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僕だけの勇者様  作者: ふるみ あまた


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20/64

20 ストルさん

 

 翌日、僕と勇者様はバハティエの外れにある墓園を訪れた。この場所には彼のご両親が眠るお墓がある。昨日アリッサちゃんと交わした将来の約束を果たすための願掛けの意味も込めて、本格的な冬が来る前に今年最後のお墓参りをしておこうと思ってのことだった。


 管理人の仕事が行き届いている墓園はいつ来てもとても綺麗で、墓地特有のおどろおどろしい雰囲気もなく、穏やかなひだまりに包み込まれていた。僕は静かで落ち着いたこの場所が結構好きで、月に最低でも1回は訪れることにしている。


 勇者様のご両親の墓石は墓園に入って右から3列目、奥から2番目にある。そこまで辿り着いたらまずはいつもの御挨拶。両手の指と指を組んで僕の命の恩人であり、最も愛する人をこの世に生み落としてくれたお2人に感謝の祈りを捧げる。


 墓石はほとんど汚れていなかった。お掃除は乾いたボロで石の表面を軽く拭くだけに留めて、僕はもう一度、今度は両手を合わせて本日のメインイベントでもある願掛けを執り行った。


「お義父様ァ、お義母様ァ!! 僕とノト君の、そしてまだ見ぬ孫の教育の為にも!! どうか!! お金がたっくさん貯まるように、お願い申し上げます!!」


 墓地で叫ぶなんていう行為は全世界の常識から外れている。そんなことはわかっているけど、僕は勇者様の御両親の墓前で喉がはちきれんばかりに声をあげさせてもらった。まわりに誰もいなかったからできることでもあった。


「あは……」


 僕が大真面目にやっているのに勇者様は身体を揺らして笑った。


「おかしくないですよ!? 僕たちの将来の為でもあるんですからね!? それとも、あなた……まさかアリッサちゃんと浮気してるんじゃないでしょうね!?」

「!?」


 僕の問いかけに勇者様はさっきよりも力強く身体を動かして否定した。


「本当に? あぁ、良かった……僕以外の女を見ないでくださいね?」

「あ……あむっ」


 僕は勇者様に抱きついて音がするほど強く彼の唇に吸いついた。


「あ……ありぃ……」

「……はい。僕も愛してますよ、ノト君。それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」


 上流階級の恋愛ごっこを終えた僕たちは墓地を後にすることにした。浮気がどうのなんていうのはもちろん僕のでっち上げだ。ただ昼間から野外で勇者様とそういう事をする口実が欲しかっただけだった。





 墓地を出て坂道を下るとすぐに馬屋のついた一軒家に突き当たる。この家では馬だけではなく犬も飼っているため、ここを通るたびに犬の鳴き声が聞こえる。今日はそれだけではなく、家の玄関前にある低い石垣の上で器用に横になって日光浴を楽しんでいる男性の姿があった。


「旦那の両親の墓参りなんて律儀だねぇ~、奥さん」


 その男性は切って干しただけのカボチャをバリバリとかじりながらワイルドに話しかけてきた。日々の労働がきついのか、目の下のクマと無精ひげがいつでも彼の顔にはあった。


「ストルさん、お仕事お疲れ様です」


 ストルさんは墓園の管理とトイレ壺の回収のお仕事をしている人だ。一見そうは見えない標準的な体型をしているけど主に夜に活動するお仕事を任されているということで、腕っぷしの方は勇者様を抜かせばバハティエで1番だと聞いている。御覧の通り、勇者様の前であっても横になったまま起き上がろうともしない態度を貫くストルさんは、実は僕と気が合うところも多かったりする。


「いやぁ~……ちっとも疲れてねぇんだよ、俺はパパパパパ!? ペッ、ペッ!!」


 疲れていないと言い張る割にストルさんは飼っている犬に咥えていたカボチャをかっさらわれ、顔を舐められても大きく抵抗する動きを見せることもなく倦怠感たっぷりに横になり続けていた。


「あぁ……今日のご飯、もう終わっちゃった……」

「あ、は……」

「ノト!? お前、もうそのつぶらな瞳に光を取り戻したのか!?」


 勇者様のわずかな変化に気が付いたストルさんはようやく起き上がって、人が変わったかのように大声を出した。


「そうなんです。ノト君、最近絶好調で」


 腕を組み、にんまりとした表情で勇者様を見るストルさんの姿は、まるでお宝の山を眺める盗賊のように見えた。


「ほーら、やっぱりな。俺は絶対そうなると思ってたよ。昔っからこいつは人の10倍働いて、それでもピンピンしてたんだから。ほんで食べる量は普通だろう? 参っちゃうよ。死んだおふくろによく比較されて怒られてたんだから。『お前は人の半分しか働いてないのにメシだけ2倍食ってる』って。なんにも言い返せなかった……今思い出しても悔しいねぇ」


 ストルさんは今日も僕たちを笑わせてくれた。実際のところ、彼は過酷な労働環境に身を置いている。農作業だったら雨が降った時に屋内で出来る仕事に切り替えることができるけど、トイレ壺の回収は決まりがあって、そうもいかない。雨だろうと雪だろうと嵐だろうと、彼は日々休むことなくその仕事をこなしている。それでいて愚痴を言うこともなく、会えばこうして笑い話なんかをしてくれる。僕は彼をとても尊敬できる人だと思ってる。


「いいなぁ、いいなぁ、俺も結婚したいなぁ~」

「ストルさんにはウリナさんがいるじゃないですか」

「おやすみっ!!」

「どうしてどうして!? 何でですか!? もしかして、照れてるんですか!?」

「違う違う。思い出したの。時間がほら、もう……あ」


 ストルさんの視線の先には、巨大な胸とお尻を携えた巨大な女性が僕たちを睨みつけるようにして立っていた。ストルさんよりも顔ひとつ分ほど身長の高いその女性こそがウリナさんだった。その手にはバスケットが握られていて、ほっかむりの下に伸びるダークブラウンの長い髪が丁寧に編み込まれてセットされていた。


「お久しぶりです、ウリナさん。僕たちお墓参りの帰りでして、ストルさんとは偶然お会いしてお話させていただいてたんです。ストルさん、あなたとそろそろ身を固めたいそうですよ?」

「……そうですか」

「僕たちはこれで失礼します。あとの時間はお2人で楽しんでくださいね」


 僕のフォローは無駄に終わったようだった。すれ違いざまのウリナさんはせっかくの美人な顔を口角の下がった口元と両眼に宿す嫉妬の炎で台無しにしていた。


「……やっぱり、小さい人が好きなんだ?」

「うんにゃ? 何の根拠があってそんな……前にも言っただろう? 人よりでかいとか、小さいとか、そういうのは関係ないって」

「楽しそうに話してた……私といる時よりもずっと……」

「ウリナ……そんな……ことを、わざわざ言葉にしちゃうお前だけが好き。それ、パン? 今日もわざわざ焼いてきてくれたの? 嬉しいなぁ。早く食べたいから、中に入ろうか。今日はどんな酸っぱい味がするんだろう?」


 対応としては80点というところだろうか。僕はフォローするストルさんを採点しながら家路についた。

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