14 天敵、再び
「昨日いただいた苗木なんですけど、さすがに見ただけじゃよくわからないとのことでした」
次の日、朝一番に訪ねてきたハンスさんを家に迎え入れた僕は、昨日フォリアさんに言われたことをそのまま彼に伝えた。
「そうか。ここの気候とよく似ている土地の木だから、大丈夫かと思ったんだが……」
ハンスさんは話しながら僕が昨日爆発させた鍋の余りを美味しそうに飲んでくれた。
「次に来た時にまた持ってくるから、とりあえず適当に植えてみてくれ」
「はい。そのままにしておくのもよくないみたいで、実はもう袋に入っていた土ごと庭に植えちゃいました。それにしても、どうして急に苗木を?」
僕たちがバハティエに定住するようになってからというもの、ハンスさんは毎月欠かさず大袋いっぱいの木の実を持ってきてくれている。それが昨日になって突然、どうして苗木なんかを持ってきたりしたのか。僕は素朴な質問をした。
「ま、俺もいつまで冒険者を続けられるか、わからないからな。もし俺に何かあっても、ここで木の実が取れるようになれば、困らなくなると思って」
「なるほど。それは名案ですね」
僕は思ったことをそのまま口にした。もしこの家で精霊の木の実が取れるようになれば、彼だって自分の為でもないのに毎月毎月危険の伴う冒険をしなくて済む。ハンスさんという人は頭も良いのだ。
「はは、だろう?」
ハンスさんは目を細めて笑いながら勇者様を見た。
「この調子ならノトも大丈夫そうだな。俺もそろそろどこかで落ち着いて、アリーちゃんみたいな素敵な嫁さんが欲しいよ」
「ふっふっふ……そう簡単に僕みたいないい女が見つかりますかねぇ?」
僕の冗談にハンスはちっとも笑ってくれなかった。その代わりに彼は新しい質問をしてきた。
「アリーちゃんはさ、ノトが勇者じゃなかったらどうしてた?」
「えっ……」
考えたこともないことを聞かれた僕は無い頭を絞り、勇者様の可愛らしいお顔を見つめながらその世界線に生きる自分の姿を想像した。
「えっと……今頃は、だから……ノト君と一緒に、ここで暮らしてるんじゃないですかねぇ?」
頭の中の僕は今の僕とあまり変わらなかった。もしかしたら、勇者様が勇者様じゃなかった方がありがたかったかもしれない。だけど勇者様が勇者様であることによって勇者様の良さを知れたわけだから、どちらがいいというわけでもないような気もする。それよりも大事なのは僕に素晴らしいことを教えてくれたノトという人に出会えたことだと思う。
「……そうか。変なことを聞いて悪かった。ところで、今年はこの村で年を越すことにしたんだ。教会の人たちに聖夜祭の準備を手伝ってほしいと頼まれてね」
1年の終わりの日の夕方から夜にかけて聖夜祭が開かれる。世界中の人々が最寄りの教会に集まって、この1年間生かしてもらってありがとうございました、と精霊様にも周りにいる人たちにも感謝を込めて祈る日だ。ちなみにその日は僕と勇者様が初めて手と手を繋いだ大切な記念日でもある。
「とはいえ、ひと月も先のことだから、しばらくは暇になりそうなんだ。何か困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ」
「それは助かります。よかったですね、ノト君?」
「あ、あん……」
コンコン、と固い音が鳴った。
「ごめんなさい、ちょっと外しますね」
僕はハンスさんをテーブルに残して、玄関に行って扉を開いた。
「あのね、マーはね、ノトしゃまにあいにきたの」
「あ~……」
ちょっとだけ嫌な予感はしていた。フォリアさんやブレンダさんが来るにしては時間が早すぎると思っていたから。早速ハンスさんの力が必要になった僕は静かに家の中に戻った。




