」

「え……」

「大丈夫。口は軽いですけど、経験豊富なお2人ですから。口の軽い人たちですけど、僕だけに相談するよりも、ずっと良い未来になることを保証します。口は軽いですけどね」

「アリー!?」

「はーい!!」


 強引に合意を取り付けた僕はブレンダさんとフォリアさんの待つ玄関へと再び足を運んだ。





「何なの、これ!? こんなところに置きっぱなしにして!! ニンニクはちゃんと風通しの良い所に吊るしておかないとダメじゃない!!」

「は~い……」


 いきなりブレンダさんに怒られた。テーブルの上に置きっぱなしにしていたニンニクは僕が手を付けるまでもなく、ブレンダさんが動いてくれて勝手口の方に運びに行ってくれた。


「アリー、アンタうちの弟子をスカウトしたんだって? そういうのは私にひと言断ってからするのが筋ってもんじゃないの?」

「す、すいません……」


 勇者様の頬を愛おしそうに撫でるフォリアさんに立て続けに叱られた。考えてみるとそれはそうだ。弟子ということは後継ぎにするつもりで育てているということなのだから。それを僕が横取りするような形の話を持ち掛けてしまったわけだから、彼女の指摘はごもっともだ。


「ふふっ、いいよ。最近あの子、悩んでたみたいだから。おかげでいい顔つきになってくれた。あの子がこの村に居ついて薬草の知識をきちんと活かしてくれれば、私はそれでいい。それで、どうしてウリナがここに? 今日はストルのところには行かなかったのかい?」


 懐の広いフォリアさんは僕の事を許してくれて今度はウリナさんに話を振った。肝心の彼女は両手を膝の上に置いて顔を赤くさせてうつむいていた。


「今朝、ストルさんのところには行ってきたんですよね? それで彼女、ちょっと悩みごとがあるみたいで。僕のところに相談をしに来てくれたんです」

「相談? アンタに? 何の?」

「相談です。僕に。恋の」


 恋というワードを聞いたフォリアさんは顔色を変えて台所の方に顔を向けた。


「ブレンダ、ちょっと来てくれる?」

「はいよ!!」


 世代を超えた田舎女子たちによるパワー会議が始まらんとしていた。

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