第八十七話
「それでは何なりと聞いてください。キマイラさん」
キマイラ掴まれたこめかみをさすりながらクラウが言った。
粗末な木製の椅子と机が置かれただけの部屋で、彼女は軍服を整える。
胸のあたりにはいくつもの勲章をぶら下げている。
「ヴィクトリアに聞いた。お前の作った物の情報が流れているそうだな。それも新型の武器の情報が。…なんで武器の製造になんて手を出した?」
キマイラの方はというとクラウに出された取っ手の付いた湯飲みに入った黒い液体をすすりながらそう言った。
香ばしい香りはあるがただひたすら苦い…
二人は顔をしかめるがクラウは平気な顔で飲んでいた。
「武器、特に銃器類の技術は昔からありました。とはいえ価格も製造時間も命中精度も酷い有様でしたから先の蛮族達との戦いでは使用されていませんが」
「答えになってないぞ。理由を聞いているんだ。俺は」
「…人間の火力の制御のために」
「制御…だと?」
「先ほども言いましたが、銃器類の技術は昔からありました。無論大砲の技術も」
「………」
「私が恐れたのはですね、その技術がいずれ我々魔術師をも超えるのではないか?ということです。誰でも扱えるうえ今の人間達は我々よりも圧倒的に数が多い」
「だからクラウちゃんが?」
「ええ、ですから私は五年前、銃やそのほかの特許を買い取りました。私が持っていた父の遺産を全て費やして」
「特許?」
キマイラが首を傾げた。
「特許とは主に政府が技術の発明者あるいはその権利を継いでいる人の権利を保護するもの…でしたっけ?」
「そうですミリーさん。で今回だと他の人間が研究するのを封じるのが目的でした」
「封じる、というならわざわざこんな工場を立てて研究やら製造やらをする必要なんてなかっただろう?」
「それは…」
「それは?」
深刻そうに彼女は呟いた後…。
「いやー研究し始めたら止まらなくなっちゃって!部品いじるのって案外楽しいんですよねッ!?」
やっちゃった、とでも言わんばかりの彼女。
言い終わるのとほぼ同じ瞬間、キマイラの指が再びクラウの顔に食い込んだ。
「おいクラウ。お前…」
「やらかしたのね…クラウちゃん」
額に手を当て、眩暈を押さえるミリーと紅い瞳を光らせつつ手に力を込めるキマイラ。
背の低いクラウは床から浮いている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!放してください!お願いします!!」
「お前の興味の為にこんなことをしてるなら、この工場は粉砕するか」
ちらっと部屋の扉の方をみる。
「ま、待ってください!それだけは!!」
「クラウおねぇちゃんをいじめるな!!」
突然扉が開いて一人の幼女が入ってきたかと思うと、木の棒をキマイラ目掛けて振り下ろしてきた。
「なんだ?」
クラウを離して、片手で棒を受け止める。
「かえれ!かえれ!」
「オリビア…」
何度もたたいてくるその幼女だったが、キマイラからしてみれば痛くも痒くも無い。
とはいえ鬱陶しいのには違いない、いい加減振り払おうとしたのだが…
「キマイラさんお願いします。傷つけないでください」
クラウが割って入り、オリビアと呼ばれた幼女を抱きしめた。
「殺す気はない」
「クラウおねえちゃんがわたしたちをたすけてくれたんだ!いじめるのなんてゆるさない!」
「助けてくれた?」
ミリーは頭に疑問符を浮べた。
「説明します。付いてきてくれますか?」
「ああ」
「わかった」
なにか理由があるのだろう、二人はクラウの後に付いていった。




