第八十六話
『クラウはスラウニアにいる。看板がくさる程あるから行けば嫌でもわかる』
ヴィクトリアはそう言っていた。
現在キマイラはミリーを抱えて空を飛び、スラウニアへ一直線に向かっている。
「クラウの奴、一体何を考えている…」
「分かりませんけど。何か理由があると思います。ですからキマイラさん」
「うん?」
「殴りかからないでくださいね?」
「…………」
「なんで返事しないんですか!?」
そんなやり取りを繰り返していると、目的地が見えてきた。
「ここには久しぶりに来たな」
複数の島で構成された都市。
それがスラウニアだ。
主に造船業、漁業が盛んな都市である。
最近は軍港も増えてきているとのことだったが…
「今は確か帝国が海軍力増強のために多額の資金を投資してかなり潤ってるとか」
「そのうちの一つがクラウの会社か」
「ですね」
キマイラは中央付近の島に降りた。
「臭い…」
「空気が悪いですね。ごほっごほっ」
地上に降りると、都市は喉や目が痛くなるような匂いと煙で覆われていた。
見れば複数ある工場と思われる建物の煙突から凄まじい量の煙がそこかしこから立ち上っている。
原因はあれだ。
「早く探すぞ。長い時間滞在したくない」
「同感です。っとこれですね」
ヴィクトリアに言われた通りに看板を探そうとしたがミリーの目の前にそれはあった。
「『マグワイヤ造兵厰』ここから北にまっすぐらしいです」
「……………」
「キマイラさん」
目を細めながら看板を見るキマイラに、ミリーは深刻そうな声で言った。
「なんだ?」
「その…本当に文字覚える気はないんですか?」
「ない」
キマイラは相変わらず文字を書いたり読んだりすることをしようとしない。
何度かミリーが読み書きを教えようとしたのだが…
『お前がいるなら大丈夫だろう』
とのことだ。
「はぁ…」
「どうした?ため息なんてついて」
「いえ、なんでもありません。行きましょう」
「ここですね。大きい」
「おまけに五月蠅いな」
暫く歩いていると周りの建物よりも圧倒的に巨大な工場が姿を現した。
騒音に耳を覆うがそんなものは殆ど効果は無い。
「中に入ってみましょう」
「おおい待った!!お前達何者だ!?」
ふと後ろから声が聞こえ、二人は振り返った。
「俺は警備の人間だ!すまんが許可は貰ってるのか!?」
「すいません!許可が要るとは知らなくて!ここにいるクラウ…クラウ・マグワイヤさんに会わせてください!」
騒音に負けまいとお互いに大声で話す。
「マグワイヤ少将に!?残念だが許可がないなら無理だ!帰ってほしい!」
そう聞こえたキマイラは警備員の所につかつかと歩いていき…
「…ッ!?……!!」
「??……?」
何やら耳元で呟いた。
「………」
訝しそうな表情をキマイラに向けながら工場の中に入っていく警備員。
「なんて言ったんですか?」
「いいからいけ、キマイラが来たと伝えろ。そう言った」
「そんなので通用するんですかね?というか…」
周りを見ると他の警備員と思われる人間が寄ってきた。
全員こちらにさりげなく視線を送っている。
「集まってきましたね」
「いざとなればやれる」
手をぽきぽきと鳴らしつつその紅い瞳に殺気を宿す彼。
だが彼が手を出す必要はなかった。
「おーいアンタら!!入っていいぞ!!伝えたら会いたいそうだ!!」
「ありがとうございます!!」
「大丈夫だったか」
「入りましょうか」
「こっちだ!!ついて来てくれ!!」
彼に促されるまま、二人は工場に入っていく。
「うわあ…」
「………」
金属製の重そうな扉を開けると二人は呆気にとられた。
巨大な機械が音を立てながら金属板を加工したり、木製の何かを職人とみられる人間が木を削っている。
ドレスリンに住んでいるキマイラ達はまず見ない光景だった。
「何やってるこっちだ!!」
「あ、ああすいません」
彼が急かし、二階に続く階段を上っていく二人。
そして上った先にある一つの部屋…
「こっちだ!挨拶して入」
「入るぞクラウ!」
「おいおいおい!!」
キマイラは警備員の注意を無視して入った。
「お久しぶりです!キマイラさん。あ、ミリーさんもいるんでッ!?」
爽やかな笑顔でつかつかと歩いていき…
クラウの顔にキマイラの指が食い込んだ。
素っ頓狂な声を上げつつキマイラに片腕で持ち上げられる彼女。
「お、おい貴様等!!」
「い、いいんですジョンさん!!と、とりあえず持ち場に戻ってください!!」
「し、しかし!!」
「行って!!早く!!」
「は、はいッ!!」
彼は慌てながらその場を後にした。
「痛い痛い!!痛いです!!キマイラさん!!お願いですから離してくださ…あぶっ!」
キマイラは手を離すと息がかかりそうな距離まで顔を近づけてこういった。
「きっちり話を聞かせてもらうぞ。クラウ」
クラウは涙目だった。
読んで頂きありがとうございます。
意欲向上の為、評価、ブックマークをしてくれると嬉しいです。
それではまた。




